注目が高まっている理由は、どこにあるのか?
今、「自分史」への関心が高まっている。〔一社〕自分史活用推進協議会が設立されたのは2010年。13年に江戸東京博物館(東京都墨田区)で第1回が行なわれた「自分史フェスティバル」は、17年まで毎年、日本各地で開催され、昨年は「自分史まつり」として連合会館(東京都千代田区)で開催された。今年の「自分史まつり」は9月29日(日)に江戸東京博物館で開催される予定だ。
自分史を書くのは高齢者だというイメージを持っている人が多いかもしれないが、働き盛りのビジネスパーソンを含め、興味を持つ年齢層は広くなっているという。いったい、なぜなのか? 自分史活用推進協議会副理事長を務め、『自分史2.0』(幻冬舎ルネッサンス新書)という著書もある、あやめ自分史センター(東京都豊島区)館長の菖蒲亨(あやめ・とおる)氏に話を聞いた。
自分史は、他の誰にも絶対に真似できない
そもそも「自分史」とは、どういうものなのか。きちんと製本されて本の形になった自伝を思い浮かべるかもしれないが、菖蒲氏は「もっと広く捉えていい」と話す。
「例えば、就活生がエントリーシートを書くために、それまでにやってきたことを振り返って紙に書き出したものも、自分史だと思います。小学生が書いた作文を6年間まとめれば、それも立派な自分史です。文章ではなく、その時々に詠んだ俳句や描いた絵をまとめたものでも、あとから見返せば、自分史になります。SNSへの書き込みも、きちんと記録しておけば、自分史になるかもしれませんね」
自分史をまとめることのメリットは、まず、自分を知れることにある。
「役職定年を迎えるなど、定年を間近に控えている方が、本当にしたかったことを思い出すために、自分がしてきたことを振り返る。そうした目的で自分史を書く方も多くいらっしゃいます。
これは年配の方に限らず、『このまま、この会社で定年を迎えるまで働いていいのだろうか』と悩んでいる30~40代の方でも同じです。幼い頃からの自分史を振り返ることが、本当にやりたいことに気づくきっかけになるのです。
また、自分の思考パターンや行動パターンを客観的に振り返ることは、自己理解を深めることにもなります。
『他の人には真似できない、自分だけのものはなんだろうか』と考えることが誰しもあると思いますが、自分の人生こそ、まさに他の誰にも真似できないものです。
実際に自分史を振り返ってみると、記憶が間違っていたことに気がつくことも多くあります。私の場合は、大学受験のときに、祖父に『俺はなんでも誰にも負けたことがない。お前も頑張れ』と励まされた記憶がありました。しかし、改めて振り返ってみると、祖父は私が中学生のときに亡くなっていたんです。事実とは違うストーリーが、自分の中にできあがっていたわけですね。その当時の自分の気持ちや感情が、記憶を書き換えていたのでしょう。正しく思い出すことは、自分を正しく理解するうえで重要です」
また、自分史は対人コミュニケーションに活かすこともできる。現役のビジネスパーソンの場合は、仕事上の人間関係の構築にも役立つだろう。
「他人との距離を縮めるためには、共通の話題が大切です。共通の話題を見つけるためには、話題の引き出しを多く持っておいたほうがいい。自分史を振り返ると、忘れていたことを色々と思い出して、引き出しが増えます。
例えば、お客様のところに出向いたときに、『以前、この辺りに来たことがあって、そのときには……』という話が詳しくできれば、相手は喜ぶのではないでしょうか」
自分史のセミナーでは、「家系図を作る」というテーマも人気だそうだ。
「家系をたどると、自分の命は自分だけのものではないという実感が湧いてきます。
また、祖先が暮らしていた土地などを通じて、思わぬ人との関係に気がついたりもします。具体的なことまではわからなくても、『もしかしたら、そんなこともあったかもしれないな』と、祖先について想像を膨らませるのもいいじゃないですか(笑)」
自己紹介が苦手な人も多いが、このように自分史を振り返っておけば、話のネタが何か見つかるかもしれない。自分史は、人生の終わりに振り返るものではなく、日々の習慣として書き、振り返ることで、役に立つものなのだ。
「そのときに感じたことは、そのときにしか書けません。あとから思い出して書いても、どうしてもそのときの感情を表現することはできませんし、ムリに表現しようとすると嘘になってしまいます。
私は高校生の頃、自分の内から湧き出てくる声を文章にして精神のバランスを取っていましたが、大学生になったときには、もうそうした文章は書けなくなっていました。
自分史をきちんと残し、その当時の自分を振り返れるようにするためには、その時々に書いておくことが重要なのです」