(本記事は、ピョートル・フェリークス・グジバチ氏の著書『Google流 疲れない働き方』SBクリエイティブ、2018年3月16日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

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Google流 疲れない働き方
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

グーグルは「相手を含めたマインドフルネス」を重視する

僕は、2011年にモルガン・スタンレーからグーグルへ転職しました。グーグルでもマインドフルネスの考え方を日々の仕事に取り入れるようになっており、「瞑想しましょう」、「自分の心身の状態を整えよう」ということが盛んに言われていました。

この頃、グーグルで行なわれていたマインドフルネスは、「自分」にフォーカスしたものでした。

もっとも、「自分」とはいっても自己中心的というわけではありませんでした。

たとえば、飛行機に搭乗すると、緊急時の酸素マスクの使い方が説明されます。もし、乗客が子どもを連れているとしたら、忘れてはならないのは”Put your oxygen mask on first.”。つまり、親が最初に酸素マスクをつけなさいということです。

親が酸欠になって気を失ってしまったら、子どもの面倒を見る人がいなくなってしまう。だから、まず自分の状態を整えなければなりません。これは自分を最初にしたとしても、自己中心的ではありません。

マインドフルネスは日本を含めて世界的に広がっていきましたが、結果的に「自分の状態を整える」ということばかりに注目が集まってしまったきらいがあります。

しかし、疲れない組織のためには、それでは足りません。

そこで、グーグルでは「相手を含めたマインドフルネス」も積極的に取り入れていくことになり、僕も研修のためのカリキュラム作成を担当しました。

グーグルでは、マネージャーが学ぶべきことを「re:Work」というサイトにまとめていますが、その「Understand emotional intelligence and compassion」(感情的知性と思いやりを理解する)という項目がそれです。

Sympathy、Empathy、そしてCompassion

Google流 疲れない働き方
(画像=SFIO CRACHO/shutterstock.com)

グーグルの「Understand emotional intelligence and compassion」について簡単に解説しておきましょう。

ここで言わんとしているのは、感情を含めて相手の状態を感じ、理解し、働きかけるということ。

当たり前のように思うかもしれませんが、これができている人は意外に少ないのです。

もう少し詳しく説明すると、このプロセスは「Sympathy」「Empathy」「Compassion」の3段階に分けられます。

「Sympathy」というのは「同情」。
「Empathy」は「共感」。
「Compassion」は「思いやり」です。

似ているように思うかもしれませんが、この三つは微妙に違います。

まず、第1段階の「Sympathy」。これは困っている人を見たら、「可哀想だな」「気の毒だな」と感じることです。英語でいうと、I feel for you.です。

部下や同僚が悩んでいたり、トラブルを抱えているのであれば、「いい気味だ」とか「自分は関係ない」と思うのではなく、まずは「Sympathy」を持つ。他者を含めたマインドフルネスはそこからはじまります。

第2段階の「Empathy」は、相手と同じ立場に自分を置いて、感情を共有することです。英語では、I understand you.となるでしょうか。

「Sympathy」の段階では、相手の悩みはまだ他人事です。それを自分事へと変換していくのです。

「あんな予想外のトラブルに自分が見舞われたら、ヘコんでしまうなあ」
「なかなか業績が伸びなくて焦る気持ち、わかるわかる」

そういう感情移入が「Empathy」なのです。

最近の脳科学によって、「Empathy」のメカニズムも分析されはじめました。

たとえば、痛みで苦しんでいる人の画像を被験者に見せると、被験者が痛みを感じる際に使われる脳の領域も活性化されることがわかっています。

しかし、共感には副作用があります。あまりにも共感しすぎてしまうと、自分の脳も同じように痛みを感じ、それがストレスとなって「燃え尽き症候群」になってしまうことがあるのです。

そこで、「Compassion」です。これは単に共感するのではなく、相手を助けてあげたい、そういう温かい気持ちを持つことを指します。英語でいうと、I want to help you.です。

面白いことに、ある研究によれば、短期間の「Compassion」トレーニングを受けた被験者は、短期記憶のトレーニングを受けた被験者よりも、積極的に他者を助ける行動をとるようになったということです。「思いやり」は鍛えられるんですね。

相手から思いやりを感じると、人は心理的安全性を得ます。そういう状態に脳がなって初めて、「自己開示」ができるようになります。

自己開示ができなければ、悩みも話さないし、自分が求めていることも言わないし、自分の価値観を言葉にすることができません。

自分はどんなことで悩んでいるのか、求めているのは何か。どんな価値観を持っているのか。それを開示しない人間関係を「ビジネスライク」だと考えている人もいるでしょう。

しかし、「仕事だから本音を言わない」「会社では感情を見せない」というのはビジネスにおいては致命的に危険なことです。

信頼できない人間関係においては、コミュニケーションがスムーズにいかず、情報が流れません。不都合な情報を隠したり、偽装したり、ありとあらゆるデタラメが出てくる可能性があります。

「相手を含めたマインドフルネス」は今日から実践できる

グーグルでは、マネージャー向けの研修で「思いやり」の重要性を強調しています。

誤解してほしくないのですが、これは特別な手法でもなければ、グーグルだからできるということでもありません。相手のことを思いやることで、仕事がとても楽しくなる。本来は、とても単純なことのはずなのです。

それなのに、日本では「働き方改革」と大上段に構えた言葉を使ってしまう。

「働き方改革を行なうために、プロジェクトチームを立ち上げましょう」
「グーグルをモデルにした人事制度をつくり、2年間かけて改善に取り組みます」
「働き方改革の200ページの企画書を書きました。これから関係者に根回しします」
......などなど。

どうも日本人は物事を複雑に考えてしまう傾向が強いようですが、もっと単純なことなのです。たとえば、あなたが上司や同僚から思いやりのない扱いを受けたとしたら、彼らを信頼する気になるでしょうか?

ピョートル・フェリークス・グジバチ
ポーランド生まれ。2002年よりベルリッツにてグローバルビジネスソリューション部門アジアパシフィック責任者を経て、2006年よりモルガン・スタンレーにてラーニング&ディベロップメントヴァイスプレジデント、2011年よりグーグルにて人材育成と組織開発、リーダーシップ開発などの分野で活躍。現在は独立し、プロノイアとモティファイの2社を経営。著書に『0秒リーダーシップ』(すばる舎)、『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか』(SBクリエイティブ)。