投資の判断材料の一つとして、企業のサステナビリティ(持続可能性)やESG(環境・社会・ガバナンス)方針を重視する投資家が増える中、大きな利益を期待できる分野としてグリーン不動産投資が注目を浴びています。

今回は、2,310億ドル(約24兆853億円)規模の省エネ投資市場の中で最も大きな割合を占める「サステナブル・ビルディング(持続可能な建物)」の投資動向と、注目のグリーン不動産スポットなどをご紹介します。

サステナブル・ビルディングとは?

サステナブル・ビルディング
(画像=lovelyday12/stock.adobe.com)

サステナブル・ビルディング(Sustainable Building)とは、生き物や環境への影響を配慮することを目的に、資材の無駄や廃棄物、汚染(有害物質や温室効果ガスなど)の排出を最低限に抑え、エネルギーや水などの資源の利用を効率化するように設計・建設された建物のことです。「環境配慮型建物」や「グリーンビルディング」と呼ばれることもあります。

住宅のエネルギー消費における最大の課題は暖房です。カナダ天然資源省(NRCan)によると、暖房がエネルギー消費に占める割合は61.3%と、水加熱(18.7%)や電化製品(13.6%)、照明(4.4%)をはるかに上回っています。

しかし、より多くの断熱材や断熱性の高い窓を採用したり、高気密・高断熱住宅に切り替えたりすることでエネルギー消費を抑え、環境問題の解決に貢献することができます。

近年では、住宅用・商業用ビルに自然を活かした空間を創るというコンセプトも脚光を浴びています。例えば、人口密度の高い都市の一つであるロッテルダムでは、ショッピングモールの屋上に1キロ平方メートルもの「欧州最大のルーフパーク」を造りました。

屋上が緑化された建物では、冬季は保温効果による暖房の省エネルギーが見込めます。北欧などでは古くから屋上を緑化した民家がありますが、これは保温性を高めて厳しい冬を過ごすための知恵です。また、夏季には階下の部屋の室温が下がるため、冷房の省エネルギーも期待できます。

このような取り組みを評価する基準として、英国のイギリス建築研究所によるBREEAM(BRE Environmental Assessment. Method)や非営利団体米国グリーンビルディング協議会(USGBC )による「LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)」といった建築物の環境性能評価手法が用いられています。

ビジネス、シェアホルダーにも大きなメリットがある

サステナブル・ビルディングへの移行は、人と環境への配慮だけではなく、ビジネスやシェアホルダーにもさまざまな恩恵もたらします。

最大のメリットは、長期的な運営コスト(光熱費・水道代・維持費など)の削減です。オーストラリアの建築資材大手Wienerbergerが運営するグリーン不動産情報サイト「GoSmartBricks.com」は、環境を配慮した工夫がどの程度なされているかによって差はあるものの、初年以降は運用コストを平均25~40%削減できると推定しています。

「環境に配慮した建物は従来型の建物よりコストが高い」といわれていますが、すべてに当てはまるわけではありません。非営利団体New Ecologyが調査を実施したサステナブル・ビルディングの中には、従来型の手頃な価格の住宅プロジェクトより18%もコストが低いものがありました。コストが上回るものでも、その差は9%程度です。運用コストを平均25~40%削減できるとすれば、長期的に見てどちらが有益かは明白です。

また、不動産価値の上昇も期待できます。「所有している新築のサステナブル・ビルディングの評価額は、従来型の建物より10%高い」と報告したサステナブル・ビルディングの所有者は、2012年に比べて2倍に増えています。

サステナブル・ビルディングへの投資は、消費者の信頼を得る上で欠かせない要素である透明性や企業価値を向上させると同時に、社会的貢献度の高いプロジェクトに携わるという意識が、従業員のモチベーション向上にも役立つでしょう。

サステナブル・ビルディング発展都市はどこ?

英大手不動産コンサルタント企業、Knight Frankの「Active Capital Report(流動性資本レポート)」によると、2020年10月時点で世界にはすでに12万棟のサステナブル・ビルディングがあります。

サステナブル・ビルディングへの取り組みが進んでいる都市を見てみましょう。

EMEA

1990年から環境アセスメント(環境影響評価)分野をリードしてきたロンドンは、世界最多の3,000以上の建物が「グリーン認定」を受けています。ストックホルムには400のBREEAM認定、100以上のLEED認定の不動産プロジェクトのほか、1,500の不動産プロジェクトがスウェーデンの住宅用および商業用建物認証システムMiljöbyggnadに認定されています。

2011年以降、ドバイでは政府所有の不動産は国内のサステナビリティ・プロジェクト「グリーンビルディングの規制と仕様(GBR&S)」の対象となっており、2014年以降に建設されたすべての建物に適用されています。同国ではサステナブル・ビルディングの評価に「Al Sa’fat Rating System」という独自の評価システムを採用しているほか、1,500以上の不動産プロジェクトがLEED登録および認定を受けています。

その他、パリやアブダビも注目のグリーン不動産スポットです。

米国

LEEDの認証にはプラチナ、ゴールド、シルバー、サーティファイドの4つのレベルがあります。
ニューヨークの5つの区では約1,000の建物が認証を受けており、70以上が最高のプラチナに、エンパイアステートビルやワールドトレードセンターといった観光・商業用ビルを含む400以上の建物がゴールドに認定されています。

その他、ロサンゼルス、シカゴ、ヒューストン、ワシントンにおいても、同様のグリーン不動産プロジェクトが活発化しています。

アジア

上海市内には、2016年時点で中国の認証システムであるグリーンビルディング評価ラベル(GBEL)に認定された不動産プロジェクトが260以上ありました。現在は500以上がLEEDやBREEAMに認定されています。

その他、北京、上海、シンガポール、シドニー、メルボルンも、グリーン不動産スポットとして注目されています。

新たなビジネスや雇用創出となるか?長期的な投資としての価値に期待

欧州復興開発銀行(EBRD)の報告によると、すでにサステナビリティ・ビルディングは省エネ投資市場で最大の投資分野であり、2018~2021年に中国や英国を含む19ヵ国でサステナブル・ビルディング関連の活動が活発化することが、USGBC の報告で明らかになっています。

米国においては、環境政策を前面に打ち出しているバイデン政権が誕生した場合、同国のグリーン不動産市場が急速に拡大し、新たなビジネスや雇用を創出することが予想されます。

サステナビリティやESG投資が重要視される今、利益のために不動産に投資するだけでは時代に取り残されてしまいます。これからの投資には、「環境や社会への配慮を利益につなげる」という発想の転換が必須となりそうです。

※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。(提供:Wealth Road