本記事は、川村和義氏の著書『ラーメンを気持ちよく食べていたらトップセールスになれた』(WAVE出版)の中から一部を抜粋・編集しています
何気ない挨拶がファンをつくる
●「挨拶力」を鍛えていますか?
「挨拶」という言葉の意味をご存じでしょうか?「挨」には心を開くという意味が、「拶」には近づくという意味があります。「心を開いて相手に近づく」、それが挨拶。あなたは、普段からそんな心のこもった挨拶をしているでしょうか?
例えば、「おはようございます」と伏し目がちに、「行ってきます」「行ってらっしゃい」とささやくような声で、「ただいま」と誰とも目も合わさず、「おかえり」とパソコンをたたきながら、これまた目を合わさず。
これで挨拶と言えるでしょうか。挨拶言葉を形だけ交わしているにすぎず、気持ちがこもっていません。自分の心を開いて、相手の心に近づこうとする思いが感じられません。
私が支社長をしていたときは、挨拶の仕方を徹底的に指導しました。普段の何気ない生活の中に実力が出るわけだから、「とにかくまず挨拶にこだわろう」と。
私の「挨拶」への気づきは、もともとは掃除のおばさんから始まっています。かつて住んでいた広尾のマンションでの出来事です。当時世帯ぐらいしかない小さなところでしたが、毎日、共用部分の清掃のため、掃除のおばさんが通いで来てくれていました。笑顔が少なめで、あまり多くを語らない方でした。
そこで、「この人で挨拶力を鍛えよう!」と勝手に決めて、毎朝出かけるときには元気よく、
「おばさん、おはよう。行ってきまーす!」
と、わざわざ近づいていって挨拶するようにしたのです。
「おばさん、今日もよろしくね」
最初のうちは返事もなかったのですが、1週間ぐらいすると、おばさんのほうから、
「川村さん、行ってらっしゃい」
と挨拶をしてくれるようになったのです。
その後は、
「天気がよくて、気持ちいいねー」
「今日は雨降ってるから、気をつけてね」
と話しかけてくれ、笑顔も見せてくれるようになったのです。きっと出勤後、私の部屋の前だけ特別ピカピカに磨いてくれているんじゃないかと思ってしまうほどに。
私は今までよりも、明らかに気持ちよく会社へ向かうことができました。そして、掃除のおばさんも、きっと以前より気分よく掃除に取り組めているのではないかと思うのです。これぞ「挨拶の魔法」です。
●エレベータートークもチャンス
会社の中でも同じです。以前、私が働いていたビルは築30年ぐらいで10階建て。それほど大きいビルではないけれど、管理人のおじさんが3人ほど毎日常駐してくれていました。
私は出勤のときには必ず裏口から入って、おじさんたちに、
「おはようございます、今日もよろしくお願いします」
と挨拶していました。管理人のおじさんたちも、気持ちよく、
「今日もよろしく」
と笑顔でこたえてくれました。
私はそのビルで7年ほど働いていたので、同じビルで働くほかの会社の社長さんはじめ社員の方々とも仲良くなっていました。
例えば、朝イチにエレベーターホールで会えば、
「あっ、社長、おはようございます!ゴルフの調子はどうですか?」
営業マンを見かければ、
「おはよう!最近売れてる?儲かってる?」
と声をかける。
なんの関係もない他社の社長や営業マンに声をかけている人は、あまり見かけません。普通は、せいぜい「おはようございます」と挨拶だけして、その後は目も合わさずエレベーターに乗り込み、沈黙の中、チーンとなってドアが開いて相手が降りるのをただ待っているのではないでしょうか。
でも、そんなことでは「平生」を鍛えることはできません。チャンスを自ら放棄しているようなもの。なんともったいないことか。
普段の生活の中のささいなコミュニケーションこそ、自分を鍛えるチャンス。そこで磨きつづけた人だけが、お客さまの前で実力を発揮できるのです。
●ファンの紹介は連鎖していく
例えば、あなたが2人の親友からおいしいラーメン屋さんを紹介されたとき、次のどちらの店に行きたくなるでしょうか?
