(本記事は、八木龍平氏の著書『成功している人は、なぜ聞き方がうまいのか?』日本文芸社の中から一部を抜粋・編集しています)

説得するのではなく納得してもらう

会話
(画像=Tero Vesalainen/Shutterstock.com)

●説得されると、モチベーションがなくなる

「俺たちは、説得されるより納得したいんだ」

ある工場の組織改革プロジェクトで、改革する管理者側と、改革される従業員側の会話です。

説得されるというのは、他人から理詰めでこうしろ、ああしろと言われることです。それは正しい、あるいは反論の余地はないと考えられるので、「わかりました」と言わざるを得ない、ということですね。

一方、納得するというのは、「ああ、こういうことか」と自分で答えを見つけて、理解すること。

たとえば工場の業務フローを改善しよう、というとき、コンサルタントに説得されて「わかりました」と仕事のやり方を変える場合と、自分たちで問題を発見し、「ああ、これがいけなかったんだ」と気づき、「じゃあ、こうしたらいいんじゃない?」と改善策にたどりついて実践する場合。

後者のほうが、ずっと気分がいいのは誰でも同じだと思います。

では、なぜ人は納得したいのか。なぜ説得されるのが嫌なのでしょうか。

すでにお気づきかもしれません。何度も言っているように、他人にコントロールされたくないからですね。

他人にコントロールされると、モチベーションはなくなります。「勉強しなさい」と言われて、「ぜったい勉強なんかしたくない」と思う小学生と同じです。

モチベーションは、自分で行動を始めるからこそ湧いてくる。自分で気づいて行動するからこそ、生きる力を発揮して、のびのびと能力を発揮することができるのです。

●人は論理では動かない

また、説得はどうしても論理的になるのも問題です。

人は論理では、理屈では動きません。ベストセラーになった『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ著、河出書房新社)では、私たちホモ・サピエンスが繁栄した理由として、3つの革命を挙げています。農業革命と科学革命、そして認知革命です。

認知革命というのは、人類の脳が虚構を信じられるように進化した、ということ。つまり、物語を信じられるようになったのです。ホモ・サピエンスの個体は、それほど強い力を持っているわけではありません。むしろ弱い。しかし、同じ物語を信じて団結する能力を持っていた。それが人類の強みなのです。

つまり、人の脳はそもそも事実や理屈の積み重ねで動くようにはできていないわけですね。それより、たとえ虚構でも、魅力的な物語によって人は動く。

その意味でも、説得はうまいやり方ではありません。その人が納得できる物語を、自分で見つけてもらうほうがずっといいわけです。

相手を応援する気持ちで聞く

●応援の基本は寄り添って促すこと

そのように考えると、聞き上手はアドバイスをするべきではない、ということもよく理解できるでしょう。

アドバイスは、外から働きかける説得の一種です。これでは、相手の力を引き出すことはできません。

相手の内側から納得が湧き出してくるように促すのが上手な聞き手です。

もちろん、アドバイスを求められたときにはすればいいでしょう。けれども、そうでない場合には、アドバイスをするのではなく、応援する気持ちで聞く。これが本当に相手のためになるサポートです。

話し手が自分の中から納得できる物語を見つけ出し、自分の人生を歩いていくことを促す。そのためにじっと話を聞く、ということですね。

では、応援をするとは具体的にどんな振る舞いでしょうか。「がんばれ、がんばれ」と声をかける?

それだと、ちょっとうるさいですね(笑)。

応援の基本は、寄り添って促すことです。これは、あらゆる心理的・社会的なサポートを含めた、対人援助の基本でもあります。

寄り添うとは、空間と時間を共有する。ただそこに一緒にいて、相手に注意を向けることです。

そして、促すというのは、相手の衝動が出てきやすいようにすること。衝動というと大げさに聞こえるかもしれませんが、たとえば話したいことがあるなら話しやすいようにすることです。

そうしたらそのうち、抑圧していたリビドー(根源的欲求)まで表に出てくるかもしれませんね。

これについても、特別なことは必要ありません。

これまで私たちは、どうすれば相手が話しやすくなるか、という聞き方のテクニックを学んできました。

話があれば聞きますよという姿勢で、話しやすい相手としてそこにただいる。それだけで「促し」になるのです。

「ひと言質問」で話を引き出す

●覚えておきたい4つの質問

相手の話を引き出すためには、いくつかの決まった質問をストックしておくのも効果的です。ここでは、便利な4つの質問を紹介しましょう。

1「と、言いますと?」

より話が具体的になる質問です。

いろいろな話を聞いたけれど、いまいち理解できない。相手のとりとめもない話を、わからないままに受け止めるのが聞き上手の基本ですから、それは悪いことではありません。

無理にわかろうとするためではなく、より相手の話をふくらませてもらうつもりで、「と、言いますと?」と投げかけてみましょう。

すると、「つまりですね、こういうことなんです……」と具体的に説明してくれたり、別の角度から説明してくれることが多いです。

2「他にはありますか?」

ひととおり話し終わったあとに、話せなかったことはないか確認する質問です。「他に何かおっしゃりたいことありますかね?」とか、「言い残したことはないですか?」と聞いてもいいでしょう。

すると相手は、何かあったかな……と考える。ここで、前意識にアプローチできる可能性もあります。

この質問の後に、相手が本当に話したかったことが出てきて、「本編」が始まることもしばしばあります。

3「今、特に関心のあることは?」

これは、どちらかといえば会話の序盤や、相手が何を話していいかわからない場面で便利な質問です。「今、何かハマっていることありますか?」でもいい。相手が話したいことを話せる、オープンな質問です。

この質問のいいところは、話し手の価値観や思考が見えること。好きなことやハマっていることはその人の価値観を強く反映しています。あなたの価値観を受け入れますよ、という姿勢の表明にもなるでしょう。

また、その人の好きなことが話題になるわけですから、会話が盛り上がるという効果もあります。

4「どんな状態が理想ですか?」

これは、相手の課題を発見する質問です。

課題、あるいは問題というのは、ようするに理想と現実のギャップのこと。こうなったらいいのに、実際はこうなっている、というギャップが課題です。理想について聞くのは、実は課題について聞いているのです。

それなら直接「課題は何ですか?」と聞けばいいように思えますが、それはうまくありません。

業務改善のための話し合いなどでやってしまいがちですが、「課題は何ですか?」「問題点はどこですか?」という聞き方をされると、相手は「自分の至らないところを聞こうとしている」と身構えてしまうものです。

「あなたの欠点や弱点は何ですか?」と聞くようなものですから、警戒されます。

それよりも、ポジティブに理想について聞いたほうが、相手は気持ちよく話してくれますし、結果として課題も明らかになりやすいのです。

成功している人は、なぜ聞き方がうまいのか?
八木龍平(やぎ・りゅうへい)
1975年京都府生まれ。武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部・兼任講師。北陸先端科学技術大学院大学で博士号(知識科学)を取得。富士通研究所にて「聞き方のメソッド」を開発後、作家に転身。

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