(本記事は、堀口龍介氏の著書『【契約率76.2%】営業・即アポ 6万5026時間の会話分析からわかった!』ぱる出版の中から一部を抜粋・編集しています)
ベネフィットを効果的に伝える「AREA話法」とは?
さて、このフローチャートの中で、多くのアポインターがつまずく箇所があります。
それが「ベネフィット」の伝達の部分です。
この部分は、相手の断り文句に「ちょうどよかった!」と重ね、その断り文句を解消するベネフィットを伝えなければいけません。流動的になりがちで、フレーズを覚えただけでは、対応が難しい部分になります。
でも、ご安心ください。どんな返しにも柔軟にベネフィットを伝えられる話法を紹介します。
それが、AREA話法です。これは伝えたいことが、相手に最もわかりやすく伝わる話し方です。話し上手な人のほとんどが使っていますし、何を言っているかよくわからない人は、たいていAREA話法を知らない人です。AREAはそれぞれ次の言葉の頭文字です。
Attention・Assertion:注目・主張 Reason:理由 Example・Evidence:具体例・根拠 Assertion:再主張
AREA話法の例 A「私〇〇さんのことが好きなんです」 R「なぜなら、人に優しいからです」 E「例えば、昨日も遅くまで1人で残業されていたのに、忘れ物を取りに来た私を気遣ってくれましたよね」 A「だから私は、〇〇さんのことが好きなんです」
主張に始まり、主張に終わるため、「主張のサンドイッチ」とも言われます。4つのうち、どのセリフが抜けても物足りなく感じるはずですので、あなたも自分が告白されているところをイメージしながら、シミュレーションをしてみてください。
以下、AREA話法の使い方を詳しくお伝えします。
●A:注目・主張
まず主張(Assertion)で、相手の注目(Attention)をひきつけておきます。
なぜなら最初の主張がないと、相手は何の話をされているのかわからず、聞くための心の準備ができないからです。
例えば、よく「結論から話せ」と注意される人がいますが、これも「なぜこの話を聞かされているのか」が最初にわからないと、聞き手は無駄に時間を奪われているように感じて、イライラしてしまうからです。
逆に、最初に「私〇〇さんのことが好きなんです」という主張をして、相手の注目をひきつけておくと、相手の心にその話を聞くためのスペースができ、すっと話が入っていくのです。
だからこそ、最初に主張(Assertion)を行い、相手の注目をひきつけておくことが大切なのです。
と、この解説にも、AREA話法が使われています。そう、「まず主張(Assertion)で、相手の注目(Attention)をひきつけておきます」の部分。冒頭で結論を伝えていますね。
AREAは、書き言葉・話し言葉、すべてに役立つ手法なので、ここで必ずマスターしてください。
●R:理由
次に理由(Reason)がないと、人を動かせなくなります。
なぜなら、理由がない主張には重みがなくなるからです。前述のRを飛ばしてみましょう。
A「私〇〇さんのことが好きなんです」 E「例えば、昨日も遅くまで1人で残業されていたのに、忘れ物を取りに来た私を気遣ってくれましたよね」 A「だから私は、〇〇さんのことが好きなんです」
理由なしに例を言われても、「たったそれだけで好きになったの?」と、表面的に聞こえてしまいます。
「理由」は理由になっていなくてもOK
ここで大切なのは、理由は理由になっていなくてもいいこと。理由の中身ではなく、「理由がある」と伝えることが大切なのです。
ここで、心理学者エレン・ランガーの実験を紹介しましょう。図書館でコピーの順番を代わってもらう実験で、理由を付けて頼むのと、理由なく頼むのとで、どれほどの差が出るかを試したところ、このような結果になりました。
(1)理由がない場合、約60%の人が代わってくれる (2)「急いでいるので」と理由付けした場合、約94%の人が代わってくれる (3)「コピーを取りたいので」と理由付けした場合、約93%の人が代わってくれる
注目は(3)。「コピーを取りたいので、コピーを取らせてください」では理由になっていません。それでも、(2)のきちんと理由を伝えた結果と大差ないのですから、驚きです。
この実験で、軽めの要求においては、理由の中身よりも理由の有無が人の心理に影響するということが実証されました。
このように何らかの理由を言えば、相手が深く考えることなく行動を起こしてしまう心理現象を「カチッ・サー効果」と言います。テープレコーダーのスイッチをカチッと入れたら、自動的に再生が始まり「サー」という音がすることから来ている言葉だそうです。
まとめましょう。
理由は、人を動かすスイッチのような役割を果たしてくれる。そのため主張の後は、必ず理由を言うようにします。
理由は何でも構いません。人は理由があることで納得し、心を動かされるのです。例では「人に優しいから」でしたが、次のように何でもいいのです。
繰り返します。理由は、内容にかかわらず言うことが大事。頭にたたき込んでください。
(例) 「いつも仕事をがんばっているからです」 「ゴハンを美味しそうに食べるからです」 「声がステキだからです」
●E:具体例・根拠
次は具体例(Example・Evidence)です。具体例がなくても話は成り立ちますが、主張の100%が伝わらない可能性が高くなります。なぜなら、具体例がない話は説得力に欠けるからです。例えば、
A「私〇〇さんのことが好きなんです」 R「なぜなら、人に優しいからです」 A「だから私は、〇〇さんのことが好きなんです」
これでは少し、主張が弱まる感じがしませんか?
主張が弱まると、相手を動かす力も弱まります。
また、この理由だと「優しさ」の定義や意味合いが人によって異なるため、
「自分の何を見て『優しい』と言っているのかな?」 「異性としては、見られていないのかな」
と、色々な解釈が可能です。でも、具体例をあげれば、誤解を防ぐことができます。
「例えば、昨日も遅くまで1人で残業されていたのに、忘れ物を取りに来た私を気遣ってくれましたよね」
と言えば、
「あっ、あの気遣いが嬉しかったんだな」 「1人で残業していることにも気付いてくれたんだな」
と、心が動かされます。
解釈の曖昧さがなくなり、少し他人ごとだった話が、一気に自分ごとになるからです。
●A:再主張
最後に再主張(Assertion)です。
「だから私は、〇〇さんのことが好きなんです」
この最後の主張で、人は心を射抜かれます。「主張・理由・具体例」だけを伝えて、「再主張」がないと、聞いている人は「あれっ?」と拍子抜けします。弓を引くだけで、射らないような感じです。話の順序はとても大切で、最初に一度主張を伝えているにもかかわらず、最後がないと「だから何?」となってしまうのです。
「主張・理由・具体例」は「再主張」のための準備にすぎません。
しつこいようでも必ず、最後は再主張で締めるようにしましょう。