本記事は、川村和義氏の著書『ラーメンを気持ちよく食べていたらトップセールスになれた』(WAVE出版)の中から一部を抜粋・編集しています
ラーメンは気持ちよく食べなさい
●「ラーメン一杯」が宝を生む
私がプルデンシャル生命の支社長時代の話です。
当時、東京・白金高輪の魚籃坂下に事務所が移転することが決まり、その前に近所を探索しておこうと思い立ち、歩きまわってみました。夕方になって「お腹が空いたな」と思ったときに、ふと、ラーメン屋さんを見つけました。ラーメン屋というより、ご夫婦と息子さんと3人でやっている、街中の普通の中華料理屋さんで「天山飯店」というお店です。
ふらりと入って、ビールと餃子と肉野菜炒めを頼んだら、これがとても旨い。大満足して食べ終わり、「お会計お願いします」と言ったら、財布を忘れていたのです。カードも何もない。覚悟を決めて、お母さんに名刺を差し出しながら、
「プルデンシャル生命の私、川村と言います。すみません、財布忘れました。明日必ず来ますから」
そう言って頭を下げました。
「もし来なかったら、赤坂まで集金にいくわよ」
お母さんはクスッと笑ってくれました。
もちろん、次の日も肉野菜炒めを食べて、2日分の支払いを済ませました。ありがたいことに、そこからのご縁が今でも続いています。
その後、事務所の移転が終わって、毎日のように天山飯店でランチを食べ、夜もちょくちょく通って、また仕事に戻るという生活。1日1回は顔を出すくらい、すっかり常連になっていました。
新入社員が入るたびに、研修初日の夕飯は必ず天山飯店に行くようになりました。
「お母さん、どうも!また新人が入ったから、よろしくねー」
と声をかけると、
「みんながんばりなさいよー。この人についていけば大丈夫だから!」
そんなふうにみんなを励ましてくれるのです。
メンバーたちもこのお店を気に入ってくれて、昼飯や夕飯に行くと、誰かしらと顔を合わせるくらいです。メンバー全員が店の人と打ち解けて、常連になっていました。
支社が白金高輪に移って3年目くらいだったでしょうか。メンバーの数もまだ10人ちょっとしかいないころです。いつものように、お昼時に天山飯店でスポーツ新聞を読みながら、おいしくラーメンを食べていたら、お母さんが、
「かわPさん、保険のことをちょっと聞きたいんだけど」
(私は、社員やお母さんから「かわP」と呼ばれていました)
ラーメンを食べるのも新聞を読むのも途中だったので、
「ちょっと勘弁してよ。憩いの時間を取らないで」
と、一度は軽く流しました。私は、お母さんに生命保険の話をしたことは一度もありません。その日は忙しいふりをして、また次の日に行くと、
「かわPさん、ほんとに私、保険のこと聞きたいんだから!ほかの保険会社の人から聞くわよ!」
そうまで言われて断るわけにはいきません。そこで、提案してみました。
「本気で生命保険の話を聞きたいのなら、うちのメンバーの中から担当を選んでよ」
「そんなの選べないわ。みんなお客さんだし」
「いやいや、そこが大事なんよ」
私はいつも、次のようにメンバーに言ってきました。
「ラーメン1杯、緊張感をもって、気持ちよく食べなさい。たまたまテーブルに相席した人が『あなた旨そうにラーメン食べるね。あなたから保険入ろうかな』と言ってくれるかもしれない。また、麺上げしている大将が、『あんた、この店のお客さんで一番気持ちよくラーメン食べるねー。あんたの保険に入ろうかな』と言ってくるかもしれない」(なかなかそんなこと、言ってくれませんけど)
そこで、
「彼らはそう教えられてこの店に来ているから、誰が一番気持ちいいか、誰を担当にしたいか。ぜひ、うちのメンバーから選んでほしい」
とお願いしました。
「そこまで言うならわかったわ」
そこでお店が昼休みに入るころに、支社の研修室に飾ってあるメンバーのプロフィール写真13人分を店にもっていき、カウンターにずらっと並べながら、
「どの子がいいですか?まずは3人選んで」
と言ったら、お母さんが悩みながらも選んだ3人は、見事に支社のトップ3だったのです。お母さんは営業成績のことなど何も知らないはずなのに。
●選ばれる決め手は「平生」にあった!