1人目は、うんちくたっぷりにこう言います。
「九州の久留米出身のラーメン屋さんで、スープは大量の豚の頭・背骨を、骨がとろけるくらいになるまで24時間強火で炊きつづけることで味と旨みが凝縮され、濃厚でクリーミーな味わいにもかかわらず、後味はスッキリ。麺は、極細ながらも小麦本来の香りとモッチリ感も味わえる。歯切れ、スープへのからみが絶妙。そんな最高の1杯が、950円とリーズナブルに味わえるんだよ」
2人目は私です。
「とんでもなく旨いラーメン屋があるんだけど。一度行ってみたら?絶対に後悔させないから!」
どうでしょう?あなたは、どちらに行きたくなりますか?1人目の場合、豚骨臭いのが苦手、濃厚なラーメンは胃もたれする、極細麺よりもっちり太麺が好き、ラーメンに950円も払いたくない……そんな人もいるでしょうし、何より説明がわずらわしい。
でも、私の場合は、それが豚骨なのか、細麺なのか、値段がいくらとか、そんなことはどうでもいいのです。「とても旨いから!」「とにかく行ってみたら!」「絶対に後悔させないから!」と、具体的にどんなラーメンかは抜きにして、
「ごちゃごちゃ言わないで、とにかく行ってみて!」
と、なかば強引に背中を押しているわけです(ここまで押されると行かざるをえない)。そしてお店に向かったあなたが、そのラーメンを食べ、
「川村さんに紹介されて来てみたんですけど、本当においしいですね」
と感動すると、ラーメン屋さんの大将も嬉しい。そして、
「いいお店を紹介してくれて、ありがとう!とんでもなくおいしかった!」
と私にも感謝してくれる。さらに今度はあなたが、
「あのラーメン屋さん行ったことある?めっちゃ旨いよ!一度行ってみたら!」
と、まるで自分が見つけたお店であるかのように、また別の友達に自慢げに宣伝する。これこそ、まさにファンクラブマーケティング。このラーメン屋さんの評判は、自然と広がりつづけることでしょう。
ある日、私が久しぶりにそのラーメン屋さんに行くと、大将から、
「川村さん、また紹介してくれたみたいで、ありがとね」
と感謝され、気づいたら餃子が3個サービスでついている。
ラーメン屋さんは、おいしいラーメンをただひたすらつくりつづける。そして、そのラーメンを食べて「おいしい」と感じた人がまた誰かを連れてきてくれる。その誰かが「おいしい」と感動して、またほかの誰かを連れてきてくれる。
営業マンもまったく同じです。商品スペックのよさや価格の安さだけで紹介されたとしても、そこから大きく広がっていくことはありません。なぜなら、それは表面的な「理解・納得」の世界だからです。
われわれがめざすところは、「信頼・感動」の紹介。「とてもいい人だから!」「きっと役に立つから!」「とにかく会ってみて!」と熱く応援してもらえる存在にならなければならないのです。
ちなみに、今回のラーメン屋さんの話で、だれも不幸になった人はいません。みんな幸せな気分になれたのではないでしょうか。こうして、自分と友達とラーメン屋との「ハッピートライアングル」ができあがるのです。
●初対面でファンにしてしまう極意
「初対面のとき、何か気をつけていることはありますか?」
そう聞かれることがあります。お客さまの情報は最低限の知識として頭にたたきこんではいるものの、私だって初対面のときは緊張するし、どんな人なのか不安も感じます。
でも、なんとかお客さまに興味をもっていただいて、できればファンになってもらいたい。そのときに、私は3つのスタンスを大切にしています。
(1)お客さまに興味をもつ (2)お客さまの立場で考える (3)お客さまのことを先に好きになる
一般的には、初対面の緊張した場面で、ついつい自分のことや自社商品のことを売り込みすぎたり、好かれようと媚びてみたり、という方が多いように感じます。逆に、私の大切にしているスタンスは、「すべてお客さま中心」ということ。でも、これ、簡単そうでなかなか難しいことです。
