東京株式市場は、株価下落局面となっています。
米長期金利が急ピッチで上昇したことなどにより、日経平均株価は2/26(金)に1,202円26銭安となって以降、不安定な値動きとなり、3/5(金)も大きく売りが先行する展開になりました。
日本をはじめとする世界的な相場波乱の要因については、新型コロナウイルスのワクチン普及などから、経済活動の正常化や景気回復期待が一段と高まり、米長期金利の上昇傾向を懸念した株売りが増えてきたことが主な要因とされています。
株式市場の一部ではバブル崩壊を主張する向きも出ていますが、今後業績・株価が回復する銘柄が多いと見られ、現在の株価下落局面が買い場につながる銘柄も多そうです。
そこで今回は、株価急落で「買い場到来」が期待されそうな銘柄を、2つの視点から抽出しました。
好業績にもかかわらず足元の株価下落率が大きい銘柄
2月にかけて世界的に株価が上昇してきた背景に、FRB(米連邦準備制度)をはじめ、世界の中央銀行が空前の金融緩和政策を繰り広げてきたことがあげられます。
その恩恵を受け、IT(情報技術)や環境を背景に成長が期待され、多くの銘柄が値上がりしました。その象徴が米EV(電気自動車)メーカーのテスラで、時価総額は昨年の安値から一時10倍超に膨らみました。
こうした世界的な株高の恩恵は日本も受けました。
日経平均株価は昨年3/19(木)に一時16,358円19銭まで下落しましたが、本年2/16(火)には一時30,714円と、1990/8/2(木)ザラ場高値以来の高値水準を回復しました。
世界で新型コロナウイルスのワクチンを接種した人の累計は約2億6千万人に達しています。
ワクチンが普及されるに連れて、市場では経済活動の正常化や景気・企業業績回復に対する期待が強まり、それを織り込む形で米長期金利も上昇傾向に。米10年国債利回りは昨年末0.917%から2/25(木)には一時1.6%台まで上昇しました。
10年国債利回りは、新型コロナウイルス感染拡大が本格化する直前の2020/1は1.5%台であったことから、現在はその水準に戻ったわけであり、コア消費者物価上昇率と同程度です。
なお、米長期金利の上昇自体は決してマイナスなわけではなく、上昇スピードが穏やかで、インフレ高進を背景としたものでなければ、円安・ドル高傾向と経て、日本株には追い風になりやすい傾向にあります。
こうした背景から、米長期金利の上昇による東京株式市場の下落は一時的なものにとどまると考えています。
そこで、今回は以下の条件でスクリーニングを行い、「好業績でありながら大きく下げた銘柄」を抽出しました。
(1)東証1部上場の3月決算銘柄(広義の金融を除く)であること。
(2)時価総額1千億円以上の銘柄であること。
(3)業績予想を公表しているアナリストが3名以上の銘柄であること。
(4)2020/10~12期の営業増益率が20%以上の銘柄であること。
(5)2022/3期(通期)の予想営業増益率(市場コンセンサス)が10%超の銘柄であること。
上記の条件をすべて満たす銘柄を、株価下落率(2/16~3/4)の大きい順に並べたものが図表1です。
株価反発局面では、それまでに下落率の大きかった銘柄が大きく戻りやすいという「リターン・リバーサル」の考え方に沿っていることに加え、来期業績回復を本格的に織り込む相場でも活躍が見込めそうです。
図表1 好業績でも株価が大きく下げ、反発が期待される好業績銘柄
コード / 銘柄(3月決算) / 株価(円)(3/4) / 騰落率(2/16~) / 営業増益率2020/10~12 / 営業増益率2022/3(予)
<7780> / メニコン / 6,230 / -18.0% / 59.3% / 11.5%
<4974> / タカラバイオ / 2,771 / -15.9% / 498.9% / 19.3%
<9090> / 丸和運輸機関 / 1,903 / -15.0% / 11.2% / 11.1%
<7476> / アズワン / 12,980 / -14.2% / 52.3% / 14.1%
<7741> / HOYA※ / 11,870 / -13.3% / 19.5% / 15.5%
<7701> / 島津製作所 / 3,820 / -13.3% / 29.6% / 14.2%
<4483> / JMDC / 5,200 / -12.6% / 122.1% / 38.9%
<6645> / オムロン / 8,630 / -11.5% / 23.3% / 27.2%
<2413> / エムスリー / 8,137 / -11.6% / 75.7% / 32.6%
