(本記事は、和中清氏の著書『中国はなぜ成長し、どこに向かうか、そして日本は?』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

提案
(画像=PIXTA)

これからの中国経済

高い潜在成長力

低迷が続く日本と比べ、巨大人口の中国の潜在成長力は高い。「13億人経済」の懐の深さである。

戦略的な建設投資が、過去の成長を支えたが中国の国土は広い。まだまだ社会資本の整備、建設投資が続く。農村の都市化も途上である。2020年には鉄道の総延長距離は15万km、高速鉄道の営業距離は3万kmに達し、北京と全国の省都が2〜8時間で結ばれる。大都市と近郊都市間の高鉄網整備も続く。それが完成すれば各地の巨大都市と周辺都市群が1〜4時間経済圏になり、分散経済がさらに威力を増す。世界一のターミナルの北京大興国際空港や上海浦東空港新ターミナルなど各地で新空港建設と拡張が続く。新空港への鉄道、道路の建設投資の経済効果も大きい。

人口ボーナス終焉の限界説も中国は他国と事情が違う。大量の農民工が世界の工場をつくり上げた時代は終わり、今や工場の自動化投資の時代である。2018年は就業者数が54万人減少したが、16歳〜59歳の労働年齢人口は8億9729万人、就業者は7億7586万人もいる。

中国は8億人の雇用維持が課題であるが、そんな心配をものともせずに多くの分野で自動化投資を進めている。東方航空では預ける手荷物は乗客が自分で機械を操作して航空会社の社員は対応しなくなった。飲食業では注文や料金支払いはもちろん、食材の顧客テーブルへの運搬もロボットが行う店も現れた。店員が行うのは徹底した顧客サービスだけである。就業者が8億人いる中国で自動化投資が進む。まさに「昨日之是、今日之非」のイノベーションへの挑戦で、それが中国の活力である。

インターネットとモバイル社会の成長で2017年〜2019年の3年間の大容量通信データ関連産業の成長率は年平均25%、この後もしばらく20%を超える成長が続く。そんな国に一般論の人口ボーナス終焉は当てはまらない。

一人当たり都市住民可処分所得は上海と貴州省では2016年で2.16倍の差がある。差を強調すれば中国を否定的に見ることになる。だが中国では格差、“遅れた中国”は潜在力である。スターバックスは多くの中国の都市で見られる。2009年のスターバックスの店舗は、上海、北京、天津、重慶の4直轄市と広東、江蘇、浙江省など16省、自治区の28都市で400店舗だった。店舗空白地域も多かったが、2018年には、120都市に約2600店がある。10年前に店舗が無かった貴陽では10店舗、蘭州では4店舗ができている。さらに2021年までに店舗を倍にする計画である。下図は中国の人口千人当たりの個人自動車保有台数である。

中国はなぜ成長し、どこに向かうか、そして日本は?
(画像=中国はなぜ成長し、どこに向かうか、そして日本は?)

米国、欧州、日本や韓国と比べると自動車保有はまだまだ低い。中国経済の限界を言う人は「これから豊かになる人」が見えていない。格差社会の幻想を引きずり、中間層が消費の牽引役になることが認識できない。後に述べる膨大な中間層の存在で中国経済の急激な落ち込みはない。仮に年率、0.2%低下してもG20の平均成長率まで20年、0.1%なら40年で、その間中国は世界経済を牽引する。

中国経済は「先端の中国」と「遅れた中国」の共存経済である。「遅れた中国」は「先端の中国」に刺激され、そこに活力が生まれる。

貴州省は、「天に三日の晴れなし、地に三里の平地なし、家に三歩の銀もなし」と言われ、2008年の貴州省の都市住民一人平均可処分所得は上海の44.1% だった。だが2017年は46.5% に差は縮小した。2014年〜2017年の貴州省の都市住民平均消費支出は年平均10.3%増加し、その間の上海の増加率6.9%、全国平均の増加率7.2%を大きく超えた。

消費主導経済

中国経済は投資主導から消費主導に移っている。

2017年までの5年間のGDP 増加の最終消費支出貢献率は56.2%だが、2019年第三四半期までの消費の貢献率は60.5%である。投資の伸率は2009年より低下を続け、2017年は経済成長率を下回った。2019年上半期の固定資産投資伸率は5・8%だが、環境や教育、ハイテク分野の投資、技術革新投資が活発で投資の中身も変化している。

