本記事は、川村和義氏の著書『ラーメンを気持ちよく食べていたらトップセールスになれた』(WAVE出版)の中から一部を抜粋・編集しています

「モノを売る」から「ファンをつくる」へ

生命保険
(画像=9dreamstudio/stock.adobe.com)

●形のない商品は必要性で売る

じつは「カタチのないモノを売る」のが、生命保険会社の営業の仕事です。

八百屋さんのように店先で新鮮な野菜や果物を売るわけではないし、パン屋さんで焼きたてのパンを棚に並べて売るわけでもありません。住宅展示場にすてきなモデルハウスを用意しているわけでもなく、ショールームにカッコいい車を展示してもいないし、オシャレな洋服を飾って見せているわけでもありません。

家や車や洋服など、モノの価値が目に見えてわかるものより、「カタチのないモノを売る」というところに難しさがあります。

しかも生命保険は、誰もが欲しがっている(顕在ニーズがある)という商品でもありません。ですから、たいていの人はこう思っています。

「もし自分に何かあったら必要かもしれないけれど、今は元気だし、健康診断でも特別どこも悪くない」

このように生命保険の必要性は、潜在化していて気づきにくいため、「天気のいい日に傘を売る」ような商売なのです。

そこで私たち生命保険販売のプロの仕事は、潜在しているニーズを掘り起こして「顕在化」させること。つまり、まだお客さま自身ですら気づいていないニーズに気づいていただき、「ぜひそれを手に入れたい、かなえたい!」と感じていただくことが、仕事をするうえでの大前提となります。誤解を恐れずに言えば、あらゆる業種の中で最も難しい営業と言えます。

何かを欲しがっている人に、「こちらの商品は、いかがですか?」と勧める営業ではありません。反対に「生命保険はいらないよ」「私には必要ないから」「生命保険は勘弁してよ」という人に、

「そうですよね、皆さんそうおっしゃいます。たしかに今すぐ生命保険なんて必要ないですよね。でも、せっかく生命保険のプロと出会えたのですから、一度あなたとご家族の人生について一緒に考えてみませんか?」

そんなアプローチからスタートするところが、形あるものを売る営業と異なるところです。

私はこれまで21年間、生命保険会社に勤めてきました。その間、自分から「生命保険に入りたいのですが」と訪ねてきてくれたお客さまは一人もいません。

また、生命保険の提案書に「保険設計書」があります。「万が一のときの保険金額はこうなっています」「解約返戻金はこうなります」「保険料はこの金額です」という数字をお見せしながら読み上げても、何もワクワクしないし、誰も喜んでくれません。

こんな調子で生命保険を勧めても、売れることはありません。

ここで大切なのは「商品」を売るのではなく、「考え方」を売ることです。これまで考えてもいなかった「潜在化していたニーズ」に着目し、新しい気づきを体験してもらうこと。生命保険の「必要性」や「大切さ」に気づいてもらうことです。

例えば、世の中のお父さんは誰でも、家族を守っていこうという思いがあるはずです。家族のために毎日がんばって働く。子どもが成長し、マンションが手狭になってきたら、郊外でもいいから大きな家が欲しいと思う。子どもたちの部屋もつくってあげたい。誕生日やクリスマスにはプレゼントもしたいし、お正月にはお年玉もあげたい。ディズニーランドや海外旅行にも連れて行ってあげたい。

でも、もしもこのお父さんに何か起こって亡くなってしまったら、誰が代わりをしてくれるのでしょう?国とか会社が守ってくれるでしょうか?お父さんの学生時代の親友が面倒をみてくれるでしょうか?近所の誰かが助けてくれるでしょうか?

そんなとき、お父さんの愛情の代わりはできないけれど、経済的には代わりをしてくれるものがあったらいかがですか?お父さんとして、大切な家族を守るために天国から「保険金のプレゼント」を届けてあげられる仕組みがあったらいかがですか?

