「退職金は、定年を迎えた人や離職した人たちにも支給されていたみたいだし、自分が会社を辞める時にももらえるはず」。このように考えるのは、ごく自然なことです。しかし、会社側には必ずしも退職金の支払い義務があるわけではないのです。
「もらえると思い込んでいたら、もらえなかった……」とならないように、今のうちにきちんと確認しておきましょう。
そもそも退職金とは?
退職金とは、従業員が会社を辞める際に勤務先が支払う金銭のことで、一括で支給される「一時金」と、定期的に一定額が給付される「年金」に大別できます。前者が「退職一時金制度」、後者が「企業年金制度」で、その総称が「退職給付制度」です。一般的に「退職金制度」と呼ばれていますが、正式名称ではありません。
退職金をもらえるかどうかは、勤務先が定めた「就業規則」の内容によって変わります。
労働基準法によって遵守が義務づけられている「就業規則」
労働条件の最低ラインについて定めた労働基準法には、「労働者および使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない」と明記されています。つまり勤務先(使用者)は、就業規則に記されていることを確実に実行しなければならないのです。
労働基準法では、常時10人以上の労働者を雇用している使用者に対し、就業規則の作成を義務づけています。また、同法は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならない」と定めています。
「退職金=賃金」であれば、法律によってその支払いが義務づけられていることになります。ところが、実際は退職金が賃金に該当しないと解釈されるケースもあります。前述のとおり、その分かれ道となるのが就業規則の内容です。
退職金制度は就業規則では任意記載事項
始業・終業の時刻や休憩時刻、休憩時間、休日、各種休暇などは、就業規則に必ず記載しなければならない項目です。これに対して退職金制度は「任意記載事項(相対的必要記載事項)」であり、特に中小企業では退職金を支払っていても就業規則には明記していないケースがあります。
就業規則にきちんと定めておらず、勤務先(使用者)が自らの裁量で退職金を支払っている場合は、退職金が賃金に該当しないと判断される可能性があるのです。退職金が賃金とみなされない場合、勤務先は退職金の支払い義務を負っていないことになります。
まずは自分の会社の就業規則をきちんと確認し、退職金に関する記載の有無をチェックしたほうがよいでしょう。
就業規則に退職金に関する記載があればひと安心ですが、該当箇所が見当たらなかったり、雇用している労働者の数が10人未満で、就業規則自体が作成されていなかったりするとやっかいです。
支払われたとしても、税制上の恩恵を受けられない可能性がある?
就業規則に退職金に関する記載がない、もしくは就業規則自体が存在しないにも関わらず、これまでずっと慣習的に退職金が支払われていた場合、法的な判断は難しいようです。このような慣習のことを、法律の世界では「労使慣行」と呼びます。
過去の裁判例では、「労使慣行が事実たる慣習として、労働契約の内容を構成するものとなっている場合に限り、法的拘束力を有するものというべきである」との判断が下されています。そして、「労使慣行が事実たる慣習である」と認められるためには、以下の3つの条件を満たす必要があるとしています。
①同種の行為または事実が一定の範囲において長期間にわたって反復継続されている
②労使の双方が明示的に当該慣行によることを排除・排斥していない
③当該慣行が労使の双方の規範意識に支えられている
退職金制度が明文化されていない場合、離職時にそれに相当する金銭を受け取ることができたとしても一抹の不安が残ります。税制上、退職金ではなく給与所得(賞与)や一時所得とみなされると、「退職所得控除」が適用されないからです。
「退職所得控除」とは、勤続年数20年以下で「40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)」、勤続年数20年超で「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」を退職金から差し引いた上で税金が計算されるという決まりのことです。このような税制優遇が受けられないのは、軽視できないポイントです。
曖昧なままで放置していると、将来困るのは自分自身
一般的に退職金は長く勤めるほど多くなるだけに、あてにしていたのにもらえないとなるとライフプランに支障が出ます。自分の会社の就業規則を改めて確認し、退職金制度に関する記載の有無をチェックしておきましょう。
退職金について明記されていなかったり、就業規則自体が存在しなかったりした場合は、勇気を出して勤務先に問い合わせてみましょう。聞きづらいからという理由でうやむやにしていると、将来困るのは自分自身だからです。(提供:Wealth Road)v