家族3世代で行きたい穴場スポット~安い&楽しい
地元千葉県だけでなく、日本中から客が押し寄せる、船橋市のふなばしアンデルセン公園。広さは東京ドーム8個分。童話作家アンデルセンのふるさと、デンマークをモチーフに、船橋市が190億円を投じて作った公園だ。
2015年、世界最大級の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」のランキングでUSJを押さえて3位になったことで、一躍その名を知られ、千葉の郊外に年間80万人を呼び込んでいる。
<客を魅了する秘密・その1>は「年中咲き誇る花」。アンデルセン公園のシンボル、風車の前の広場「メルヘンの丘」は、チューリップ、パンジー、ビオラなどの花々が咲き乱れ、カラフルな世界を作り出していた。その周りには、のんびり絵を描いている人たちがおり、花々の真ん中では新婚夫婦が写真を撮っていた。結婚式の事前撮影でこの場所を選んだという。
園内では四季を通じて常に100種類、5万株の花を楽しむことができる。春には800本の桜が咲き誇り、夏はひまわり、秋はコスモス、冬には雪の中にチューリップが。球根を冷蔵処理して開花時期を調整した「アイスチューリップ」という特別な品種で、冬も彩り豊かにしているのだ。
20人以上のスタッフが花を植え替え、常に見頃の景色を作っている。
「お花を見に来たお客様は、去年と同じだと面白くないので、『今年はこれがある』という品種を必ず入れるようにしています」(花緑係・藤田司)
今年入れた花に、トラブルが発生した。植え替え用に納品された金魚草。噴水の周りに植える予定だったのだが、発注したものより背の高い金魚草が届いてしまったのだ。すぐに業者に連絡し、再配達してもらうことに。再び届いたものを実際に植えてみると、噴水と花がお互いを邪魔せず一つに。施設の中で花が生きるよう、植え方にこだわっている。だから四季折々、「夢の国」のような眺めが生まれるのだ。
<客を魅了する秘密・その2>は「楽しみ方は自由」。「ワンパク王国」には毎日見られる名物の光景がある。テントの設営だ。こうした施設では珍しくテントがOK(大きさなどの制限あり)。開園から1時間もすると、広場はキャンプ場のようになってしまう。食べ物やお酒の持ち込みもOK。皆、自由が利く公園で自由に過ごしている。
ジェットコースターのようなアミューズメントはないが、子どもの遊び場はいっぱいある。日本最大級というアスレチックに、長さ70メートルの滑り台。「今日は何をして遊ぼうか」と、親子で選ぶことができる。
<お客を魅了する秘密・その3>は「コスパが最高」。入園料は大人900円、高校生600円、小・中学生200円、幼児100円。65歳以上のシニアは無料だ。園内では無料で遊べる場所が多く、お金をかけずに丸一日楽しめる。
有料の遊びも良心的な値段。ポニー乗馬体験や似顔絵、ミニ鉄道はいずれも100円。「レストランメルヘン」では、「牛肉と野菜のバーベキュー」が1500円で楽しめる。
仕掛け人は元市役所の職員~リピーター続出の理由
ふなばしアンデルセン公園の客のリピート率は7割に達するが、何度も来てもらうための仕掛けがある。
「子ども美術館」の中には、木工、陶芸、織物、版画、染物など、子供から大人まで幅広い層が楽しめる7つの「ものづくり体験」が用意されている。
織物のアトリエ教室では、昔ながらの機織り機を使って、自分の作品を織り上げる(体験料400円~)。小さなコースターから始め、徐々に大きい物にチャレンジしていくのだが、そこに「また来たくなる」仕掛けが。受講するたびにスタンプを押してもらえ、カードがいっぱいになると達人に認定され、写真が張り出される。さらに達人に3回認定されると、今度は「伝説」の称号を貰えるのだ。
「アンデルセンスタジオ」で始まったのは、アンデルセンの世界の「演劇体験」(300円)だ。この日の演目は「親指姫」。子どもたちは、かわいい衣装を貸してもらえ、フェイスペイントもバッチリ決めて、デンマークから取り寄せた本格的なセットのステージへ。みんな気分は主役だ。
園長の細谷順子(62)が駆け回っていた。この日は深い交流を持つデンマークの駐日大使、フレディ・スヴェイネさんが来賓としてやって来たのだ。細谷は大使の行く先々に先回りして不備がないかを確かめ、記念撮影の会場では率先して案内している。
細谷が園長になったのは11年前。もともとは市役所の職員で、公園の運営などズブの素人だった。しかし園長就任後、年間50万人ほどだった入園者を、東日本大震災を乗り越えて90万人にまで伸ばしてみせた。
「一度には無理なので、少しずつ自分の好きなようにやって、気がついたらこうなっていました」と言う。
花が溢れるテーマパーク~知られざる復活秘話
千葉・多古町。この日、細谷が訪ねたのは、花の種や苗を仕入れている「シンジェンタジャパン」成田シードセンター。新種の花だけでもおよそ100種類。その中から来年導入する物を選びに来たのだ。
今回、見たのは珍しいオダマキ。オダマキは青紫が定番だが、黄色や赤のオダマキは市場にほとんど出回っていないと言う。新種も欲しいが、花選びには「アンデルセン公園は広いので、小さい花を植えても目立たない。なるべく大きくてインパクトのある、目に入ってくる花を入れたい」(細谷)というポイントもある。
