5つの「変換キー」と3つの心構え

では、どのように言葉を工夫すればいいのか。具体的な事例の前に、頭に浮かんだ言葉を部下に伝える際に「押す」べき5つの「変換キー」をご紹介しましょう。

(1)共感の変換キー

部下がミスなどをしたとき、経験がある上司は「こうすればよかった」という答えを知っていますから、それをすぐに伝えようとしがちです。しかし、まずは部下の言い分を聞くこと。そして、事実だけに焦点を当てて、その事実を受け入れる、つまり、共感を示すことが大切です。

共感とは、同感ではありません。グチを聞くときのように、「そうだよな」「それなら仕方ないな」という受け止め方をするのが同感。一方、客観的に引いた目を持ちながら、事実を受け入れるのが共感です。

また、部下と同じ土俵に上がらないことも大切。これも客観的に事実と向き合うということですが、部下と同じ土俵に立つと、つい感情的になってしまいがちだからです。

(2)着眼点の変換キー

最近、私たちが調査したところ、部下が上司を嫌いになるきっかけは、しゃべり方や、人前でくしゃみをしたり、口臭ケアをしていなかったりといった、エチケット・マナーであるケースが多いことがわかりました。こうした些細なことをきっかけに「嫌いだな」「苦手だな」と思うと、上司の悪いところにばかり目が行くようになるのです。

上司についても同じで、ちょっとしたことでも部下がミスをすると、その後、ついつい部下の悪いところばかり見てしまいがちになります。「自分にもそんな時期があった」ということを肝に銘じて、部下ができていることや得意なことに着眼するようにしましょう。そして、部下が前に進める言葉を選んでください。

「どうせ私なんて」と言っている部下には「今のあなただからこそ、職場でできることがあります」、「異動なんて思い通りにいかないですよ」と嘆く部下には「思い通りにならないから、会社は面白い。楽しめ」など、部下の着眼点を変えさせる言葉をかけることも大切です。

失敗した部下に「また成功の法則発見しちゃった!?」と言うのも、上司の世代は聞き慣れているフレーズかもしれませんが、部下の世代には新鮮に感じます。

(3)指摘の仕方の変換キー

あるミスをした部下に対して、「そんなだから、お前はいつも……」などと、他のことについての注意まで一緒にする上司がよくいます。しかし、そうすると、具体的に何が悪くて、どう改善すればいいのか、部下が納得できる説明になりません。特に今の若い人は納得できないと動かない傾向が強いので、ワンポイントについてだけ指摘し、改善されたあとのイメージも共有するようにしましょう。

また、感情的に指摘したり、上から目線で指摘したりするのもNG。追及するとメンタル不全になる可能性もあります。

(4)ねぎらいの変換キー

「ありがとう」「お疲れ様」などの感謝の言葉をかけることも大切です。ポイントは、最初に伝えること。メールであれば、冒頭に書いてください。自分に対してよくしてくれた相手には、自分もよくしてあげようと思う、「返報性の法則」が働きやすくなります。

(5)支援の変換キー

メールの最後には「頑張ってね」「期待しています」「信じてるよ」といった、応援の言葉を書いてください。面と向かっては言いにくい言葉ですが、メールでなら書けるのではないでしょうか。

ここで重要なのは、部下が成長するには時間がかかるという大前提。すぐに成果を上げてくれると期待するのではなく、新入社員であれば10~20年後に会社を支える人材になってくれることを信じて、支援をしてください。

以上の5つの変換キーを押すに当たっての心構えも3つ、お伝えします。

1つ目は、注意や指導、叱責をするときは、メールで伝えたあと、極力、電話でフォローすること。口調など、生の声でなければ伝わらない要素が重要だからです。

極端ですが、有名大学の大学院卒の上司がメールで部下を注意しようとしたら、論文のような文章になってしまい、20歳くらいの部下が強いストレスを感じたという例もあります。

2つ目は、照れずに実践すること。先ほどもお話したように、メールなら口頭よりもハードルが低いはずです。

そして最後に、少しずつでも継続すること。そうすれば、「本当に心配してくれているんだな」と部下に感じてもらえます。部下は、上司が思っている以上に、上司の言葉に救われているのです。逆に言えば、その気持ちがなければ、部下に見透かされます。