(本記事は、冨田和成氏の著書『稼ぐ人が実践している お金のPDCA』KADOKAWA、2018年5月26日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
【『稼ぐ人が実践している お金のPDCA』シリーズ】
・(1)「お金の悩み」を開放する「究極のヘッドライト」とは?
・(2)「どうしてお金が必要なのか?」プライベートバンクが教える資産運用の原則とは?
・(3)お金と時間、どちらが大事?「USJ」に見る時間価値
・(4)年収1000万は「損」?富裕層が「教育」に投資する本当の理由
・(5)なぜ、富裕層は「現金払い」より「ローン払い」を好むのか?
時間はお金で買える―時間資本
私たちは、よく「お金をムダにした」「時間をムダにした」と言います。これは投資や消費でなく、浪費になってしまったことを指しています。一方で「◯◯にお金を使うのは自分への投資だと思っている」「△△に時間を割くことは自分への投資だと思っている」などという表現もします。これは浪費でも消費でもなく、投資になっているということです。
一方、お金と時間は、反比例する傾向もあります。たとえば、学生時代は時間がたくさんあってもお金は十分にない。一方、社会人になって働き始めると、お金はあってもそれを使う時間はなくなっていきます。
また、お金のリターンが高い仕事は、拘束時間が長いケースが多く、逆に拘束時間が短いケースでは、お金のリターンが小さかったりします。大手広告代理店、大手商社、外資系金融機関やコンサルティング会社などは、給与はものすごく高い代わりに、かなり拘束時間が長いと容易に想像できると思いますが、実は時給換算すると、世の中の一般企業と変わらない、もしくはそれよりも低いといったケースも見受けられます(もちろん、これらの業界は、それ以外に「〇〇出身者」ということだけで信用が付いたり、厳しい競争環境の中で人的資本も高まったりといった大きなリターンも考えないといけません)。
他にも、結婚をして家族ができると夢や目標をあきらめざるを得ない人が増えてきます。その多くのケースは、維持すべき必要なお金の額が上がり、そして、家族との時間が増えたことで、夢や目標に使える時間が少なくなることが原因ではないでしょうか。
お金と時間、どちらが大事か?
「働き方改革」や人生100年時代により見直しが進むワーク・ライフ・バランスも、言い換えればワークは稼ぐこと(お金)、ライフはどう生きるか(時間)です。
さらに副業が解禁されていけば、メインで働く会社の勤務時間以外の時間もお金のために投下することができるようになるので、お金と時間のバランスでもあるワーク・ライ フ・バランスをより真剣に考えることになるでしょう。
ドイツの世界トップクラスのマーケティングリサーチ企業GfKが世界17カ国の2万2000人を対象にした調査(GfK「Attitudes around materialism」)によれば、「お金よりも時間のほうが大事」と考える人が大多数を占めました(唯一、日本人だけが「時間よりもお金のほうが大事」と答える人のほうが多いのですが)。多くの人は、時間はかけがえのないものだと考えているのです。
生きていく上でお金は重要ですが、時間にもお金と同じ程度、あるいはそれ以上の意識 を向ける必要があります。「時間」は個人のB/Sにレバレッジをかける存在だからです。
最も効果的なのは、人的資本にお金と時間を投資すること。知識・スキル、健康、人脈、信用につながるものに、もっとお金と時間をかけることで、人的資本が大きくなり、給料アップなどのリターンとなって返ってきます。たとえば、休日の10時間を仕事のための勉強や語学、または人脈の構築などに充てる人と、休日の8時間はだらだらと過ごして、残りの2時間だけを人的資本に投下する人とでは、いずれ稼ぎ力の面で大きな差が開いているはずです。
経営者の積極的「時間のM&A」
ソフトバンクが企業買収をする際、社長の孫正義氏はしばしば「私たちは時間を買うんだ」と言います。これは個人レベルでも同じことです。誰かからモノやサービスを買うときは、実は時間を買っているケースが多いのです。時間のM&Aと言ってもいいかもしれません。
自分の会社の近くに住むことも、「時間を買う」ことになります。現在、私と交友のある30~40代の経営者は、会社の近くに住んでいる経営者が非常に多いです。なかには、オフィスが入っているビルの別フロアに住居を構える「徒歩0分」の猛者もいます。そんな社長たちに起業する前の住居を聞いてみると、勤めていた会社の近くにあるボロボロのアパートや極小のワンルームだったという人がほとんどです。
なぜ住環境を犠牲にしてでも会社の近くに住むのかと言うと、答えは明快です。通勤時間ほどムダなものはないと思っているからです。ビジネスで成果を出す人は、四六時中仕事のことを考えられる環境に身を置き、大きく成長を遂げていくのです。
