メモで未来を変える技術
小野 正誉(おの・まさとも)
株式会社トリドールホールディングス 経営企画室 社長秘書・IR 担当。神戸大学経済学部卒業後、大手企業に就職するも1 年で退社。 その後、外食企業で店舗マネージャー、広報・PR 担当、経営企画室長、取締役などを歴任。2011 年より「丸亀製麺」を展開する株式会社トリドールホールディングスに勤務。 転職してわずか3 年で社長秘書に抜擢。 入社後8 年の間、国内外に1,700 店舗以上を展開する グローバルカンパニーに至るまでの成長の軌跡を間近に体験する。近著『丸亀製麺はなぜNo.1 になれたのか? 非効率の極め方と正しいムダのなくし方』(祥伝社)は、各メディアで取り上げられてベストセラーとなり、海外版も出版されている。他、著書に『メモで未来を変える技術』(サンライズパブリッシング)がある。1972 年奈良市生まれ。和歌山市育ち。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。

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01 メモは「未来をデザインするツール」

一般的にメモ帳は、何かを記録するためのツールでしかありません。仕事のスケジュール、買う物のリストアップなど、備忘録として使っている方がほとんどでしょう。

しかし、私にとってのメモ帳は「未来をデザインするツール」です。

日々思い付いた理想や願望を、片っ端からメモに書き込む。「忘れてはいけないこと」ではなく、「実現したいこと」を書き留めておく。私の人生は、たったそれだけのことで180度変わりました。

夢を叶えるためのメモ帳。それはいわば、無数の明るい未来図を、大切に保管しておく場所なのです。私のメモ帳の書き方は、みなさんの想像とはずいぶん違うと思います理想や願望を書くというと、みなさんはおそらく「夢ノート」的なものをイメージするでしょう。

  • 結婚する!
  • ○○に合格する!
  • めざせ!年収1000万円!

……などの夢を、念を込めながら毎日書き続ける。確かにそれも、潜在意識に願望をインプットする1つの方法でしょう。

しかし私の書き方は、単なる「メモ」でしかありません。日々の暮らしの中で「こんなことになるといいな」とひらめいたことを、思い付いたときにササッと書き込むだけなのです。

お風呂上がりに鏡を見て「最近太ってきたな」と思ったら、

スリムな体型を維持する

と書き込む。高級レストランの広告を見て「こんなお店で家族と食事をしたいな」と思ったら、すぐにその思いをメモ帳に書き込む。たったそれだけでいいんです。誰でも今日からできる、本当に簡単な方法です。

その小さな習慣の積み重ねが、自分の「未来のデザイン」になります。「それだけで夢が叶うわけがない」と思う方も、たくさんいらっしゃることでしょう。しかし私は実際に、メモ帳に「未来のデザイン」をすることで、数えきれないほどの夢を叶えてきました。

「未来のデザイン」は、潜在意識に訴えかける新しい方法です。この章では私がどんな夢を叶えてきたのか、いくつかのストーリーをご紹介しましょう。

02 「夢のかけら」を集めよう

私は、メモ帳に書き込む内容を「夢のかけら」と呼んでいます。

無数の「夢のかけら」が1つひとつのピースになり、未来というパズルを埋めてくれる感覚です。「夢のかけら」の内容は、規模、ジャンルともにさまざまです。まずは、私にメモ帳の効果を実感させてくれた「夢のかけら」についてお話ししましょう。

私は、外食産業と呼ばれる業界で長年働いています。まだ駆け出しだった20代のころ、こんな「夢のかけら」をメモ帳に書き込みました。

  • 30歳になったら現場を離れて、本部のデスクワークに就く

当時、社内で人事異動の話は一切出ていませんでした。それに私自身、本部に異動するための手段などまったく考えていません。あくまでも、「こうなったらいいな」という漠然としたイメージを書き込んだだけなのです。