2019年8月の社会消費品小売総額は前年比7.5%の増加であるが、これには自動車市場の低迷が影響している。自動車を除くと9.3%の増加で消費は堅調であるのがわかる。消費伸率が投資伸率を上回る背景には賃金、家計所得の上昇、都市中間層と農村の成長がある。都市中間層や農村が豊かになるとともに社会構造も変わる。

農村では職業学校より普通中学(高校)に行く若者が増え、職業学校卒業後も大学を目指す若者が増えている。中国の就業者の2億人は大学や専門職業教育を受けた人材で、毎年800万人の大学生や大学院生が社会に送り出される。2019年も834万人が大学を卒業した。産業構造が高度化に向かう中で、労働者の質が向上していることも今後の成長を支える。

中国は動的社会である。人口ボーナスの終焉など昔のイメージで中国を捉えるから限界説も生まれる。中国はイノベーションが続き、社会も変化し続け、経済に刺激を与え続ける。

中産階級社会の進展

筆者は2009年に『中国が日本を救う』(アスカビジネスカレッジ)という本を出版し、年に1千万人の中国人旅行者が日本に来て、日本経済を救うと書いた。それが現実化しつつある。10年以上前から日本に観光で訪れる人の大半が中産階級だった。格差社会のイメージに引きずられ日本ではそれが見えなかっただけである。「新時代」は社会の中産階級化がさらに進み経済を支える。

筆者はその本で、中国には2020年に5億人の年収250万円家庭が出現すると述べた。年収250万円は14.5万元ほどで、都市平均家族数を3人で計算すれば、一人4.8万元である。都市住民所得統計では、全家庭の20%の高収入家庭所得は2016年に7万元を超えた。2016年の都市人口は7.9億人で、高収入家庭人口は1.6億人である。次の中上位クラスの一人平均所得は4.2万元で、過去3年の平均伸び率8.56%で所得が上がれば、中上位所得は2020年に5.8万元になり、中の中位クラスの一人平均所得は4.5万元になる。都 市には統計外所得も多く、実際の所得はもっと増える。

一方、2016年の農村高収入戸の一人平均収入は2.8万元で、2020年に4.2万元になる。農村家庭人口を4人で計算すれば、農村高収入家庭の所得は年16.7万元になる。従って、筆者の予想どおり2020年に年収250万円(14.5万元)の家庭人口は5億人を超える。その多くが都市中産階級である。国家統計局が発表した都市就業者の2018年の年平均賃金は82461元で日本円では140万円ほどである。単純に計算しても夫婦二人で280万円になる。また、2019年上期6カ月の上場銀行33行の平均賃金は19.93万元、年間に直せば40万元、日本円で650万円ほどになる。

科学研究と技術サービス業の昨年の平均賃金は前年比13.1%の増加、情報やソフト関連業は8.9%増加した。2019年春の広州市の営業や技術専門職の募集賃金平均額は8321元、5年〜10年の職務経験がある人の賃金は15570元だった。15570元なら夫婦共稼ぎの場合、25歳〜30歳の若年齢所帯でも、家計月収は31000元で本円での家計年間所得は600万円ほどになる。

中国では人材は「人力資源」と呼ばれる。巨大な人口を人力資源として成長を果たしたが「人力資源」も一方では「生活者」である。経済成長で「人力資源」も「消費者」となり、成長を支える大きな柱「巨大市場」を出現させる。だから「世界の工場」と「世界の市場」は同じことを裏と表で見ているにすぎない。世界に溢れるメイドインチャイナも厳しい競争に直面する。競争に勝ち抜くには、効率化を図り品質やデザインを向上させねばならない。それが「中国製造2025」である。

そのために新設備、新素材、新技術を海外に求める。そして市場が拡大する。メイドインチャイナの品質が高まれば、国内市場を刺激する。家電も携帯電話も自動車もこうして市場が進化し拡がり続ける。13億人の巨大市場へは海外から新技術、新設備、新素材が競い合って入り相乗効果も高まり、変化のスピードは速くなる。中産階級の拡大、農村の都市化で13億人の巨大市場の進化はまだこれから本番を迎える。

