iDeCoの運用には手数料が発生します。手数料というと使用する以上は払わざるを得ないイメージを持つ人が多いかもしれませんが、iDeCoには手数料を上回るメリットもあるのです。iDeCoの特徴を捉え、老後資産の準備をはじめましょう。
目次
個人で作れるいろいろお得な年金制度「iDeCo」
「iDeCo(イデコ)」(個人型確定拠出年金)とは、自分で作る年金制度のことです。加入者が毎月一定の掛け金を積み立て、金融機関で用意された定期預金・保険・投資信託などの金融商品で自ら運用し、60歳以降に年金または一時金として受け取ります。注意点として、掛け金の積み立ては原則60歳になるまで引き出せません。
iDeCoができた背景
厚生年金の上乗せである厚生年金基金(企業年金)では、企業は毎年5.5%で運用し続ける設計で、元従業員に60歳から企業年金を支払っていました。しかし、1990年代前半にバブル経済がはじけたことによって運用金利が1%以下に下がり、5.5%運用の企業年金を元従業員に支払うことが難しくなり、支払いに苦慮する企業や破綻する基金が続出しました。
この後に米国の企業年金制度を参考に導入したのが「企業型DC(確定拠出年金)」で、1990年代後半には「日本版401K」ともいわれました。
主な企業年金である厚生年金基金は「確定給付型」という給付金を固定する制度ですが、確定拠出年金(DC)は掛け金を固定し、運用後の掛け金に応じて年金を支払う制度です。確定拠出年金では無理なく企業年金を支払うことができるので導入する企業が増加しました。
そして企業年金制度のない一部の会社員や、自営業の国民加入者のための「自分年金」(上乗せ年金)である「iDeCo」の制度ができ、2017年1月には自営業者や一部の会社員だけでなく、公務員や専業主婦も加入できるようにiDeCo加入対象者が拡大しました。
iDeCo制度の概要
iDeCoでは掛け金を60歳(2022年5月から65歳)になるまで積み立て(拠出)し、60歳以降70歳までの間に老齢給付金を受け取り開始できます。実施主体は国民年金連合会です。
掛け金の上限額は社会的立場によって異なります。表にまとめましたので自身の掛け金上限額を確認してみてください。
▽iDeCoにおける拠出金(掛金)の上限
自営業者 | 年81.6万円(月6.8万円) | |
専業主婦・専業主夫 | 年27.6万円(月2.3万円) | |
会社員 | 厚生年金のみ | 年27.6万円(月2.3万円) |
企業型DCあり | 年24万円(月2万円) | |
企業年金と企業DCあり | 年14.4万円(月1.2万円) | |
公務員 | 年14.4万円(月1.2万円) |
iDeCoは国民年金や厚生年金の上乗せという位置づけのため、国民年金(厚生年金)保険料を満額支払った月(第3号被保険者含む)、または法定免除になった月しか掛け金を積み立てることができません。また、iDeCo口座の開設は1人1金融機関と決められています。
iDeCo制度のメリット
iDeCoには具体的に以下の3つのメリットがあります。
iDeCoのメリット1:積立金額がすべて「所得控除」の対象となるため所得税と住民税を節税できる
課税所得からその年の掛け金(積立)金額を差し引いて所得税と住民税を計算するので、掛け金に税率をかけた金額分の節税になります。
iDeCoのメリット2:運用で得た定期預金利息や投資信託運用益が「非課税」になる
iDeCoでは掛け金を運用して利益が出た場合、運用益にかかる20.315%がかかりません。つまり非課税となり、そのぶんが手元に残ります。
iDeCoのメリット3: 給付金を受け取るとき「公的年金等控除」「退職所得控除」の対象である
給付金を年金で受け取るときは「公的年金控除」(60歳以上で70万円、65歳以上で128万円)が受けられ、一時金で受け取るときは「退職控除」(80万円×勤続年数)が受けられます。このため、税制的に有利に給付金を受け取ることができます。
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iDeCoにかかる手数料
iDeCoは国民年金基金連合会、運営管理機関(金融機関)、事務委託機関に手数料の支払いがあり、投資信託の場合は運用管理手数料(信託報酬)がかかります。
国民年金基金連合会に払う手数料
・支払う手数料1:加入・移管手数料
iDeCo加入時、または会社型確定拠出年金(DC)からの移管時に2,829円かかります。初回の掛け金または、企業型確定拠出年金から移管された資産から差し引かれます。
・支払う手数料2:加入者手数料
掛け金を積み立てる都度、110円の手数料が掛け金から差し引かれます。
・支払う手数料3:還付手数料