増え続ける「時間を生むサービス」
時間の”M&A”を徹底させ始めると、1日に2~3時間くらい、月にして60~90時間くらいはすぐに節約できてしまいます。毎日夜遅くまで働いている人でも、考え方と決断次第で新たな時間をつくり出すことはできるのです。
お金自体に価値はないですが、活用の仕方次第では本当に強烈な力を発揮します。お金さえあれば時間はつくり出せてしまうのです。
都心に職場がある人も、お金さえあればオフィスの近くに住むことが可能です。もしくは駅近に住めば、通勤時間は短縮されます。住む場所を変えるだけで、自由にできる時間は増えるでしょう。
本を読みたいと思ったとき、お金がないと図書館で借りることを考えるかもしれません。ただし借りるとなると、図書館に行く必要があります。
一方、Amazonなどで購入すれば、翌日には自動的に手元に届きます。電子書籍を買うとなれば、さらに時間は短縮され、端末にダウンロードするまでの時間を入れても数分しかかかりません。
こんな例もあります。
自分で旅行をアレンジするのはとても時間がかかるものです。
そこにニーズを見出した旅行会社が、オーダーメードの旅を計画するサービスを提供しているのです。通常の旅行よりも割高ですが、準備時間の節約に加え、実際の旅程でも効率的に動けるようにプランが練られていると言います。
これなども、お金を払って時間をつくり出す方法の1つと捉えていいでしょう。
USJに見る時間価値
時間を人的資本の最大化に投下すれば、結果的にそのリターンは大きくなります。
ということは、時間の最大化にお金を投資すれば、そのリターンも大きくなっていきます。時間価値をどのように最大化するか、もっと真剣に考えていく時代となっていくのです。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)には、「ユニバーサル・エクスプレス・パス」というチケットが販売されています。
一般のチケットよりも割高だけれど、行列に並ぶことなく優先的にアトラクションを楽しめる、というものです。価格は日々変動していますが、たとえばある日のチケットの値段は1万200円と少々高めなのに、評判はよく、売れ行きは好調だそうです(休前日は1万4800円など変動があります)。
混んでいる日は、1時間半待ちなどもざらです。チケットを買うことにより購入できる時間量が上がるわけですから、価格が変化するのは理にかなっています。
これは、ピークによって値段が変わるホテルや航空券などに近い感覚と言えるでしょう。
ここにもお金と時間の関係が如実に表れています。普通のパスを買い、長蛇の列に並ぶのか、それともお金をかけて列に並ぶ時間を省くのか......。
この例からもわかるように、お金をかければ時間を節約することができ、そうでなければある程度の時間を費やすことを覚悟しなくてはなりません。
ちなみに、東京ディズニーリゾート(TDR)には、「ファストパス」というチケットがあります。これも行列に並ぶことなく優先的にアトラクションを楽しめるという意味で同じですが、ファストパスは早い者勝ちで、すべての入場者に平等に権利が与えられています。
そういう意味ではTDRは民主主義的と言えますが、USJの場合は、お金を多く払う人は時間を買うことができるという意味で、より資本主義的と言えます。
ビル・ゲイツが「ファーストクラス・ビジネスクラス」に乗らない理由とは?
「ぜいたくすること」と「時間を買うこと」の差について、マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツの話で有名なものがあるので、紹介します。
世界一の富豪である彼は、時間を節約するためには出費をいとわないと言います。
そんな彼ですが、飛行機に乗る段になると、ファーストクラスやビジネスクラスを利用せず、エコノミークラスを利用するそうです。なぜなら、ファーストクラスに乗ってもエコノミークラスに乗っても、目的地に着くまでの時間は同じであり、高いお金を払っても時間を節約できるわけではないからです。
実際は、目的地に到着後、最初に降機でき、預けた荷物も最初に出てくるという利点はあるでしょうが、エコノミー料金とビジネス料金の差を埋め合わせるほどのものではないと判断しているのでしょう。
もちろん、ビジネスクラスに乗れば、エコノミークラスと違い、快適に過ごせるでしょうし、集中して仕事もしやすいので、その時間の部分をどう考えるかということで比較し選択しているのでしょう。
冨田和成(とみたかずまさ)
神奈川県出身。一橋大学在学中にIT分野で起業。2006年大学卒業後、野村證券株式会社に入社。本社の富裕層向けプライベートバンキング業務、ASEAN地域の経営戦略担当等に従事。2013年3月に野村證券を退職。同年4月に株式会社ZUUを設立し代表取締役に就任。