前回は「右肩上がりのビジネス・トレンドを追っている投資信託なら、短期的な株価の上下を気にする必要は無い」という主旨の話をした。その背景にあるのは短期的な株価は需給がカギを握り、長期的な株価は収益動向に収斂するという考え方だ。ただ、読者の中には、こんな呟きをされた方もいるのでは無いかと思う。「『言うは易く、行うは難し』なんだよなぁ」と。
投資を続けていると何度も同じ経験をすることになる。たとえば「頭ではこのままで大丈夫と分かっているんだけど、もう気持ちがついて行かない」という場面だ。
よく投資信託の宣伝文句に「○○ショックの時でもいち早く下落前の基準価額水準を取り戻した」という主旨のものがある。如何にその投資信託が適切に上手な運用を行っているかのアピールで、この先に同様なことが起きてもきっと乗り越えますという期待感を誘う。だが、それは「過ぎ去った過去の話」で「成功談」だから堂々と言えるもの。その渦中に遡れば、販売会社や営業マン、運用会社やファンドマネージャーが宣伝文句通りに冷静に余裕の表情を浮かべていたとは決して思えない。その当事者だった筆者が言うのだから間違いない。
年初と年末だけを見るなら何の苦労もない
直近の例としては、昨年の3月下旬、新型コロナウイルスの感染拡大第1波の襲来で世界中の株式市場が大きく揺れた。それまでは利回り重視の投資家にも人気だったREITも総崩れとなった。恐らく株式投資信託の投資家よりも、REITに投資している投資家のほうが戦々恐々であったかも知れない。一般論として、株式投資信託を選好する人とREITを選好する人ではリスク許容度が異なるからだ。通常は後者のほうがリスク許容度は低い。だからインカムゲインは変わらずとも、基準価額の低下で評価損が膨らみ、キャピタルロスを勘定し始めると余計に「ビビる」ことになる。
更に言えば、不動産投資信託は株式投資信託と違って、長期投資で報われるというアセットクラスではない。不動産価格が全般に右肩上がりの時代は良かったが、昨今のように必ずしも不動産価格は上がるものとは言い切れない以上、株式投資信託と同様には考えられないからだ。何でもかんでも「投資信託なら長期投資」という考え方は間違っている。この話はまたあらためてさせて貰う。
話は戻って、2020年の日経平均株価の推移を見てみると、確かに年間を通じた騰落率は+16.01%と上昇してメデタシ、メデタシだ。年初と年末だけを見るなら何の苦労もない。だが2020年1月20日につけた高値2万4083.51円を日経平均が再度追い抜いたのは同年11月5日のこと。この間の約9.5か月、日経平均はずっと1月の高値を下回っていた。TOPIX(東証株価指数)に至っては、更に約1か月間待って11月末を迎えないと追い越してはくれない。この10か月間を「ビジネス・トレンドは右肩上がりのままだから大丈夫」と自分に言い聞かせ続けるのは至難の技かも知れない。