<5332> / TOTO / 6,350 / -11.1% / 38.1% / 40.8%
<4543> / テルモ / 4,044 / -11.2% / 23.4% / 28.9%
<4528> / 小野薬品工業 / 2,797.5 / -10.6% / 23.3% / 24.9%
※Bloomberg、会社公表データをもとにSBI証券が作成。
※HOYA(7741)のみ、経常利益で計算。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
「バリュー銘柄優位」の本格化を先取りした銘柄
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が終息に向かえば、経済の正常化や景気・企業業績の回復が期待できることになります。したがって、長期的には金利は上昇していく可能性が大きいと考えられます。
すなわち、株式市場で物色される銘柄もこれまでとは異なってくることが考えられ、金融緩和局面で強い銘柄から、金利上昇局面で強い銘柄に変わっていくとみられます。
株式市場の銘柄は「グロース銘柄」と「バリュー銘柄」に区別されます。
前者は「売上高や利益の成長率は高い反面、PERやPBRが割高な傾向が強い銘柄」をいい、後者は「売上高や利益の成長率は低い反面、PERやPBRが割安な傾向が強い銘柄」とされます。一般的に前者は金利低下局面で相対的に強く、後者は金利上昇局面で相対的に強いと考えられます。
図表2は、米国市場における「バリュー銘柄」と「グロース銘柄」の強弱を示しています。
2014年頃から「グロース」銘柄の相対優位が続いてきましたが、昨年後半くらいから「バリュー銘柄」の下げ止まる傾向が目立ってきました。今後も、米長期金利の上昇が続くようであれば、「バリュー銘柄」へのシフトがより鮮明になりそうです。
図表2 世界をリードする米国市場では、「バリュー銘柄」が次第に優位に
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
期間:2011/3/11~2021/2/26
図表3は、東証1部の銘柄から、資本収益力がある程度高いものの、PER、PBR、配当利回りを考慮し、割安とみられる銘柄を抽出し、PBRの低い順に並べたものです。
条件は以下の通りです。
(1)東証1部上場銘柄(銀行、保険、証券・商品先物を除く)であること。
(2)時価総額500億円以上の銘柄であること。
(3)今期予想PER(市場予想)15倍未満の銘柄であること。
(4)PBR(株価純資産倍率)0.8倍未満の銘柄であること。
(5)今期予想配当利回り(市場予想)3%以上の銘柄であること。
(6)ROE(株主資本利益率)8%以上であること。
図表3 金利上昇局面で相対優位が期待されるバリュー銘柄
コード / 銘柄 / 株価(円)(3/4) / PBR(倍) / 今期市場予想PER(倍) / 配当利回り
<5440> / 共英製鋼 / 1,469 / 0.41 / 8.51 / 3.49%
<9502> / 中部電力 / 1,304.5 / 0.49 / 8.58 / 3.83%
<2730> / エディオン / 1,128 / 0.63 / 7.55 / 3.01%
<1887> / 日本国土開発 / 573 / 0.71 / 7.64 / 4.01%
<1942> / 関電工 / 907 / 0.72 / 9.65 / 3.13%
<8424> / 芙蓉総合リース / 7,260 / 0.75 / 8.06 / 3.05%
<1821> / 三井住友建設 / 487 / 0.77 / 7.68 / 3.70%
<1802> / 大林組 / 953 / 0.78 / 7.27 / 3.36%
<6250> / やまびこ / 1,143 / 0.79 / 9.88 / 3.37%
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。市場予想はBloomberg集計の市場コンセンサス。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
※条件(6)については、図表3に記載しておりません。
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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鈴木英之
SBI証券 投資調査部
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