●(設備投資)新型コロナウイルスの感染拡大が回復の重石

3期連続のマイナス成長となった民間設備投資は、先行指標であるコア資本財受注(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)が20年1月に横ばい(前月:+0.7%)となっており、依然として回復はもたついている(図表11)。

また、全米製造業協会(NAM)の製造業センチメントも、19年10-12月期が45.0と2期連続で好不況の境となる50を下回ったほか、今後1年間の設備投資計画も前年比+0.8%に留まっており、製造業で設備投資の改善が見込めない状況となっている(図表12)。NAMは、景況感や設備投資計画が不振となっている要因として、海外の需要減少に加えて、通商政策の不透明感が大きいと指摘していたが、通商政策に関しては、米中貿易摩擦で20年1月に米中政府が「第一段階の合意」を行い、関税競争が緩和される流れとなっていたことから、設備投資の回復が期待されていた。

米国経済の見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大によって中国国内の生産が休止に追い込まれることで、電子機器や自動車産業などのグローバル・サプライチェーンに影響がでており、通商政策の好転にも係わらず、製造業の設備投資回復に水が差される可能性が高い。

さらに、これまで好調を維持してきた非製造業についても、旅行や航空業界、中国市場に依存している企業の売上などにも影響がでていることから、設備投資抑制の動きが広がる可能性があるため、今後の動向が注目される。

●(住宅投資)住宅ローン金利の低下が引き続き追い風に

GDPにおける住宅投資は、民間設備投資とは対照的に2期連続でプラス成長となっている。また、住宅着工件数、許可件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)も、暖冬だった影響もあって、20年1月の着工件数が+74.3%、先行指標の許可件数が+16.6%と大幅な伸びとなっており、20年入り後も好調を維持している(図表13)。

住宅市場が好調な背景としては、住宅ローン金利の低下が挙げられるが、2月下旬以降に米国債金利が史上最低水準を更新する中で、住宅ローン30年金利も3.576と〇うに調な背景としては、住宅ローン金利の低下が挙げられるが、%と12年12月以来の水準に低下しており、回復が続く住宅市場には追い風が吹いている。実際に、借り換えも含めた住宅ローンの申請件数は、750台半ばと13年5月以来の水準に増加がみられる(図表14)。

当面、住宅ローン金利が低水準に留まるとみられることから、新型コロナウイルスの影響で雇用不安が高まるほか、建設業者の労働力不足により住宅供給不足が住宅販売に影響しない限り、住宅市場は好調を維持するとみられる。

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●政府支出、債務残高)当面は拡張的な財政政策が持続

19年10月からの20年度予算で、米議会は新型コロナウイルス対策として83億ドルの緊急予算を可決した。このうち、78億ドルが裁量的経費、5億ドルが義務的経費に配分される。裁量的経費のうち、34億ドルがワクチンや医薬品を開発・購入するための公衆衛生・社会緊急基金(the Public Health and Social Service Emergency Fund)などに充当されるほか、22億ドルがCDCを通じて感染予防などのための州政府に対する支援、13億ドルが国務省を通じて新型コロナウイルス対策に取り組む諸外国への支援などに充てられる。緊急予算のうち、裁量的経費の全額が20年度の授権額(1兆4,017億ドル)に追加される。

一方、20年10月からの21年度予算編成は、2月にトランプ大統領から議会に対する予算要求(予算教書)されたことを受けて審議が開始された。予算教書では非国防関連の裁量的経費や、社会保障関連支出の削減などにより、21年度の財政赤字を▲9,661億ドル(名目GDP比▲4.1%)と新型コロナウイルス関連の緊急予算を含まないベースでの20年度見込み額の▲1兆834億ドル(同▲4.9%)から削減する方針が示された。また、10年後の30年度も財政赤字は▲2,610億ドル(同▲0.7%)へ、債務残高(GDP比)も19年度の79.2%から30年度には66.1%に減少させるとしている(図表15)。

