本業を中心に1社数千万円~数億円の新会社を次々に設立し、日本で最も事業多角化に成功しているオーナー経営者・ヤマチユナイテッド代表の山地章夫 氏。父の会社を引き継ぎ倒産寸前となるも、現在では50社超の会社を次々と作り上げ、グループ総売上160億円企業、利益10億円、毎年10%以上の成長を続け、実質無借金経営という、卓越した経営手法が注目されている。

連邦・多角化経営
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本記事は、幹部の反乱・社内クーデター、新事業の失敗、縦割り組織の弊害など、自らの経験から、試行錯誤の末、導きだした多角化の経営ノウハウをあますところなく提示する著書『連邦・多角化経営』(税込14,850円、日本経営合理化協会出版局)の第7章、P283-291から一部を抜粋・編集して掲載しています。

目次

  1. 持ち株会社でグループ全体を統制
  2. 縦割りの「セクト主義」を防ぐ
  3. 子会社は持ち株会社に配当を出す
  4. 書籍詳細
    1. 連邦・多角化経営

持ち株会社でグループ全体を統制

TOB
(画像=PIXTA)

当社の多角化経営の特徴は、50以上の事業をひとつの会社のように運営していることだ。そのために、ホールディング会社(持ち株会社)と資本関係のある各子会社や各事業部をひとつの組織とみなし、グループ全体が効率的かつ効果的に運営されるように統制管理している。これをアメリカ合衆国にならって、「連邦経営」と呼んでいる。

アメリカという国は、それぞれの州に一定の権限が与えられ、それでも「ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ」(アメリカ合衆国)としてひとつの国に束ねられている。

会社法や刑法などの法律も州ごとに異なる。外交や国防、大きな経済政策などの重要事項の決定は国家が取り仕切っているが、各州で消費税率が異なるなど、地方の州政府に権限が委譲されているのだ。

アメリカ合衆国と同じように、当社の連邦経営も、持ち株会社のもと、それぞれの子会社や事業のトップに権限が与えられると同時に、それらがひとつの会社のように機能する仕組みをめざしている。持ち株会社に「ヤマチユナイテッド」というグループ名をつけて、連邦化を図ってきたのも、アメリカ合衆国の仕組みを意識した結果である。現在の当社は、私がトップを務める「山地ユナイテッド(株)」というホールディング会社が組織全体を取りまとめ、その下にすべての子会社や事業部がぶら下がる形になっている。それぞれの子会社や事業部には、執行役である事業責任者がいて現場を取り仕切っている。(第27図参照)

第 27 図 ヤマチユナイテッドのホールディング経営体制
(画像=連邦・多角化経営)

私が連邦化を推し進めるようになったのは、2004年以降のことである。

当時はインターデコハウスなどの新事業が軌道に乗り、すでに多角化を進めている時期で、会社は成長路線を歩んでいた。

ところが、1章でも述べたとおり、私がヨーロッパ視察から帰国すると、叔父が経営する住宅会社でクーデターが勃発。私は残ってくれた社員とともに経営再建に乗り出した。得意先への説明にはじまり、金融機関や仕入先との交渉、新しい営業戦略などに自ら奔走した。

結果的にジョンソンホームズと合流させ、事業拡大に結びつけることができたが、同時に複数の会社を運営する難しさを思い知らされることとなった。

グループ会社のひとつが経営危機に瀕していても、他のグループ会社にとっては直接関係のないことなので、他のグループの幹部に応援する雰囲気がなく、無理に支援するように指示しても逆効果になることが予想された。

当時、私は他の会社の社長も兼任していたにもかかわらず、結局私が孤軍奮闘する結果となってしまった。次々と問題がわいてきては、もぐら叩きゲームのごとく火消しに走る。当時は毎日10近くの会議をはしごするのが日課となっていた。経営再建の最中は私の負担ばかり増えてしまって、本来すべき社長の仕事も十分にできなかったのだ。

