MBAホルダー&アートコレクターの経営者に聞く
「earth music&ecology」など30以上のブランドを展開するストライプインターナショナルの創業社長・石川康晴氏は、現役の社長でありながら京都大学でMBAを取得。また、アートに親しんでいることでも知られる。『学びなおす力』(PHPビジネス新書)という著書もある石川氏は、MBAやアートでの学びを、経営にどう活かしているのか?
世の中の企業の大半ではMBAでの学びが活きる
「AIやITの導入により、フレームワーク理論やアカデミック分野は代替される」「これからは、人間のイマジネーションを活かさなくてはならない」――。こうした「MBA不要論」は、一面的な見方にすぎないと石川氏は言う。
「これは、実際にMBAを取得したからこそ、わかったことです。
確かに、0から1を生み出すような『アントレプレナー(起業家)』型のビジネスでは、MBAのフレームワークをそのまま使えないことが多い、というのは事実です。0から1が生み出されるケースでは、主に、『好き』という気持ちが芽生えたときや、『これは解決すべき社会問題だ!』とスイッチが入ったときだからです。
一方で、1を100へと大きくする『イントレプレナー(社内起業家)』型のビジネスの場合には、MBAのフレームワークが大いに力を発揮します。特にアパレルのような斜陽産業や、既存ブランドを立て直す局面では効果絶大です。
世の中の企業の大半は、0から1を生み出すのではなく、1を100へと大きくすることを事業としている。そう考えると、大部分のビジネスにおいて、MBAのフレームワークは使える、というのが私の考えです。
サービス、マーケティング、製造など、自社の強みがどこにあるかを分類してみる『バリューチェーン分析』や、他社との競争優位性を考慮して自社の立ち位置を決める『アドバンテージ・マトリックス』などが好例です」
フレームワークを使って新たな事業領域を発見!
ストライプインターナショナルでも、既存ブランドの改革を行なうときなどには、こうしたMBAのフレームワークを活用しているそうだ。
「一つ例を挙げましょう。
2018年2月にサービスを開始した『ストライプデパートメント』というECサイトの立ち上げは、『ホワイトスペース』というマーケティング戦略を活用した事例です。
ホワイトスペースとは、ビジネスモデルを革新しなければ成功できない事業領域のこと。ホワイトスペースでビジネスを成功させるためには、建築家が新しい建築物を手がけるときに一から図面を描くように、ビジネスモデルという設計図を新たに作り上げる必要があります。
ストライプデパートメントは、総務省が毎年発表している『情報通信白書』を眺めていたときに思いつきました。そこには、年代別のスマホの利用率が記されていました。
10代、20代のスマホ利用率はどんどん伸びています。これに合わせて、アパレルのZOZOTOWNをはじめとして、音楽から漫画まで、あらゆる業態がスマホビジネスを強化したのはご承知の通りです。
それに比べると、40代以上のスマホ利用率は低かった。普通に考えれば、IT系のベンチャーはその層に向けたスマホビジネスを打ち出そうとは考えません。
ところが、データを細かく見ると、ある年を境に30代、40代のスマホ利用率が急激に伸びていることがわかりました。ガラケーからスマホに移行するタイミングでした。
ベンチャー企業は、最初から『40代以上は、スマホで物を買わない』と思い込んでいるので、40代以上向けの市場はキャッチアップしていません。他方で、百貨店は全国規模で閉鎖や業態転換が進んでいます。実は30代、40代が、自分たちに合った洋服を買う手段がすっぽり抜け落ちていたのです。
『ここだ!』とホワイトスペースを見つけ出した私は、すぐにECサイトの立ち上げに動き出しました。
10代をターゲットにしたECサイトで、ZOZOTOWNと真っ向勝負しても勝ち目はありません。ポジションを変えて、30代、40代にターゲットをずらしたからこそ、ストライプデパートメントは共感してもらえたのです。
スタートから1年で、800以上のブランドを取り扱うようになり、地方在住の方や忙しくてなかなか買い物に行く時間が取れない方などに、百貨店のようなショッピング体験を提供することができました」