国民年金保険料を支払わなかった月が判明したなどで、その月のiDeCoの掛け金を加入者に返す(還付)必要が生じた場合、還付金から手数料1,048円が差し引かれます。
運営管理(金融)機関に支払う手数料
・支払う手数料1:口座管理手数料
金融機関により金額が異なりますが、掛け金を積み立てる月は口座を管理するために最低で月額171円(国民年金基金手数料105円+信託銀行手数料66円)が掛け金から差し引かれます。掛け金を毎月積み立てず1年に1回、または6ヵ月に1回にし、積立回数分の口座管理手数料(金融機関により1回171円から629円)を支払えば手数料を節約することもできます。
・支払う手数料2:事務委託機関(信託銀行)手数料
こちらも金融機関により金額が異なりますが、掛け金を積み立てない月は信託銀行に支払う手数料として最低で月額66円差し引かれます。
・支払う手数料3:受け取り手数料
給付金を受け取る都度差し引かれる手数料で、440円に設定している金融機関が多数となっています。給付金を年金で受け取らず一時金で受け取れば、受け取り手数料は1回で済みます。
・支払う手数料4:資産移管手数料
iDeCoで積み立てた資産を他の金融機関に移し替えるときに4,400円の手数料がかかります。口座管理手数料や取引手数料が安価なネット銀行に多く、口座管理手数料の高い大手銀行などには資産移管手数料はありませんが、金融機関の変更は手間もかかります。金融機関は慎重に選びましょう。
投資信託の場合の手数料(運用管理費用)
投資信託は資産の運用をプロにお任せできる金融商品です。そのため長期の運用期間中、投資信託の残高に一定比率をかけた「信託報酬」という手数料がかかります。
iDeCoナビでは運営管理(金融)機関で手数料比較ができる
iDeCoナビで運営管理(金融)機関手数料を比較してみるとわかるのですが、1社(3,929円)を除き加入手数料は2,829円です。口座管理手数料は、掛け金を積み立てする場合で月額171円から月額629円、積み立てをしない場合でも月額66円から月額524円と開きがあります。毎月の掛け金の額や、資産残高によって、口座管理手数料が異なる金融機関もあります。口座開設前によく比較検討してみましょう。
運用する商品に投資信託を選ぶ場合は信託報酬(運用手数料)も比較しましょう。例をあげると、楽天証券で扱うiDeCo銘柄は、掛け金の0.13%から1.7%超まで開きがあります。専門家に運用を任せる手数料ともいえますが、10年以上の長期にわたって資産から差し引かれる手数料なので、金融機関の選択とともに購入する投資信託もよく選ぶ必要があります。
iDeCoの手数料は損?それを上回るメリットは?
「iDeCoには手数料が多くかかる」と感じる人もいると思いますが、それを上回るメリットは掛け金が多いと大きな節税が可能になることです。
iDeCoの最大の税制メリット「全額所得控除」
iDeCoの掛け金は全額「所得控除」(小規模企業)で税軽減されます。所得が多い人や、家族・親族による控除(配偶者控除、扶養控除等)が少ない人ほど節税効果が大きいでしょう。
iDeCoによる節税額を実際に計算してみましょう!
大手銀行でiDeCo口座開設(開設手数料2,829円)、毎月2万3,000円(1年間で27.6万円)投資、毎月431円の口座管理手数料を支払った場合の年収500万円(配偶者控除、扶養控除1人あり)の人の節税効果を比較してみます。
所得税率を10%とすると、27万6,000円×10%=2万7,600円の節税になります。住民税もほぼ同じ節税額(翌年反映される)として合計1年間で5万5,200円の節税になるのです。
対してiDeCoの1年間の手数料合計は2,829円+毎月431円×12ヵ月=8,001円です。年間で5万5,200円(所得税と翌年住民税節税分)と比べると、支払う手数料は少額です。投資金額と手数料だけを考えていては、節税のメリットを見落とすこともあります。
iDeCoで積み立てする際の注意点とデメリット
メリットの多いiDeCoに見えますが、注意点やデメリットもあります。
iDeCoの注意点・デメリット1:所得が低く、掛け金が少額だと節税額より手数料の方が多くなる
上記の例では年収500万円、掛け金月額2万3,000円でしたが、年収150万円(配偶者控除、扶養控除1人あり)、掛け金月額5,000円(年額6万円)の場合の節税額を計算してみましょう。この場合、所得税率は5%ですが(年収150万円-給与所得控除55万円-基礎控除48万円-配偶者控除38万円-扶養控除38万円)×5%、支払う所得税は0円です。
このため、手数料の合計が上記と同じ8,001円でも、iDeCoの節税メリットはまったく享受できずに手数料を支払うこととなります。
iDeCoの注意点・デメリット2:iDeCoの積立金は原則60歳まで引き出しができない