「じゃ最後に、この3人の中で誰が一番いい?」
と聞いたら、「う〜ん」と考えながらも確信をもって、
「この真ん中の人」
と指をさしました。お母さんが選んだのはTというメンバーで、体育会系揃いの中では控えめでおとなしく、落ち着きのあるタイプ。
「なんでこの子を選んだの?」
「いつも笑顔がすてきだし、挨拶もふるまいも気持ちいいから」
お母さん、よく見ているなと感心しました。それと同時に、Tの普段のふるまいを誇らしく感じました。
私はそれまでメンバーにたくさんのことを伝えてきましたが、その中で最も大切にしている言葉が「平生」です。これは「普段の何気ない生活の中にあなたの実力がでる」ということです。
例えば普段、会社のミーティングによく遅刻してくる人が、「私はお客さんの前では一度も遅刻したことがありません」と言ったら?
例えば普段、会社でいつもシャツの第1ボタンが外れていて、スーツもヨレヨレの人が、「私はお客さんの前ではバリッとしてます」と言ったら?
例えば普段、会社で暗くて伏し目がちな人が、「私はお客さんの前では笑いをとっています」と言ったら?
これって信じられますか?
ということは普段、会社や家族・友人・地域コミュニティなどの中できちんとできていることしか、お客さまの前ではできないということです。だからこそ、
「普段の生活の中で実力を磨いていこう。平生を磨こう」
をメンバーの合言葉にしていました。
●自分が相手のファン第一号になる
当たり前ですが、私は生命保険に入ってもらうために、天山飯店に通っていたわけではありません。ただ天山飯店の人が好きになり、肉野菜炒めと肉そばもおいしかったので毎日のように通いつめ、その流れでメンバーを連れて行っていただけなのです。
そして、いろんなところで「白金高輪においしい中華料理屋さんがあるよー」と言っていたら、知らぬ間に天山飯店の宣伝部長になっていたのです。
そうなんです、私が先に天山飯店のファンクラブになったのです。そして、お母さんも私に興味をもってくれ、私を応援してくれる。私のメンバーのことも応援してくれる。そこが大事なところ。
「応援するから、応援される」 「応援されるから、もっと応援したくなる」
もし、「なんで自分はお客さまから応援してもらえないんだろう?」と嘆いているなら、まず誰かを応援することから始めてみてはどうでしょう。
あなたも、日々の生活でお世話になっている方は、たくさんいると思います。それは、ラーメン屋さんのお母さんかもしれないし、喫茶店のマスターかもしれない。肉屋のおじさんかもしれないし、居酒屋の大将や女将さん、スーパーやコンビニの店員さんかもしれない。散髪屋や美容院の店長やスタッフのお姉さんかもしれない。
そんな日々の生活で出会うたくさんの方々との間で、
「あの人は気持ちいい人だな」
という関係ができていないのに、お客さまといいコミュニケーションをとれるでしょうか。お客さまの前だけでいい顔なんてつくれるはずがないし、気持ちいい人間になんてなれません。普段の何気ない生活の中でこそ実力が育まれるのです。
その後Tは、天山ファミリーに生命保険の話をして、とても喜んでいただきました。そしてその3年後、彼が営業マンとしてプルデンシャル3000人中№1(PT)になれるなんて、この時点では誰も知る由はなかったのです。
「ラーメンを気持ちよく食べていたらトップセールスになれた」
このことを、目の当たりにした出来事でした。
ちなみに、天山のお母さんとは最初の出会いからもう15年近くたちますが、いまだに「無銭飲食の人」と呼ばれています。
保険営業のノウハウを伝えるオンライントレーニングサイト「イタダキ」の講師も務める。
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