ところが30歳になると、道路の拡張工事に伴い、私が勤務していた店舗が運営できなくなりました。そして、突然「明日から広報をやってくれ」と業務命令が下り、本部のデスクワークに就くことになったのです。

1つの夢が実現されると、新たな「夢のかけら」が生まれます。念願叶って本部の広報に携わることになった私は、充実した毎日を送っていました。

広報は、女性中心の世界です。実際に私の職場でも、活躍しているのは女性ばかりでした。とはいえ、私は周囲から「女性的な感性を持っている」といわれ、女友達も多いタイプです。ですから「こういう世界でもやっていけるだろう」と楽観的にとらえていました。

しかし、月日が経てば私はいずれ「おじさん」になります。10年も経てば職場には若い女性が増え、ジェネレーションギャップを感じることも増えてくるでしょう。そのことに気付いた私は、「いくら女性的であっても、おじさんの感性がこの世界に通用するだろうか」と一抹の不安を抱くようになりました。

そして見付けたのが、「いずれはIRの仕事をしたい」という夢です。IRとは「Investor Relations」の略で、簡単にいうと、株主様や投資家向けの広報の仕事です。ビジネス的な要素が大きい仕事ですから、「これなら40代以降の男性でも活躍できるはずだ」と考えたのです。とはいえ、当時の私にはIRに関する知識や経験は一切ありません。「本部のデスクワークに就く」という夢と同じく、単なる理想でしかなかったのです。

しかし、夢を見るだけなら自由です。私は、どうせならもっと大きい夢を描くことにしました。そこでメモ帳に書き込んだのが、こんな「夢のかけら」です。

  • 上場企業のIR担当者になる

勤務先は非上場企業だったので、少し背伸びをしてみたというわけです。もちろん、上場の見通しが立っていたわけでもありません。単純に「こうなればいいな」という思いを、1つの「夢のかけら」に詰め込んだだけです。

しかし後日、私は再びメモ帳の力に驚かされることになります。

03 どんな夢も、思わぬ方法で叶う!

「上場企業のIR担当者になる」

この夢もまた、思わぬきっかけで叶うことになりました。勤めていた会社が、某上場企業と合併することになったのです。そのニュースを聞いた数日後、さらに驚くことが起こりました。社長から直々に呼び出され、「経営企画室を作ることになったから、そこでIRを担当してくれ」と言われたのです。

何もかもメモ帳に書いた通りになり、さすがにこのときは鳥肌が立ちました。言ってしまえば無謀でしかない夢が、すべて思わぬ形で現実になったのです。さらにメモ帳の奇跡は続きます。

先ほどお話しした通り私はIRの素人だったので、取締役の方に仕事を教えていただくことになりました。厳しさと優しさを合わせ持った、まさに「理想の上司」というべき方です。この方を心から尊敬した私は、生意気にも

  • 2年後にこの上司のようになる

とメモ帳に書き込んだのです。すると、ちょうど2年が経ったころ、その上司が別の仕事を担当することになりました。「明日からお前がこの席で経営企画室長をやれ」と命じられ、またしてもメモ帳の力に驚かされることになったのです。

次々に奇跡が起こる中で、私がメモ帳の力を確信したのは「社内独立」でした。

  • 社内独立をする
  • 周りにいる仲間を大事にしながら、今の延長で起業する

という大きな夢を書き込んだところ、見事に独立することができたのです。

さすがにこれは、「偶然が重なっただけ」というレベルを超えています。社内独立というのは、さまざまな要素が重なり合い、はじめて成し遂げることができます。一ビジネスパーソンがいくら努力したところで、そう実現できるものではないのです。

「夢のかけら」をメモ帳に書き込むことは、潜在意識に大きな影響をもたらしているのかもしれない。それとも、もっと大きな「力」につながっているのかもしれない。不思議な感覚を抱くのと同時に、私はもう「夢のかけら」を書き留めることが止められなくなっていました。