それをお客さまの現状に当てはめながらイメージしていただき、「そんな解決策(生命保険)があったら、ぜひ入りたい」と、その必要性に気づいていただき、加入の決断を促していくことが、私たちの仕事です。

●商談はファンづくりと考える

でも、そこで契約が成立して一件落着すると、新しい問題が出てきます。契約が成立した時点で「一件の見込み客を失ってしまった」ことになるのです。

生命保険の仕事で一番大事なことは、見込み客を見つけること、次のお客さまをどうやって見つけるかということです。

営業の基本は「ベースマーケット」からスタートします。身のまわりの友人・知人から「見込み客」を見つけることです。最初はお付き合いで、仲のいいベースマーケットの人に、加入していただけるかもしれません。でも、次第に行くところがなくなって、小中学校などの名簿を頼りに、徐々に薄い人間関係しかない人たちにも電話をかけることになります。

「覚えてる?一緒に砂場で遊んだよね?」などと声をかけても、ガチャンと電話を切られるのがオチです。これでは新たなマーケットは広がらず、営業は順調にはいきません。

そこで重要なのが「モノを売る」から「ファンをつくる」への発想の転換です。いかに自分のファンを開拓して増やしていくか。

それは、レストランや居酒屋でも美容院やアパレルショップでも、マッサージ師や弁護士、税理士でも、どんな商売でも同じ。リピートしてもらい、その人に友人や知人を誘ってもらわなければ、次はないのです。

ただ残念ながら、これまで多くの営業マンのマネジメントや教育に携わってきましたが、ほとんどの方は「一件とりに行く」「一件契約が欲しい」と意気込んでアプローチします。はじめましての挨拶のときに、まるで「一件欲しい」と顔に書いてあるかのようです。

その表情のまま「当社の商品のいいところはこうです」「このプランはいかがですか?」と始めてしまうのです。

私は、そういうやり方をしたことがありません。一件お預かりしたいという気持ちがないわけではありませんが、それよりも、

「私のファンになってください」
「私を好きになってください」

というスタンスを大切にしています。

「一件契約が欲しい」と「ファンになってください」とでは、初対面のときに相手に与える印象が違ってきます。

「一件売れること」と「ファンになってもらうこと」では、ゴールがまったく違います。

「この人は、これまで会った保険屋さんと何か違う」
「話していると、とても感じがいい」
「生命保険の話をしているのに、なぜか楽しい」

と感じてもらう。そこが、ファンをつくるためのファーストステップ。それは、すでにお客さまと向き合う以前のスタンスで決まっているのです。

ラーメンを気持ちよく食べていたらトップセールスになれた
川村和義(かわむら・かずよし)
株式会社オールイズウェル代表取締役社長。1963年大阪生まれ。立命館大学経営学部卒業。1987年株式会社リクルート入社。求人広告営業としてトップセールスとなった後、営業リーダーとして自らのノウハウを共有する勉強会「川村塾」を開催し、川崎営業所を事業部No.1へと導く。1994年プルデンシャル生命保険株式会社入社。ライフプランナーとして活躍した後、営業所長として2001年に年間営業成績(営業所部門)でトップを意味するPT(Presidentʼs Trophy)を獲得する。2003年には営業マンゼロから支社を立ち上げ、他業界から優秀な営業マンを独自の手法でスカウトし続け、2008年、2009年 支社部門でも2連覇。2011年本部長に就任した後も、教え子から数多くのPTを輩出し続けている。その後、執行役員常務として、プルデンシャル生命保険初のティーチングフェロー(学び・教育の専門職)となり、ゼロからオンライントレーニングを使った教育の仕組みを構築し、従来のトレーニングのあり方に変革をもたらす。2015年株式会社オールイズウェルを設立。「夢と勇気と笑いと感動あふれる組織づくり」を支援するため、営業コンサルティング、リーダー研修、セミナーなどの活動を行う。熱くて、笑えて、ためになる講演が人気を集めている。
保険営業のノウハウを伝えるオンライントレーニングサイト「イタダキ」の講師も務める。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)