つまり、グループ企業が縦割りになっていたために、スピード感とシナジーのある組織経営ができなかったのである。

この時、次のような思いが脳裏をかすめた。「グループ全体を普段からひとつの企業のように運営できていれば、スムーズに協力してもらうことができ、もっと早く再建もできたのではないか」こうした経験から生まれたのが「連邦経営」である。それから私は、新たなグループ体制の構築に取りかかり、「グループ会社は、それぞれ会社や事業が違っても、同じ大きなひとつの会社である」と宣言。基本となる共通の規則や規定を整備した。

そして、2006年には「100事業で100人の経営トップを創る」「利益1億円事業100個で利益100億円企業を目指す」というコンセプトのもと、「THE 100 VISION」というグループビジョンを提示。連邦化をすすめることによってリーマンショックや東日本大震災などのピンチを乗り越え、現在に至るまで成長軌道を描くことができている。

縦割りの「セクト主義」を防ぐ

リーダー・先輩が取り組むべき職場環境の改善策⑦
(画像=Tom Wang/Shutterstock.com)

連邦経営のメリットはいくつもあるが、最も大きいのは多角化がすすんで子会社や事業が増えても、縦割りのセクト主義に陥ることなく、縦、横、斜めのコミュニケーションを通じて、複数の会社や事業をひとつの会社のように運営できることである。

多角化によって会社や事業部が増え、それぞれが独立採算で運営されるようになると、各事業の縦割り化がすすみ、セクト主義に陥りがちだ。大企業や官僚組織によく見られるように、「自分たちの事業部さえよければいい」「他の事業部がどうなろうと関係ない」と考える幹部や社員が増えていく。それでは、せっかく多角化しても、グループとしての総合力は発揮されない。それどころか、足の引っ張り合いを始めてしまう。

当社の場合も、連邦化を図る前は、住宅事業とイベント事業はまったく畑が違うので、お互いに協力したり、応援したりするような態度は見られなかった。それこそ「自分たちの事業がうまくいっていればいい」という雰囲気が蔓延していたのだ。

せっかく全員参加のシステム経営をおこなっていても、組織が縦割りのままでは、トップはそれぞれの事業で起きるさまざまな問題に対処するために奔走しなければならない。現に私自身、各事業の会議や問題解決に忙殺されていた。

その点、連邦経営では、グループの全会社・事業をひとつの会社として運営し、現場の事業責任者に権限委譲する。そして、縦、横、斜めのコミュニケーションを促すことで、縦割り組織の弊害に陥らず、柔軟性のある組織運営ができるのだ。

連邦経営をスタートさせてからは、それぞれ従事する事業は違っても、同じ会社グループであるから、幹部社員たちは会議でもお互いに意見やアイデアを出し合ったり、困っている時は協力したりといった動きもみられるようになった。適正な競争意識や「自分たちだけよくてもダメだ」という連帯責任の感覚をもつ幹部も増えた。つまり、シナジー効果があらわれたのだ。

また、グループ間の人事異動もしやすくなるので、適材適所に人材を配置することができ、組織力の強化にもつながった。

今振り返ると、連邦化を始める前の当社は、「1+1=2」という足し算の組織にすぎず、グループとしての力を十分に発揮できていたとはいえない。

しかし、連邦経営に切り替えてからは、「1+1=10」、さらには「1+1=100」になるようなシナジー効果が起きていることを実感している。

子会社は持ち株会社に配当を出す

株,配当金
(画像=Andrii Yalanskyi/Shutterstock.com)

連邦化の大きなメリットをもうひとつ挙げるとすれば、資本(オーナーシップ)と経営(マネジメント)の分離を図れることも見逃せない。

当社の場合、ホールディング会社である山地ユナイテッド(株)が事業会社の株式を100%保有する持ち株会社制で運営している。私自身は多くの事業会社の社長も務めているが、基本的には山地ユナイテッド(株)の社長という立場で、オーナーとしての立ち位置である。事業会社の経営は、基本的に幹部に任せている。

中小企業の場合、そのほとんどが出資者と経営者が重なるオーナー経営で、社長とその親族が株式のほとんどをもっているケースが多い。こうした状況下では、オーナー社長は株主と経営の執行役を兼任しているため、どうしても株主配当などに対する意識が不足し、経営に甘さが生じてしまう。

