「カリスマ性」は実は既に備わっている

年間これだけの経営者にお会いしていると、なかには残念ながら「この人は経営者らしくない」という後継社長もいる。創業者が立派であればあるほど不思議なことだ。「お父さんがあれだけ立派なのに……」という言葉は経営者だけではなく、皆さんもどこかで誰に対してか聞いたことがあるはずだ。

これは何も見かけのことだけではない。社長の内面から湧き出てくるような魅力や、カリスマ性が感じられない後継社長がいるのだ。

人間誰もが、「おぎゃあ」と生まれたときから、例外なく親のDNAを受け継いでいる。「親の銘」を受け継いでいると言っていい。乱暴な話、その「親の銘」を受け継いだ時点で、「既に七割は継いだ」と言ってもいいと私は思っている。そうであるにもかかわらず、社長としての魅力やカリスマ性でこれだけ差が出てくるのだ。

いったい、その差は成長過程において、どこで出てくるのだろうか。

そのような人たちを注意して見ていると、「自分に自信がない」という共通点があることに私は気づいた。これは、学歴社会の弊害もあるのではないだろうか。戦後の日本は、有名大学に入り、一流企業に入るのが最大の安定と考えられる傾向になった。

競争がなければ人は努力をしないので全ては否定しない。しかしながら、その副作用もあった。全てが成績順であるために、学校では知識重視の教育に偏り、テストで○×をつけ、生徒に順番をつけた。

その結果、昔以上に、人は自分のポジションを過剰に気にしながら生きていかなくてはいけなくなった。自分はクラスの中で何番なのか。自分は学年で何番なのか。自分の学校は日本で何番なのか。

そんな激しい競争の中で、人が精神的に自分を安定させるには、「自分より下の人は、まだこれだけいる」という他者との比較による安心しかないのではないだろうか。

そうやって、厳しい学生時代を生き抜き、いざ自社に入社したと思えば、そこには社長である父親がいた。しかも、その父親という壁は想像以上に高かった。

「何をそんな妄想を」と思うかもしれないが、ほぼ間違っていないはずだ。その証拠に、そういった後継社長は、経営の中でも、全ての発言が必ず前述の延長上の発言になっているからだ。

たとえば、自分や、自社や、自社商品をアピールするのに、わざわざ他者や、ライバル会社や、ライバル会社の商品を悪く言う。人を落として自分の評価を上げようとする人だ。自分は良かれと思ってやっているのだろうが、このような人が信用されるだろうか。

また、後継社長同士、「こうしたほうがいいのではないか」とせっかくアドバイスをもらったのに、「先代からの方針で」という理由でまったく聞き入れない人もいる。

何十年もやってきたスタイルというのは理解できるが、この先何十年、経営環境がいままでと変わらないはずはない。先代の考えを軽視するわけではなく、自分がいいと思ったものは、とにかくやってみればいい。

周りにこのような人がいないだろうか。SNSでの発信が、常に後ろ向きで偏りがある。他に対して排他的で攻撃的である。

自己主張するのはいいが、毎朝このような発信をしていれば、読む側はどう思うだろうか。「今日一日頑張ろうという朝にふさわしくない」と思われたら、人は離れていってしまうのではないだろうか。せっかくのSNS、他人の否定的な内容を投稿するくらいなら、自分自身のニュースを語ればいいのにと私は思う。

このような後継社長がいるのだ。とても「あの人は社長として魅力的だ」とか、「もの凄いカリスマ性がある社長だ」と言われるには程遠いのではないだろうか。

どうか、これを読まれている後継社長には自分に自信を持っていただきたい。「親の銘」とともに、「魅力」や「カリスマ性」は既に自分の中にとっくにあるはずである。それに気づくか、気づかないかの差なのだ。

どんな名社長であれ、どんな名スポーツ選手であれ、どんな有名な画家であれ、どんな有名な歌手であれ、最初から上手かった人など、誰一人としていない。その才能を見出して、「お前ならできる」とその道を勧めた人が絶対にいたはずだ。そういった人たちに才能を伸ばされてきたのだ。

思い出してほしい。どんなことでもいい。あなた自身の中にも必ず何かあったはずだ。聴かせるスピーチをする。泣けるような文章が書ける。絵が描ける。よく「あの人はいい歳のとり方をしている」と言うが、そういったものの積み重ねが、歳とともに、人の魅力、カリスマ性として内からにじみ出てくるようになるのだ。自分自身を認めてあげることによって、自分の内にある才能を伸ばしてあげてほしい。

幾代もの繁栄を築く
牟田 太陽(むた・たいよう)
日本経営合理化協会理事長。事業経営の奥義を一子相伝で“社長業指導の教祖”牟田學より伝授された、手腕と感性と理性をバランス良く備えた次代のリーダー。大学卒業と同時に、単独、日本人が一人もいないアイルランドの寒村に飛び込み、和食レストランを立ち上げる。異郷の厳しさ、小さな親切が身に染み、多様な考え方の人々に会って、世界観を広げる。忍耐や、勇気や、強さや、優しさや、痛さを会得しながら、アイルランドで事業の大成功を収めた。帰国後、日本経営合理化協会に入協。以来、経営ノウハウ、思想哲学を伝える社長実務セミナー「実学の門」、少人数の私塾「無門塾」「地球の会」、後継者育成の「後継社長塾」など、数多くの勉強会を企画・運営する。20歳代から触れ合うほとんどの方が経営者や一流コンサルタント、著名人という環境の中で、経営の手腕を磨き、企画部長、事務局長、専務理事を経て、2017年7月より現職に。オーナー企業の経営者、後継者との交流が非常に広く、事業継承特有の問題に関しても、多岐に亘る経験を持つ。

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