インターネットとモバイル

中国は驚異的な速度で社会の情報化が進む。日本はまだキャッシュレス社会を目指すためにカード使用の還元サービスを行うなど、キャッシュレス社会の入り口にいるが、中国は既に店員が「現金でもいいですよ」と顧客に言う時代になった。逆に顧客が「現金でもいいですか」と気遣いながら買い物をしている。最近、広西自治区の山奥にある少数民族村で10元の民芸品を買ったが、それすらスマホで支払いが可能である。ケンタッキーやマクドナルドでは既に注文も支払いもスマホで済み、現金で支払う人は旅行で訪れる外国人くらいである。

「新時代」はインターネットとモバイルが新ビジネス、新サービスを生み出す。“滴滴”など自家用車を使う“網約車”(インターネット配車サービス)が急速に普及し、今や市民生活に欠かせないものになっている。2016年6月の“網約車”利用人口は1.2億人だったが2019年6月には3.4億人に拡大し、市場規模は371億元から2225億元、約3兆6千億円に成長した。仕事の終業後、自由な時間を活用し“網約車”を運転する人が増え車両契約者は2018年に3千万人になった。

また、レストランの“外売り”市場も急速に成長した。「中国即時配送行業発展報告」によると2015年の“外売り”市場規模は1348億元だったが、2018年は3611億元で、2.7倍の成長である。2019年6月現在、4.2億人が“外売り”を利用している。日本で言う飲食店の“出前”サービスが中国では一大産業に成長した。

そのインターネットシステムを運営する「美団」に登録する料理配達員は“美団騎手”と言われ、全国に270万人いる。「美団」の“外売り”は飲食だけでなくスーパーの商品や生鮮食品、花なども対象になっている。ケンタッキーは進出時から中国に合わせた経営システムを研究して市場を拡大させた。しかしマクドナルドはそれが遅れ、2017年に中信集団に中国内地2500店、香港240店の経営権、全株式の52%を20億米ドルで譲渡した。経営が変わり、マクドナルドは積極的に“外売り”を取り入れ売上を拡大している。インターネットとモバイルは市場規模を拡大させるとともに、多数の就業者も生み出している。

携帯電話も5G時代に入りつつある。2019年8月の携帯電話出荷台数、3088万台のうち5Gスマホが22万台である。その市場を引っ張るのはファーウェイの地元、広東省である。5G化でさらに新サービスに拍車がかかるだろう。

モバイル社会の成長は内陸地域に住む人にも等しくビジネスチャンスをもたらす。EC(インターネット小売販売)の農村における「淘宝」に出店する企業、人を「淘宝鎮」「淘宝村」と言うが淘宝の報告では2018年まで16年間の個人出店者の平均年齢は約25歳で、今は出店者の62%を女性が占めている。出店者の若さの順位では一位が貴州、以下順に重慶、西蔵、寧夏、海南、四川、雲南、広東、青海、内蒙古である。

「90後」(中国で使われる用語で、1990年代生まれの世代を指す)がEC ビジネスにおいてもその消費においても牽引役になっている。彼らは、給料をもらいすぐに消費する「月光族」と言われ、苦労を知らず温室で育った「草苺族」とも呼ばれた。だが一方で彼らは「新時代」の牽引役である。「モバイル」と「90後」の組み合わせは、無限の可能性を秘める。

中国はなぜ成長し、どこに向かうか、そして日本は?』
和中清
1946年大阪生まれ。(株)インフォーム 代表取締役 経営コンサルタント。 1991年に上海に事務所を設置し日本企業の中国事業協力に取り組む。国立研究開発法人 科学技術振興機構 中国総合研究・さくらサイエンスセンターのHP「Science Portal China」のコラム「和中清の日中論壇」で中国情報の執筆を2009年より続けている。業務の傍ら、70歳を過ぎ中国の自然に魅せられ、中国の自然、街、村を紹介するサイト「感動中国100」を開設して100か所の紹介を目標に活動を続けている。著書に『仕組まれた中国との対立』(クロスメディア・パブリッシング)、『中国が日本を救う』(長崎出版)、『中国市場の読み方』(明日香出版社)、『経営コンサルティング・ノウハウ』(PHP)など多数。近著の中国出版本『奇跡 発展背后的中国経験』(人民東方出版)は中国国家シルクロード出版事業「外国人が書く中国」プロジェクトで傑出創作賞を受賞。

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