答えがないのがアートの面白さ

イントレプレナーが「1から100」を可能にするために有効な手段がMBAである一方で、「0から1」の新規事業を立ち上げるアントレプレナーが、MBAを使える武器にするために必要なのが「クリエイティブ力(創造力)」だと石川氏は言う。では、クリエイティブ力を強化する方法はあるのだろうか。

「私はそれが、『芸術(アート)』だと考えています。

ビジネスパーソンこそ、アートに触れるべきです。

アートを勧める理由の一つは、経営やビジネスで意思決定をする局面において必要な『大局観』が養えることです。

大局観とは、複数の可能性を視野に入れながら物事を注意深く観察し、そこから取り出した事実に基づき、論理的かつ体系的に思考し、判断する力です。

どの事実を取り出すか、それをどう解釈するかで、物事の捉え方は変わります。

大局観が備わってくると、物事を正否だけで結論づけるのではなく、考えの根拠となる事実に基づいて、その妥当性を検討できるようになる。もっと簡単に言えば、複数ある答えの中から、最適解を導き出せるようになるということです。そのとき、目の前の選択肢の中にはなかった、まったく新しい解を見出すこともあるかもしれません。

そのような大局観が養えるのは、アートは何かを教えてくれるものではなく、主体的な学びを促すものだからです。

アートには、答えというものがありません。実はそこがアートの面白いところで、作品を理解したいと思ったら、深く考えざるを得ません。

アートに触れることで身につけられる観察力と思考力は、0から1を生み出すアントレプレナーシップを磨くだけではなく、職場の人間関係や組織のチームビルティング、意思決定などにも役立ちます。そしてこれは、先の読めないこれからの時代に必要な能力だと考えています」

アートの発想が生んだ「泊まれるブティック」

競争相手が考えもしないことを常に探していて、自分の発想や新しい概念を想像もつかないアプローチで組み合わせてコンテンツやサービスに変えていく石川氏。そのときも、アートは様々なヒントを与えてくれるという。

「18年2月に渋谷にオープンした『hotel koe tokyo』は、ホテル併設型のグローバル旗艦店で、1階はベーカリーレストラン、2階にライフスタイルブランド『koe』渋谷店、3階にホテルがあるという複合業態型の『泊まれるブティック』です。そのブランドコンセプトのヒントになったのは、既存の概念を組み合わせるアートの手法です。

現代アートのアーティストたちはよく、AとBという既存のもの同士を掛け合わせて新しいものを作るアプローチをします。しかし、既存のもの同士を掛け合わせるだけでは不十分で、『意外性』のある組み合わせであることがポイントです。

意外なもの同士を組み合わせていくことで、誰もやったことのない事業のアイデアが浮かんでくるはずです。

気鋭の現代アートの天才たちも、そうやって『意外な組み合わせ』を楽しみながら、作品を作り出しているのですから。

アートと同じように、経済界もこうした『組み合わせ』はトレンドになっていくと思います。普段から『組み合わせ』というキーワードを意識してアートや商品を見るようにすると、創造力を高める訓練になります」

《写真撮影:長谷川博一》
《『THE21』2020年1月号より》

石川康晴(いしかわ・やすはる)
〔株〕ストライプインターナショナル代表取締役社長
1970年、岡山市生まれ。岡山大学経済学部卒。京都大学大学院経営学修士(MBA)。94年、23歳で創業。95年、クロスカンパニー(現・〔株〕ストライプインターナショナル)を設立。99年に「earth music&ecology」を立ち上げ、SPA(製造小売業)を本格開始。現在30以上のブランドを展開し、グループ売上高は1,300億円を超える。〔公財〕石川文化振興財団の理事長や、国際現代美術展「岡山芸術交流」の総合プロデューサーも務め、地元岡山の文化交流・経済振興にも取り組んでいる。2019年3月に内閣府男女共同参画会議議員に就任。(『THE21オンライン』2019年12月09日 公開)

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