「創造的模倣」が優れたアイディアの鍵だ

AI時代の「超」発想法,野口悠紀雄
(画像=THE21オンライン)

「発想」というと独創的なものだと思っている人が多いだろうが、果たして本当にそうだろうか? これまで圧倒的な量の知的生産を行なってきた野口悠紀雄氏は、決してそうではないと言う。

※本稿は、野口悠紀雄著『AI時代の「超」発想法』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

模倣なくして創造なし

数学の問題を解くとき最も普通に用いられる方法(そして最も強力な方法)は、「この問題は、これまで解いた問題のどれと同じタイプのものか?」と考え、それに当てはめることです。

学校の数学について、この方法が正しいことは明らかです。どんな問題も、基本形の変形か、複数の基本形の組み合わせに還元できます。ですから、どのパターンに当てはめればよいかが分かれば、解けます。

少なくとも、試験問題は、この方法ですべて解けます。考えてみれば、当たり前のことです。1時間や2時間という限られた試験時間内に、全く独創的な方法を生み出すことを求められるはずはないのです。

中学受験の算数の問題は、専門の数学者が見ても厄介なものです。しかし、受験生はスラスラ解いています。これを見ると大人は驚きますが、小学生が解けるのは、問題のパターンを覚えていて、当てはめるからです。全く独自に解法を編み出しているわけではないのです。

したがって、数学の成績を上げるための最も確実な方法は、「数学は独創」という思いこみをやめることです。そして、「数学は定型的パターンの当てはめ」「その意味で、暗記」と割り切ってしまうことです。このような発想の転換ができれば、数学の成績は間違いなく向上します。逆にいうと、「自分が編み出した方法で解かねばならない」とこだわっている限り、数学の成績はよくなりません。

このアドバイスは、逆説的に聞こえるかもしれません。あるいは、「点取り虫の姑息な手段」として、反発する人がいるでしょう。しかし、これは真実なのです。

「数学は自分で解法を編み出さなければならない」と思い込み、「だから数学は難しい」と敬遠したり、余計な苦労をしている人は、実に多いのです。数学教師の最大の義務は、学生をこの固定観念から解放することです。

発想一般に関しても、数学の場合と同じように、過去に成功したパターンに当てはめるのが、最も強力な方法です。しかし、数学の場合と同様、こうした方法を批判する人が多くいます。「パターンに当てはめるだけでは、定型的な思考しかできない。自由に発想しないと創造はできない」というのです。

 しかし、発想とは、無から有を生み出すことではありません。既存のアイディアを組み替えることなのです。全く一から創造するということは、普通はないのです。「模倣なくして創造はない」のです。

ポイント 数学の問題は、過去に解いた問題のパターンに当てはめて解く。発想一般についても、これが最も強力な方法。