模倣からの脱却

通常は独創的な発想が必要と思われている数学や物理学においても、以上で述べたように、「模倣なくして創造なし」という原則が正しいのです。

ただし、誤解のないように、つぎの2点を注意しておきましょう。

第一に、以上で述べたのは、「成功した方法を模倣する」ということです。何でも模倣すればよいというわけではありません。模倣の対象を誤ってはならないのです。例えば、飛行機は、鳥の模倣を捨てたときに成功しました。飛行する機械を作る際の模倣の対象として、鳥は適切なものではなかったのです。

第二に、「模倣なくして創造なし」とは、「創造に至る出発点が模倣」ということです。模倣だけにとどまっては、進歩がないことは明らかです。

「パターンに当てはめるだけでは、定型的な思考しかできない」という批判に一定の真理が含まれていることは、事実なのです。既存のパターンに束縛されると、自由な発想ができません。多くの問題は定型的パターンの当てはめで解けますが、それに終始しては限界があります。パターンの当てはめと、それからの脱却努力を適切にバランスさせることが必要なのです。ただし、それは、きわめて難しい課題です。

ポイント 模倣の対象を誤ってはならない。また、模倣にとどまっては進歩がない。

AI時代の「超」発想法
野口悠紀雄(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問) 発売日: 2019年09月18日
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(画像=webサイトより)

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問/一橋大学名誉教授
1940年、東京都生まれ。63年、東京大学工学部卒業。64年、大蔵省入省。72年、イェール大学Ph.D(経済学博士号)取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2011年より現職。著書に、『「超」整理法』(中公新書)、『「超」AI整理法』(KADOKAWA)など、ベストセラー多数。(『THE21オンライン』2019年10月09日 公開)

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