2020年4-6月期は前期比年率▲27.8%と過去最大のマイナス成長

2020年4-6月期の実質GDPは、前期比▲7.8%(前期比年率▲28.8%)と3四半期連続のマイナス成長になった。成長率のマイナス幅は、リーマン・ショック後の2009年1-3月期(前期比年率▲17.8%)を上回り、GDP統計で遡ることができる1955年以降(1)で最大となった。

新型コロナウィルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言の発令に伴う外出自粛や店舗休業の影響で、民間消費が前期比▲8.2%の大幅減少となったほか、企業収益の悪化や先行き不透明感の高まりから設備投資が同▲1.5%と2四半期ぶりに減少した。新型コロナウィルス感染回避のため医療機関の利用が急減し、政府消費が前期比▲0.3%の減少となったため、公的需要も前期比▲0.0%の減少となった。この結果、国内需要は前期比・寄与度▲4.8%(年率▲19.1%)の大幅減少となった。

また、海外経済の急激な悪化やインバウンド需要の消失から輸出が前期比▲18.5%の大幅減少となり、外需も前期比・寄与度▲3.0%(年率▲10.8%)と成長率を大きく押し下げた。

実質GDPは、消費税率引き上げや新型コロナウィルス感染症の影響で2019年10-12月期から2020年4-6月期までの3四半期で▲10.0%落ち込んだ。これは、リーマン・ショック前後の2008年4-6月期から2009年1-3月期まで(4四半期)の▲8.6%を上回る落ち込み幅である。

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(1)1980~1993年は簡易遡及系列、1955~1979年は68SNA・1990年基準

●緊急事態宣言解除後の経済動向

2020年4-6月期は過去最大のマイナス成長となったが、5月下旬に緊急事態宣言が解除されたことを受けて、生産、輸出、消費などの主要経済指標は2020年5月を底に持ち直している。景気動向指数のCI一致指数は、新型コロナウィルスの影響が本格的となった2020年3月から5月にかけて▲21.4ポイントの急低下となったが、6月には前月差+3.5ポイントと5ヵ月ぶりの上昇となり、一致指数を構成する8系列(速報段階)の全てがプラス寄与となった。2018年11月(2)に始まった景気後退局面はすでに終了し、2020年5月が景気の谷となる可能性が高い。

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(2)内閣府経済社会総合研究所は、7/30に開催された景気動向指数研究会の合意に従い、第16 循環の景気の山を2018 年10 月と暫定的に設定することとした。第16循環の景気拡張期間は71ヵ月となり、戦後最長の第14循環の73ヵ月に届かなかった。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

緊急事態宣言下で極めて大きな落ち込みを記録した個人消費は、業界によって濃淡はあるものの、総じてみれば5月を底に持ち直している。家計調査の実質消費支出は、緊急事態宣言下の4月、5月はそれぞれ前年比▲11.1%、同▲16.2%と前年比で二桁の大幅減少となったが、6月には同▲1.2%と減少幅が大きく縮小し、前月比では13.0%の大幅増加となった。緊急事態宣言の解除に伴うペントアップ需要(抑制されていた需要)の顕在化に加え、1人当たり10万円の特別定額給付金の支給が消費の押し上げ要因になったとみられる。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

6月の家計調査では、勤労者世帯の可処分所得が実質・前年比18.9%の大幅増加となった。勤め先収入などの経常収入は同▲1.1%の減少となったが、特別定額給付金の支給によって特別収入が同1824.4%の急増となったためである。特別収入の実額(一世帯当たり)は15.5万円、前年差14.7万円であった。総務省によれば、給付総額12.73兆円のうち6/26までに9.12兆円(71.6%)、7/31までに12.32兆円(96.8%)が支給された。家計の可処分所得は7月までは特別定額給付金の支給によって大きく押し上げられる。ただし、その後は、景気悪化に伴う勤め先収入の減少が可処分所得の減少に直結する形となるだろう。

6月の消費は大きく持ち直したが、外食、宿泊、娯楽などのサービス消費は引き続きコロナ前の水準を大きく下回っている。日本銀行が作成している実質消費活動指数を形態別に見ると、耐久財、非耐久財は緊急事態宣言の影響で4、5月には大きく落ち込んだものの、6月にはペントアップ需要の顕在化によって大きく反発し、感染症の影響が顕在化する前の2020年1月の水準を上回った。一方、外出自粛の影響を強く受けたサービスは、緊急事態宣言中の落ち込み幅が財を大きく上回ったことに加え、6月の戻りも小さい。6月のサービス消費の水準は1月を▲20%以上下回っている。また、6月の財消費が強い動きとなったのは、4、5月に外出自粛、店舗休業の影響で購入できなかったものを、緊急事態宣言解除後にまとめて購入したことが一因となっており、持続性には疑問が残る。実際、家計調査の日別消費支出をみると、6月の初旬、中旬には前年比で増加に転じる局面があったものの、下旬には再び前年割れとなっている。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