もっとも、21年度の裁量的経費は、2019年超党派予算法によって既に予算の大枠(1兆4,120億ドル)が決まっており、予算教書は非国防関連予算について同法に基づく金額から▲3割程度削減することを要求している(図表16)。このため、野党民主党が反発しており、最終的な予算額は予算教書から乖離する可能性が高い。

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また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済への影響が顕在化する場合には、州政府への援助金などで緊急予算がさらに増額される可能性があり、当面は拡張的な財政運営がされるとみられる。

一方、22年度以降は、20年の大統領・議会選挙結果に左右される。トランプ大統領、民主党ともにインフラ投資の拡大を目指している一方、トランプ大統領は中間層に対する追加減税、民主党候補は富裕層などに対する増税を表明しており、議会選挙の結果も含めて財政政策の行方は不透明である。

もっとも、インフラ投資の拡大にせよ、追加減税にせよ財源の問題からあまり大胆な政策は期待できない。議会予算局(CBO)は現行法を前提(ベースライン)に、今後10年間の財政赤字(名目GDP比)を▲4%台後半~5%台前半で推移すると推計しているほか、10年後の債務残高(名目GDP比)が98.3%まで増加するとしている(前掲図表15)。このため、財源手当てなしで拡張的な財政政策を持続することは、誰が大統領に選ばれても困難だろう。

●(貿易)今後の通商交渉は対英国、EUが焦点

トランプ大統領は18年以降、関税を多用する保護主義的な通商政策に舵を切ってきた。とくに、中国の知的財産権の侵害を理由に通商法301条に基づく対中制裁関税では、20年1月の米中政府による「第一段階の合意」によって昨年12月に予定されていた追加関税の見送りや、9月から15%賦課されていた関税率を半減させるなど、対中関税策が一部緩和されたものの、米中ともに輸入額のおよそ7割に相当する輸入品に対して制裁関税を賦課しあう状況となっている。

一方、米国の財貿易収支は19年10-12月期の対中貿易赤字が824億ドルと前年同期比▲30.0%の減少となった(図表17)。これは、対中輸出が+3.6%と6期ぶりにプラスに転じた一方、対中輸入が▲23.8%とマイナス幅が拡大したことが大きい。輸入額の減少は関税策が一定程度影響したと考えられる。また、中国以外も含めた貿易赤字も▲2,056億ドルと前年同期比で▲13.0%の減少と2期連続で減少した。

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米中貿易摩擦や日米貿易協議は今後も協議が継続されるものの、いずれも「第一段階」として部分合意しているほか、メキシコ、カナダと協議してきた新NAFTA(USMCA)も議会が批准したことで、これらの該当地域に対する関税競争は一服することが見込まれる。

このため、20年の通商交渉の焦点は英国やEUに移るだろう。もっとも、大統領選挙まで日程が限られ中、足元の新型コロナウイルスの感染拡大によって世界的な物流懸念が広がる中で、これまでのような関税を多用する通商交渉を持続するのかは、世界貿易に与える影響も含めて不透明である。このように考えると、当面はトランプ大統領の通商政策スタンスは軟化するとだろう。

物価・金融政策・長期金利の動向

●(物価)消費者物価(前年比)は新型コロナウイルスの影響で当面下押し圧力が続く

消費者物価の総合指数(前年同月比)は、20年1月が+2.5%と19年10月以降増加基調が持続している(図表18)。これは原油価格が50ドル台前半から20年1月に60ドル超まで上昇するなど、エネルギー価格の物価押上げによる影響が大きい。

また、物価の基調を示す食料品とエネルギー価格を除くコア指数は1月が+2.3%とこちらは19年10月以降横ばいとなっており、基調としてのインフレ加速はみられない。

米国経済の見通し
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一方、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済活動に対する影響の懸念から原油需要見通しが下方修正されたこともあって、原油価格は1月の60ドル超の水準から下落に転じた。さらに、3月上旬に行われた石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの非加盟国で行われた減産交渉が決裂したほか、サウジアラビアが増産方針を打ち出したことから、原油価格は3月9日には30ドル台前半まで急落している。