お客さまにファンになってほしいし、好かれたいし、虜にしたい。そのためには、まずこちらから先にお客さまを好きになること。好きになるためには、お客さまに興味をもって、立場を置き換えて考えること。そこからがスタートです。
そして商談中に最も気をつけていることは、「インからアウトは情熱的に、アウトからインは冷静に」ということ。
私は、講演会や研修でも、メンバーとのミーティングでも、お客さまとの1対1の商談中も、思いを熱く語ります。自分からまわりの人へのアウトプットは、情熱的にということです。つまり「インからアウトは情熱的に」。
ところが、じつは「もう一人の自分」がいて、右斜め上45度くらいから、冷静に、客観的に、商談をしている自分を眺めています。これが「アウトからインは冷静に」ということ。
いったい、そこで何を眺めているのか。答えは3つあります。
(1)商談が、当初に立てたストーリーどおりに進んでいるか。
どこかでルートを外れていないか。
(2)今お客さまが何を考えているのか。
お客さまが何に興味をもち、何に興味がないのか。自分の話が相手の心に響いているのか、いないのか。
(3)自分は嫌われているのか、好かれているのか、どちらでもないのか。
商談から少し外れ、お客さまにはそれほど響いてもなく、あまり好かれた様子でもない。であればここでクロージングしたら嫌われるだろうと冷静に判断ができ、再度仕切り直しもできる。もし、かなり興味をもってくれていて、好感度も高ければ、一気にクロージングまでいっても、きっと喜んでくれるだろうと判断ができるということです。
新人営業マンが「情熱的」に熱く語りながら、一方で「冷静で客観的」に物事を見つめる目をもつことは、簡単なことではありません。頭の中ではいろんな思いが交錯し、あっちこっちで交通渋滞を起こしてしまうでしょう。
では、なぜそんなことができるのか。それはとても基本的なことですが、セールスプロセスのセールストークを「丸暗記」しているからです。丸暗記という言葉に違和感を感じる方もいるかもしれませんが、とても重要なことです。
いつ、どんなシーンで何を話すか、すべて「そら」で言える。次に何をしゃべろうかと台本を思い出すこともないし、すでに体がすべて覚えている。
「そうですよね」
と言いながらも、お客さまの反応に対して、
「ご主人には響いてるけど、奥さんには響いてないな」
「奥さんは、今申し込んでもいいと思ってるけど、ご主人はもう少し考えたいと思ってるようだ」
などと素早く察知するのです。
このように、お客さまの反応に全神経を集中させながら話を進めます。それができるのも、体にセールストークを覚えさせ、しみ込ませているからです。そこまでやってはじめて、情熱的に、冷静に、客観的にできるのです。
新人営業マンがビデオを見て、なんとなく台本を覚えて、お客さまの前にでる。そんなとき、「え〜それからですねー」と、台本を思い出しているようでは、ストーリーどおりに進んでいるのか、お客さまが今何を考えているのか、自分は好かれているのかになんて、気を配れるはずがありません。
だから、トレーニングのときに「徹底的に丸暗記しなさい、猿真似しなさい」と教えているのです。
ところが、中には、
「丸暗記なんかして、一字一句覚えたって、お客さまはそれぞれ違うから、商談では同じ場面なんてありえません」
と反論する人もいます。
でもそれは、セールスの本質がまったくわかっていない。なんのために丸暗記するのかといえば、熱く語りながらも、その一方でお客さまの反応をすばやく感じ取り、心の中の本音を見抜くためなのです。
その場の状況を冷静に分析しながら素早く判断したいからこそ、徹底的に丸暗記する。「インからアウトは情熱的に、アウトからインは冷静に」──それがお客さまをファンにする大事な戦術のひとつなのです。
保険営業のノウハウを伝えるオンライントレーニングサイト「イタダキ」の講師も務める。
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