しかし、上場企業がそうであるように、本来、株式会社は出資者である株主の目を意識し、できるだけ配当を増やそうと経営努力をするべきだ。株主の存在を意識するからこそ、経営に緊張感が生まれるのである。

その点、ホールディング会社に株式や資産を集約し、資本と経営の分離を図ることで、経営をおこなう子会社の幹部たちは株主を意識した経営をするようになる。

さらに、各子会社は株主である山地ユナイテッド(株)に配当を出す仕組みになっている。資本金の最低でも10%の金額を配当するのだ。資本金の10%なので、実際の配当金はそれほど大きくはならないが、グループ会社であっても配当を出すという仕組み自体に意味がある。

また、山地ユナイテッド(株)では各子会社からの配当金を管理し、子会社に支援や出資をする際は、配当金収入から出すことをルールとしている。子会社は「困った時は親会社がなんとかしてくれるだろう」と親会社に頼ってしまうのが常である。しかし、このように資本と経営をはっきりと分けることによって、各事業会社の幹部は緊張感をもって経営にあたることになる。

当社では「楽しさのオブラートに包まれた厳しい社風の経営」という表現を使うが、権限委譲によって幹部や社員がのびのびと楽しく仕事に取り組める環境をつくると同時に、彼らにはグループの一員として厳しさをもって経営にあたることを求めているのである。

ホールディング会社を設立して連邦化すると、事業承継の面でもメリットが大きい。

オーナー社長が株式の大半をもっているケースで、それらをいつか相続で承継しなければならない場合、株式(=オーナー権)をホールディング会社にまとめておけば、相続もスムーズにすすめられる。

仮に相続対象である親族には経営は任せられないというケースでも、オーナー権だけを譲って、経営は非同族に任せるといった選択肢もとることができる。

また、ホールディング会社に株式を集約しておけば、株価を管理するのも比較的容易である。親会社が赤字で株価が下がれば、株式の相続もスムーズにおこなえる。

株式が子会社の幹部や関係者に分散している状態だと、いざというとき買い集めるのも大変だ。トラブルの原因ともなりかねない。したがって、当社の場合、まだ相続は先の話だが、いざというとき不都合が生じないように山地ユナイテッド(株)に各社の株式を集約しているのだ。

このように連邦化のメリットは少なくない。多角化の初期のうちは、縦割り経営の弊害はそれほど気にならないかもしれない。しかし、多角化がある程度すすんで会社や事業が増えてきたら、連邦経営へと舵かじを切ることをおすすめしたい。

書籍詳細

連邦・多角化経営

連邦・多角化経営
山地 章夫(やまち・あきお)
ヤマチユナイテッド代表
葡萄の房のように、本業を中心に1社数千万円~数億円の新会社を次々に設立する「連邦・多角化経営」を実践。日本で最も事業多角化に成功しているオーナー経営者。
父の会社を引き継ぎ倒産寸前となるも、本手法で札幌を中心に住宅・建材・インテリア・貿易・メディア関連・イベント会社・WEB制作・英会話・介護会社など、50社超の会社を次々と作り上げる。グループ総売上160億円企業の代表。利益10億円、毎年10%以上の成長を続け、実質無借金経営。
現在の氏は、修行僧のようにストイックに働く社長とは対照的に、イキイキと自主的に働く社員に囲まれ、時間に余裕をもちながら、人生も経営も心から楽しむ生活をおくっている。
そんな氏の卓越した経営手法を学びに、全国から伸び悩んでいる企業の社長や、幹部が育たないと嘆く社長、社員が楽しく働ける会社を作りたい社長などが、我社でも実践したいと連日教えを乞う。
とくに、幹部を育成する仕組みと経営技術。若手をやる気にさせる手法。グループ子会社の任せ方。儲かる新事業の見つけ方…など目からウロコの経営手法として注目されている。
■2015年度グレートカンパニー大賞受賞(船井財団主催)
■日経新聞北海道就職希望ランキング11位(2014年)
■札幌市注文住宅年間着工棟数第2位(2014年)を立ち上げ、顧客の習慣化による事業成長の仕組みづくりを実践している。


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