このため、総合指数はエネルギー価格の下落から当面物価下押し圧力が高まろう。また、コア指数も新型コロナウイルスの影響で雇用環境が悪化する場合には、インフレ圧力が後退する可能性がある。

当研究所は、非常に不透明なものの、原油価格の想定を20年末に44ドル、21年末に46ドルとしており、その前提の下で消費者物価は20年が+1.9%、21年が+2.3%と予想する。なお、物価見通しに対するリスクは下振れである。

●(金融政策)3月、4月会合で追加緩和後、12月以降は緩やかな政策金利引き上げへ転換を予想

FRBは19年10月に7月以降3回目となる政策金利▲0.25%の引き下げを決定した後、20年1月のFOMC会合まで当面政策金利を据え置く方針を示していた。しかしながら、前述のように3月3日に行われた臨時のFOMC会合で、政策金利を▲0.50%引き下げ、1.0-1.25%とすることを決定した。

臨時会合後に行われたパウエル議長の記者会見では、新型コロナウイルスの感染拡大に対して、金融政策ができる役割として緩和的な金融環境を支えるとことで、消費者や企業の信頼感を高めるとしたほか、引き続き経済を支えるために手段を用いて適切に行動するとしており、資本市場が安定しない場合に追加緩和を辞さない姿勢を明確にしている。

当研究所は当面の金融政策が新型コロナウイルスの米国内での感染状況や、資本市場の動向に左右されるものの、足元の資本市場の不安定な動きから3月17~18日に予定されている定例会合に加え、4月の会合でも追加緩和を実施すると予想する。現時点では政策金利の引き下げ幅をそれぞれ▲0.25%と予想しているものの、資本市場の動向次第では▲0.5%に拡大する可能性があろう。

また、20年7-9月期には新型コロナウイルスの感染拡大は終息に向かい、米経済への影響も限定的との前提の下で、4月以降は政策金利を据え置き、大統領選挙が終了した後の20年12月の会合で新型コロナウイルス対応で大幅に緩和した金融政策の緩和解除に転換すると予想する。その後は、21年にかけて2.0%まで緩やかな政策金利の引き上げを継続しよう(後掲図表20)。

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もっとも、当研究所の予想通りに12月以降に政策金利を引き上げたとしても、金融政策は引き続き、景気刺激的なスタンスを維持するとみられる。金融政策は、景気を刺激も抑制もしない金利水準である自然利子率より、物価を加味した政策金利(実質FF金利)が低い場合に景気刺激的となる。足元で自然利子率と実質FF金利の乖離幅は1.2%ポイント程度となっており、金融政策は景気刺激的である(図表19)。今後▲0.5%の追加利下げを行う場合に、乖離幅は1.7%ポイントに拡大することが見込まれる。このため、仮に21年末まで1.25%ポイント政策金利を引き上げても、実質FF金利は自然利子率を下回ることが想定され、金融政策は引き続き景気刺激的な状況が続こう。

一方、現時点で新型コロナウイルスの感染拡大や米資本市場・実体経済への影響を予想するのは非常に困難である。今後の動向次第で柔軟に見通しを修正したい。

●(長期金利)足元の金利低下は行き過ぎ、20年末1.6%、21年末2.4%への上昇を予想

長期金利(10年国債金利)は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う米経済への影響への懸念などから、3月6日に一時史上最低水準となる0.6%台半ばに急落した(前掲図表3)。

資本市場が不安定な中で、米国内の新型コロナウイルス感染者数は足元で増加が続いていることから、当面金利は上がり難いとみられる。

もっとも、足元の急激な金利低下は行き過ぎだろう。当研究所は、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めかかるタイミングで行き過ぎた金利低下が修正され、反発に転じると予想する。その後は、政策金利が据え置かれるほか、12月に金融緩和の解除に転換することもあって、長期金利は20年末に1.6%、21年には政策金利の引き上げが続くことから、年末に2.4%まで上昇すると予想する(図表20)。

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もっとも、金融政策同様に長期金利の見通しに対する不透明感は強く、新型コロナウイルスの感染長期化に伴い、長期金利が見通しより下振れする可能性も現時点で高いと言わざるを得ない。

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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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