また、7月以降は新型コロナウィルス陽性者数の再拡大を受けて、愛知県、沖縄県で独自の緊急事態宣言が出され、東京都でも8/3から酒類を提供する飲食店・カラオケ店に対し営業時間の短縮(夜10時まで)を要請したことなどから、人々の自粛の動きは再び強まっている可能性がある。Google社の「コミュニティ モビリティ レポート」によれば、小売・娯楽施設(レストラン、カフェ、ショッピングセンター、テーマパーク、映画館などが対象)の人出は、緊急事態宣言の解除を受けて、持ち直しの動きが続いてきたが、7月に入ってからは横ばい圏の動きとなっている。個人消費は、外食、宿泊、娯楽などのサービス消費を中心にここにきて足踏み状態となっている可能性が高い。

人出
(画像=ニッセイ基礎研究所)

実質成長率は2020年度▲5.8%、2021年度3.6%を予想

●2020年7-9月期は年率10%超の高成長も、4-6月期の落ち込みを取り戻せず

2020年4-6月期は過去最大のマイナス成長となったが、月次では6月に大きく反発したため、6月の経済活動の水準は4-6月期の平均を大きく上回っている。

当研究所が推計している月次GDP(実質)は、2020年4月に前月比▲6.3%と急速に落ち込んだ後、5月に同▲0.9%と減少幅が縮小し、6月は同4.5%の高い伸びとなった。6月の月次GDPは4-6月期平均を2.7%上回っている。このことは、GDPが7月から9月まで横ばいにとどまったとしても、7-9月期の実質GDPは前期比2.7%(年率10%超)の高い伸びとなることを意味する。

7-9月期は高い発射台からスタートすることもあり、前期比年率13.1%の高成長になると予想する。ただし、外食、宿泊などのサービス消費の持ち直しが限定的にとどまっていること、7月に入り新型コロナウィルスの陽性者数が再び増加したことを受けて自粛を求める動きが強まっていることから、経済活動の正常化は遅れている。7-9月期の実質GDPは表面的には高い伸びとなるが、4-6月期の急激な落ち込みの後であることを踏まえれば、回復ペースは鈍いとの判断が妥当だろう。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

需要項目別には、民間消費は前期比4.9%の高い伸びとなるが、サービス消費の低迷が続くことから、4-6月期(前期比▲8.2%)の落ち込みを取り戻すには至らない。工事の進捗ベースで計上される住宅投資、設備投資が増加に転じるのは10-12月期までずれ込むだろう。また、国内の経済活動が正常化に向かったとしても、世界的に出入国制限が緩和、解除されるのはしばらく先となる可能性が高い。このため、輸出入はサービスを中心として回復ペースが緩慢なものとなることが予想される。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

景気は2020年5月に底打ちしたとみられるが、今後の回復ペースは急激な落ち込みの後としては、緩やかなものにとどまりそうだ。

「新しい生活様式」の実践は恒常的に外食、旅行などのサービス支出を抑制する要因となる。また、経済活動の収縮が一定期間継続し、倒産、失業者の大幅増加が不可避となったことで経済基盤が損なわれ、経済活動の制限がなくなったとしても需要が短期間で元の水準に戻ることは難しくなった。雇用者所得の減少、企業収益の悪化は長期にわたって個人消費、設備投資の下押し要因となるだろう。

さらに、人々が3密を避ける姿勢が従来よりも強くなったことで、通常のインフルエンザ流行時にも外食、旅行、コンサート、各種イベントなどが敬遠され、レジャー関連の需要が落ち込むリスクもある。仮に、通常のインフルエンザ流行時に今回のように毎日の感染者数、死者数が報道されるようなことがあれば、人々が過剰反応する可能性も否定できない。もちろん、コロナ後の新しい生活様式によってこれまでなかった需要が新たに生み出されることは期待できる。しかし、従来型の需要の消失分を短期間で取り戻すことは難しいだろう。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

実質GDP成長率は2020年度が▲5.8%、2021年度が3.6%と予想する。今回の予測期間末である2022年1-3月期の実質GDPは直近のピーク(2019年7-9月期)と比べて▲2.9%低い水準にとどまる。実質GDPが元の水準に戻るのは2022年度以降となろう。