中国アリババグループの支付宝(アリペイ)は日本でも知名度を増しつつある。そのイメージは、中国人訪日客とセットになった、インバウンド向け決済ツールだろう。

当初アリペイは、ネット通販首位・アリババの売り手と買い手の信用をつなぐ決済資金プールとしてスタートした。現在ではモバイル決済に留まらず、実に広範囲な金融活動を展開している。

今回、アリペイは銀行に取って代わるのだろうか?と題する記事をニュースサイト「今日頭条」が掲載した。実現するかどうかはともかく、アリペイが中国金融界のキーマンになっていることに疑問の余地はない。以下、アリペイと銀行の動向を探ってみよう。

銀行のイメージ悪化

中国経済,アリババ,アリペイ,支付宝,銀行,フィンテック
(画像=Freer / shutterstock.com ※2018年1月撮影)

いつのころからははっきりしないが、中国人の銀行のイメージはどんどん悪化していった。銀行のサービス、収益、資金の安全、などの神話は大きく傷つき、人々は反感を募らせた。顧客からの投書を分析すると

手数料が高い28.1%、事務手順を知らない28.1%、事務の手順前後18.8%、合理的解釈ができない12.5%、服務態度に差がありすぎ12.5%、サービス効率の悪さ10.9%、カスタマーサービスに電話がつながらない9.4%、顧客の損失に無頓着6.3%、などの声が上がっている。

アリペイの登場は、こうした銀行に不満を持つ個人客たちを喜ばせた。銀行のサービスをはるかに凌駕していたからである。

アリペイは、最初から決済の「簡単、安全、快速」の提供を考えて設計されていた。今やその利便性は圧倒的だ。上海の某日系スーパーでは、2017年末の段階でモバイル決済は全体の75%を占めた。残り25%を銀聯カードと現金決済で分け合っているという。

また小口金融、余額宝(MMF)など貸し借りもスマホ1つで自由自在だ。これは多くの人々にとって、新しい金融業の在り方に映った。

銀行とアリペイの4つの差異

現状、銀行とアリペイはどこがちがうのだろうか。

(1) 資金の出処の違い

銀行の資金とは、自行に留まらず他行も含めた、銀行システム全体の中にある。これに対して支付宝の資金は、投資信託、金銭信託、金証券などの形をとっていても、通過しているだけに過ぎず、それはシステムとは呼ばない。

(2) アリペイは銀行ではない

アリペイは銀行ではない。しかしアリババグループ内には「網商銀行」がある。顧客との物理的結接点のない純粋なネットバンクである。アリペイが銀行を所有している、と言えるが、網商銀行の銀行としての影響力は大きなものではない。

(3) 監督管理当局が異なる

銀行の監督機関には中国人民銀行(中央銀行)と銀行業監督管理委員会がある。アリペイの監督機関は、人民銀行だけである。2018年4月から、アリペイの1日当たり使用限度額を、500元と定めたのも、人民銀行だった。

(4) サービス提供の範囲の違い

銀行は国家から、慈恵金融(Incrlusive Finance/貧困層への金融機会向上)の責任を担わされている。銀行は顧客をすべて自分で選べるわけではない。また文字の認識や、会話のできない人たちに対しても、金融サービスを断ることはできない。一方アリペイはオンライン端末を扱えることが前提となっている。

衝突から共存へ、人民銀行の采配に注目

明らかにアリペイと銀行は“衝突”している。各銀行は、現金需要の減少により支店やATMなどの縮小、人員整理を迫られている。その一方で全銀行がオンライン口座を拡大し、ネットバンク化、リテールバンク化を目指している。

一方アリペイは、銀行口座に依存している。今や中国では、日本人駐在員の夫人たちもアリペイを使用している。そのためには銀行個人口座の開設が必要だ。銀行は口座数を伸ばしたのである。

またアリペイは資金管理と運用のために銀行を必要としているし、銀行は融資のためにアリペイの資金を必要としている。

今後の展開は、共通の監督機関である人民銀行の采配に左右されることになる。人民銀行は、アリペイの1日使用限度額、余額宝の預入限度額など、さまざまな規制を設けている。その人民銀行が、銀行を介さない独自の結節点(支店や銀行口座)の開設を認めることはなさそうである。あたらしい金融の旗手として期待しながらも、完全なコントロール下に置こうとしている。

記事はアリペイが銀行に取って代わるには、まだまだ長い道が横たわっている、と結んでいる。ただし当面の間、金融界の焦点であり続けるのは間違いなく、この種のニュースは絶えそうにない。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)