株式や債券と言った資産クラス毎の配分の仕方、すなわち「アセット・アロケーション」については前回までにある程度は掘り下げた。今回はもう一つの「アロケーション」である「通貨分散」の考え方を論じてみたい。

結論から先に言えば、実は「国際分散投資」のポートフォリオをきちんと組んで長期投資を行うならば「通貨分散」をする必要性は全く無い。時々金融機関の宣伝で「円と米ドルと豪ドルに分散投資をしましょう」といった感じのものがある。豪ドルがトルコ・リラになったり、ブラジル・レアルになったり、或いは南アフリカのランドに変わったこともあった。ただその「真意」は何かと紐解くと、実はそれぞれ豪ドル債、トルコ・リラ債、ブラジル・レアル債、そして南ア・ランド債といった債券のセールス・トークだった。

現実問題として上記の「刷り込み」が予想以上に人々の脳裏に焼き付いていると痛感したのは、筆者がバークレイズの伝統ある富裕層ビジネス部門(Wealth部門)のノウハウを輸入し、展開・普及するチームのヘッドを務めていた頃だった。実際にロンドンのグローバル・チームの支援を得ながらも、多くの人に腹落ちして貰うまで相当苦労したテーマのひとつだった。

「カレンシー・アロケーション」という考え方はない

通貨分散,ポートフォリオ
(画像=saicle / pixta, ZUU online)

「通貨分散」は必要ないというのは全世界共通である。「アセット・アロケーション」は投資哲学の基本だったが「カレンシー(通貨)・アロケーション」という考え方はない。バークレイズは英国を本拠とする銀行なので英ポンド建ての商品は当然あったが、決して英国の「ホームカントリー・バイアス」を掛けると言った意味ではない。基本となる定量計算は殆ど全て基軸通貨としての米国ドル建てで行われていた。

ちなみに、筆者が資産運用のセミナーや研修会で講師をすると「アセット・アロケーションのモデル・ポートフォリオみたいな通貨アロケーションのモデル・ポートフォリオはありませんか」とよく質問される。その心は「日本円だけで全資産を持っているのは将来的に不安なので、多通貨に分散投資をしたいと思っている」というもの。一見すると筋の通った話にも聞こえる。だからこそ「日本円を○%、USドルで△%、ユーロで□%……」などと言った理想的な配分モデルがあれば教えて欲しいと質問される。