父親が公務員の家庭に生まれた細谷は、自分も高校を卒業すると船橋市役所に就職。教育や福祉の問題に取り組み、荒れがちだった成人式を若者主導に変えるなど、役所勤めにもかかわらず、自分らしさにこだわって働いてきた。
「『何かを残したい』というのがあって、自分の足跡を残していきたい」(細谷)
転機は52歳の時。市役所の一職員だった細谷に突然、ふなばしアンデルセン公園の園長という辞令がくだったのだ。
当時のアンデルセン公園は取り立てて特徴もないどこにでもある公園。何かを変えていかなければ、先細りしていくのは目に見えていた。
当時の上司、山﨑健二副市長は、「ものすごく陽気だし、企画力もあって、サービス精神が旺盛。こういう公園にぴったりなんです」と細谷を評する。
公園の運営など何も知らなかった細谷は、まず園内を歩き回ることから始めた。お客は何を楽しみに、公園に来ているのか。スタッフはどんな風に働いているのか。見て回るとあるおことに気づく。
「彩りがなく、緑しかなかった。空と緑の色しかなくて、寂しいなと思いました」(細谷)
細谷が園長になる前の年、アンデルセン公園は「全国都市緑化フェア」という一大イベントの舞台になり、園内には花が溢れ、大勢の客が詰めかけた。しかしイベント終了後、花は撤収され、色のない景色に。細谷はそこに大きなギャップを感じたという。
客を惹きつける花があれば……。ただ、当時花に使える予算は年間わずか400万円。広い園内を花で埋め尽くすのは不可能だった。
そこで細谷が考えたのは、民間企業にスポンサーになってもらい花壇を作ることだった。
「緑化フェアの時に企業出展の花壇があったことが記憶にあり、地元企業ならお金を出してくれるんじゃないかと思ったんです」(細谷)
早速、細谷は公園の職員たちにプレゼンしたが、反応は芳しくなかった。2008年のリーマンショックの直後とあって、景気はどん底。あきらめムードが漂っていた。
だが細谷は「やる前から諦めてどうするんですか。とにかく足を運んでみましょう」と、ポジティブな姿勢で周りを巻き込み、スポンサーを募る営業でも自ら先頭に立った。
すると予想に反し協力企業が現れ、1年目から18社が協賛。園内に「企業花壇」と呼ばれるコーナーが生まれ、その花につられるようにして入園者も増えていったのだ。協力企業は年々増え続け、現在は34社が花を提供している。
花の他にも、細谷が大きく変えたものがある。それはデンマーク産にこだわったお土産の導入だ。
この日はデンマークの商品を扱う代理店から、日本ではまだ売られていないチョコレートが持ち込まれた。5つ星パティシエが作ったアンデルセン童話にまつわるストーリーを持つ商品だ。品質と同じくらいこだわるのが、日本で最初に売ること。
「他がやっていることのまねをするのは嫌です。特にデンマーク関係で、新しいものは一番最初に取り入れたい。こういうチャンスを逃したくないんです」(細谷)
こんな信念を貫き、他にはないデンマーク産の商品が詰まったお土産売り場を作った。中でも一番人気は、幸運を呼ぶデンマークの妖精「ニッセ」の人形。日本でいえば座敷童子のような存在だ。
今やデンマークグッズを580アイテム以上販売し、デンマーク産の商品の品揃えは日本一となった。
こんな花は見たことない~熱狂ファンを生む独自戦略
花にこだわるアンデルセン公園。「コミュニティーセンター」では、季節の花を使った園芸教室を開催している。この日はいろいろな種類の花を一つの鉢に植える寄せ植え講座。
講師を務めるフラワーデザイナーの山口まりさんが、「少しだけ根を広げるようにちぎってください。新しい根を早く作ろうというホルモンが分泌されて、根が伸びていきやすくなります」と解説している。
花の踏み込んだ知識が身につき、料金も、使う花や鉢の料金込みで1500円とお手頃だ。
「自然観察会」も開催している。園内には珍しい花がたくさんある。例えば西アジア原産のユリの仲間「フリチラリア」。よく見ると、花の奥に濡れているような部分が。これは蜜が出てくる蜜腺。肉眼で蜜が見られる花はめったにないという。
「仁科蔵王」という名前の桜もある。花は淡い黄色。まだ誕生して12年の黄色の桜だ。
アンデルセン公園では、こうした希少価値の高い花を絶えず取り入れ、また来たくなる「花の公園」を作り続けている。
~村上龍の編集後記~
アンデルセン公園は2015年、世界最大級の旅行口コミサイトで日本のテーマパーク第3位に選ばれ、話題になり、来園者も増え、他の自治体からの視察が相次いだ。
だが、たぶん細谷さんのほうは、デンマーク以外、他にはヒントを求めなかったと思う。
「花がお好きなんですか」と聞いたが、最初から答はわかっていた。大好きなのだ。花が好きだというオーラが伝わってきた。
「自分が楽しいことはきっと他の人も楽しいだろう、いやなことはいやだろう」
細谷さんとアンデルセン公園の考え方は、想像力と信頼に基づいている。
<出演者略歴>
細谷順子(ほそや・じゅんこ)1956年、千葉県生まれ。船橋市役所に就職後、2008年、ふなばしアンデルセン公園園長に就任。
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