年金制度に対する不安が高まる中、老後貯金はどの程度必要なのか、資産形成に危機感を持っている人も多いでしょう。2019年には、金融庁が示した「老後には2,000万円必要」というデータも話題になりました。年代別の平均貯金額や、老後貯金額として考えておきたい目安、資産形成に役立つ投資法の概要などを解説します。
年代別の平均貯金額
金融広報中央委員会「知るぽると」の「家計の金融行動に関する世論調査(2019年)」によると、世帯主の年齢別に分けた金融資産保有額の平均と中央値、預貯金額の平均は以下の通りです。
金融資産平均(万円) | 金融資産中央値(万円) | 預貯金額平均(万円) | |
---|---|---|---|
20歳代 | 220 | 165 | 106 |
30歳代 | 640 | 355 | 322 |
40歳代 | 880 | 550 | 372 |
50歳代 | 1574 | 1000 | 586 |
60歳代 | 2203 | 1200 | 946 |
70歳代以上 | 1978 | 1100 | 892 |
平均値は、保有額が極端に大きい人と小さい人の影響を大きく受けているため、より大勢の実感に近い値は中央値といえるでしょう。なお、上記のデータは、貯蓄が全くない世帯を含まないデータです。貯蓄0世帯を含めると、数値はさらに下がります。
金融庁の「老後2,000万円」問題とは
2019年6月には、95歳まで生きるために夫婦で約2,000万円必要になるという、金融庁の金融審議会が示した報告書が話題となりました。年金収入のみに頼った生活では、65歳からの30年間で、毎月約5万円足りないという試算がなされています。
結局、この報告書は与野党からの批判を受け、大臣に受理されず事実上撤回されることになりました。しかし、世間の大きな注目を集めた話題であり、報告書内で強調された「長期・分散型投資の重要性」は、老後の人生設計に対する意識の高まりを喚起したともいえます。
老後に必要な貯金額の目安
単身の場合、夫婦の場合でそれぞれ老父語に必要な貯金額の目安について確認していきましょう。
単身の場合
厚生労働省の「2018年家計調査報告」によると、60歳以上の高齢単身無職世帯のひと月あたりの実収入総額は約12万円、消費総額は約16万円です。毎月約4万円足りないことになり、90歳までの25年間では、約4万円×12ヵ月×25年=約1,200万円不足します。
さらに、介護費用を約500万円、葬儀費用を約200万円見積もると、合計で約1,900万円となり、単身世帯における老後貯金の目安は2,000万円前後です。
夫婦の場合
上述したデータでは、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上・妻60歳以上)のひと月あたりの実収入総額は約22万円、消費総額は約26万円です。単身世帯と同様、毎月約4万円足りないことになるため、90歳までの25年間では、夫婦で約1,200万円不足します。
さらに、介護費用と葬儀費用が単身世帯の2倍かかるとすれば、総額で約2,600万円不足することになるため、3,000万円前後の老後貯金があれば安心です。
老後の主な収入と支出
老後貯金の中で最も負担の大きい費用は生活費です。また、高額療養費制度が適用されるものの、若い頃に比べると病院代の負担も増えるでしょう。介護費用や死後にかかる費用も頭に入れておく必要があります。
一方、リタイア後にもらえるお金は、退職金を除けば、基本的には国民年金と厚生年金のみです。会社員や公務員ならどちらも受け取れますが、自営業者は国民年金しか受け取れません。
老後貯金の増やし方
主な方法5つをご紹介いたします。
方法1.定期預金
預け入れてから一定期間引き出せない預金です。普通預金より高めの金利が設定されているため、多くの人が資産形成の手段として取り入れています。預金保険制度により預金が保護されるリスクの低さは魅力ですが、非常に金利が低いことから大きく増やすのには向きません。
方法2.個人年金保険
公的年金の受給開始に合わせて受け取れる私的年金です。一定期間もらえる確定年金や有期年金、亡くなるまで受け取れる終身年金などの種類があります。支払った保険料には控除が適用されるため、節税につなげられることがメリットです。一方、途中解約すると、ほとんどのケースで元本割れします。
方法3.iDeCo
確定拠出年金法に基づいて実施されている私的年金制度です。20歳以上60歳未満であれば、全ての人が加入できます。掛金額を自分で設定することが可能であり、掛金が全額所得控除されるなど、税制面で優遇されることがメリットです。ただし、原則として途中解約できず、60歳になるまでは原則として資産を引き出せません。
方法4.つみたてNISA
主に少額投資を支援するための税制優遇制度です。2037年までの最長20年間、新規投資額で毎年40万円を上限とし、一定の投資信託への投資から得られる分配金や譲渡益が非課税となります。税制上の優遇措置を受けつつ、自由に投資し老後資金に備えられますが、限られた商品の中から自分で投資先を選ばなければなりません。
方法5.不動産投資
不動産を購入し、家賃収入や物件の売却益で資産形成する投資法です。家賃収入により長期的に安定した収入を得られる可能性がある上、ローン完済後に大きな物件売却益を老後貯金として得られる魅力があります。相続税対策としても活用できるでしょう。一方、空室リスクや家賃滞納リスクなどへの備えも必要です。
老後の必要貯金額を知り、足りない分を増やそう
第一線を退いた後も、生活費・介護費・病院代などがかかる一方、収入が年金のみでは生活が困難になるといわれています。単身で約2,000万円、夫婦で約3,000万円の貯金があれば、安心して老後生活を送れるでしょう。退職金をあてにするだけでなく、今のうちから老後に向けた資金形成の方法を検討することが大切です。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。(提供:Wealth Road)