iDeCoは老後に備えて掛け金を積み立てていく自分年金の制度なので、原則60歳以降でないと積立金を引き出しできません。たとえば、加入者が55歳で子供の教育費が足りなくなった場合でも、iDeCoの積立金は引き出すことはできません。加入者が死亡したり、高度障害になったりするなど特殊な事情に該当しない限り、積立金の引き出しは認められないのです。
iDeCoの注意点・デメリット3:給付金受け取り時に資産が値下がりして積立金が目減りする恐れも
iDeCo加入時に投資信託を選ぶと、60歳以降の年金受け取り時に選んだ投資信託が値下がりして、掛け金の積み立てが目減りする可能性があります。比較的安全性の高い銘柄がラインアップされているiDeCoですが、投資信託は元本保証がない点で注意が必要です。
この値下がりによる積立金の目減りを防ぐために、投資信託を選択した場合は60歳になる前でも利益が上がっているタイミングで投資信託を売却・解約して利益を確定し、他の運用商品に移し換える(スイッチング)こともできます。
複数の運用商品に積み立てを行っている場合は、値上がりしている投資信託を売却して、他の定期預金などに移し替えれば(配分変更)、利益を確定できます。受け取り手数料は余計にかかってしまいますが、年金受け取りにすれば積立金を売却するタイミングを分散できるので、値下がりリスクも分散することができます。
また、60歳時に掛け金の積み立てが目減りしていても70歳まで受け取り時期をずらすことができるので、投資信託なら値上がりを待つことも可能です。
iDeCoの注意点・デメリット4:国民年金(厚生年金)保険料を満額支払わない月は、掛け金から還付手数料を引かれて還付される
例として、退職後に次の仕事が見つからず失業手当も終わり、国民年金保険料(月額1万6,540円)を支払うのが難しくなり、保険料の免除申請で半額免除が認められたとします。その場合、半額免除が認められた月から免除が終わる月の前月まで、iDeCoの掛け金を積み立てできなくなります。これは全額免除、1/4免除、3/4免除も同様です。
免除された期間に先に積み立てをすると、iDeCoの掛け金は還付手数料を引かれて還付されます。ただし、自営業で障害基礎年金を受けていて国民年金保険料が法定免除になっている場合は、iDeCoの掛け金を積み立てることができます。
iDeCoは現在の生活を圧迫しない金額から始めよう
60歳まで積立金を引き出すことができないので、節税メリットを考える前に「掛け金がなくても現在の生活に支障のない範囲」の掛け金から始めた方がいいでしょう。特に家を購入する計画があるときや、子供の教育費がかかるときなどは要注意です。
iDeCoはどんな人に向いている?
毎年の所得税・住民税を節税できることが最大のメリットなので、所得が多い人、上限額までiDeCoを購入できる人に向いている制度です。所得が多ければ所得税率が高いので、より多額の節税メリットを得られます。
SBI証券、マネックス証券、楽天証券などネット証券の特徴
iDeCoを始めるなら口座管理手数料の安い、ネット証券がおすすめでしょう。なかでも、運用商品の種類が多く手数料が比較的安い、SBI証券、マネックス証券、楽天証券の特徴を以下で紹介します。
SBI証券
運用商品の種類が最多の投資信託83種類、定期預金2種類、保険2種類と豊富で、運用商品を選んでくれるロボアドバイザーのサービスも利用できます。
マネックス証券
運用商品の種類は27種類(うち、定期預金が1種類)あります。また、ロボアドバイザーが運用商品を選んでくれる仕組みもあり、商品選びからおまかせしたい人には向いているサービスです。
楽天証券
元本確保の定期預金(1種類)、REITも含む投資信託が31本と、運用商品が多いのが特徴です。ロボアドバイザーにも診断してもらえます。
まとめ:iDeCoで老後資産の準備をしながら節税メリットを受けよう!
iDeCoは国が設立した制度で元本確保の定期預金なども用意されており、運用商品はすべて厚生労働省に登録されたものです。投資信託も投資商品の1つである以上、元本割れの可能性はゼロではありませんが、いたずらに不安になることはありません。また、住民税と所得税を節税できるメリットは手数料負担を上回ります。
iDeCoは金融機関で始めることができます。ネット証券以外にもいろいろな金融機関でiDeCoを取り扱っていますので、自分に合った口座を開設してみてはいかがでしょうか。
文・北垣愛
国内外の金融機関で、金融マーケットに直接携わる仕事を長く経験。現在は資産運用のコンサルタントを行いながら、主に金融に関する情報発信も行っている。日本証券アナリスト協会認定アナリスト、FP一級技能士、宅地建物取引士資格試験合格、食生活アドバイザー2級
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