投資初心者や、しばらく投資から離れていた人にとって、資産運用でより重要なことは“安定性”でしょう。安定的に資産運用するためには「分散投資」が効果的です。その分散投資の一つに「時間の分散」があります。
今回は、時間を味方につける資産形成方法である「積立投資」について解説していきます。積立投資には「定量購入方法」と「定額購入方法」の2つがありますが、今回は主に後者の「定額購入方法」について解説していきます。
目次
分散投資の一つ「時間の分散」
分散投資は、投資対象や購入時期を多様化させることで、リスクを低減させ、より高い運用成績を目指すための運用手法です。分散投資には「時間の分散」、「資産(商品)の分散」、「地域の分散」などの考え方があります。その中でも今回は「時間の分散」の効果について考えてみましょう。
以下の図は、とある投資信託(1万口あたり10,000円)の10年間の値動きを1年ごとにグラフ化したものです。この投資信託に120万円を投資するとします。なお分配金は発生しないものとします。
最初の価額10,000円(1万口あたり10,000円)のときに、120万円を一括投資していたとしたらどうなっていたでしょうか。投資開始から1年後には、1万口あたり12,000円まで値上がりしましたが、それ以降は価額が急落し、4年目には1万口あたり1,000円になってしまいました。これは、この時点では投資元本120万円が12万円まで減ってしまう計算です。
その後、6年目からは上昇に転じたものの、10年目には1万口あたり5,000円までしか戻りませんでした。投資元本120万円を一括投資した場合、大きく値下がりしたことで、60万円まで元本が減ってしまう計算になります。
毎月1万円を10年間積み立てした場合
同じ投資信託に毎月1万円ずつ10年間(120ヵ月)積立投資した場合はどのような結果となったでしょうか。投資元本は、1万円×10年(120ヵ月)で、上記の一括投資と同じ120万円です。
最初に120万円を一括投資した場合は、10年後に投資元本が60万円まで減ってしまいました。ところが、毎月1万円ずつの積立投資の場合は、10年後に投資元本の2倍以上となる約263万円まで投資資金が増える計算になるのです。
「定額」ずつ投資するため、この投資方法を「定量購入方法」と「定額購入方法」という2つの積立方法のうち、後者の「定額購入方法」といいます。定額購入方法は、分散投資の一つである「時間の分散」を実践する方法の一つです。「定額購入方法」で投資することで、価額がスタート時(10,000円)より低くなった場合(10年後は5,000円)でも利益が発生することがあるのです。
価額がスタート時より低くなった場合でも「定額購入方法」で利益が発生することがある理由
なぜ最終的な価額が半分になっているのに、「定額購入方法」では投資元本が2倍以上になるのでしょうか。その理由は、毎月の購入口数です。
毎月1万円ずつ投資するのですから、1万口あたりの価額が12,000円のときは約8,333口(10,000円÷(12,000円÷1万口)≒8,333口)しか購入できません。しかし、1万口あたりの価額が5,000円のときは2万口(10,000円÷(5,000円÷1万口)=2万口)、1,000円のときは10万口(10,000円÷(1,000円÷1万口)=10万口)を購入することができます。上記の投資信託では、10年間の投資期間において、ほとんどの期間で価額1万円を割り込んでおり、かつ価額1,000円の期間も長かったため、その安い間にたくさんの口数を購入できました。
たくさんの口数を購入できただけでなく、10年後に5,000円まで価額が戻ってきたため、最終的な資産額が投資元本を大きく上回る結果となりました。ただし、たくさんの口数が購入できても価額が低迷したままでは、必ずしも投資元本を上回るわけではないことは認識しておきましょう。
積立投資の2つの種類「定量購入方法」と「定額購入方法」
積立投資とは、定期的に資産を購入して、文字通り資産を積み立てていく投資方法のことです。前述のように、積立投資には「定量購入方法」、「定額購入方法」の2つがあります。
いずれの投資方法も、購入時の高値づかみを避け、購入価額を平均化することができるため、「時間の分散」に資するものです。 直前に説明した「定額購入方法」に「定量購入方法」も加え、比較しながら改めてそれぞれを解説します。
定量購入方法
毎回「一定口数」を購入する方法です。例えば以下のように「毎月1万口ずつ購入する」といった方法が挙げられます。例えば以下のケースでは、平均購入価額は1万口あたり6,300円となります(31,500円÷5万口×1万口=6,300円)。
1ヵ月目 | 2ヵ月目 | 3ヵ月目 | 4ヵ月目 | 5ヵ月目 | 計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
価額 (1万口) | 10,000円 | 5,000円 | 3,000円 | 4,500円 | 9,000円 | - |
買付金額 | 10,000円 | 5,000円 | 3,000円 | 4,500円 | 9,000円 | 31,500円 |
買付口数 | 1万口 | 1万口 | 1万口 | 1万口 | 1万口 | 5万口 |
定額購入方法
毎回「一定金額」を購入する方法です。上記の「定量購入方法」と同じ価額推移の例で見ていきましょう。例えば以下のように「毎月1万円ずつ購入する」といった方法で、価額が安いときは多く、価額が高いときは少なく購入することになり、結果として平均購入価額を低くすることができます。
以下のケースでは、平均購入価額は1万口あたり約5,172円となりました(50,000円÷約96,666口×1万口=約5,172円)。価額の変動によっても異なりますが、このケースでは定量購入と比較して、定額購入したほうが平均購入価額は低い結果となりました。
1ヵ月目 | 2ヵ月目 | 3ヵ月目 | 4ヵ月目 | 5ヵ月目 | 計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
価額 (1万口) | 10,000円 | 5,000円 | 3,000円 | 4,500円 | 9,000円 | - |
買付金額 | 10,000円 | 10,000円 | 10,000円 | 10,000円 | 10,000円 | 50,000円 |
買付口数 | 1万口 | 2万口 | 3万3,333口 | 2万2,222口 | 1万1,111口 | 9万6,666口 |
積立投資の3つのメリット
ここからは、ここまでで説明した「定量購入方法」と「定額購入方法」の性質を踏まえ、改めて積立投資の主な3つのメリットを整理していきます。
メリット1:高値づかみを避けることができる
一括投資の場合は、購入時の価額によっては高値づかみをしてしまう可能性があります。今後、マーケットがどのように動くのかは誰にも分かりません。だからこそ、高値づかみをしてしまう可能性を少しでも回避することが重要です。そこで、積立投資の手法である定量購入方法や定額購入方法にて、コツコツと資産を積み立てていくことで、購入価額を平均化することができます。
この特性により、高値づかみのリスクを低減することができます。特に定額購入方法は、価額が安いときはたくさんの口数を、価額が高いときは少ない口数を購入できるため、定量購入方法よりも平均購入価額を低く抑えることが期待できます。投資初心者などにとっては、検討したい投資方法といえるでしょう。
メリット2:手元にまとまった資金がない人でも投資を開始できる
積立投資は、一度にまとまった金額を用意する必要がありません。120万円を一括投資しようとすれば、投資時点で120万円というまとまった資金が必要です。しかし積立投資であれば、最初から120万円を用意しておく必要はありません。
手元にまとまった資金がない人や投資初心者などでも投資を開始しやすい点は、積立投資のメリットといえるでしょう。特に定額購入方法であれば、購入対象の資産の価額が上がったり下がったりしても、毎月一定金額を用意すれば良いため、資金計画が立てやすい点もメリットです。
メリット3:マーケットの動きに一喜一憂しない
マーケットの値動きを見て投資判断すると「もっと安くなってから購入したほうが良いだろう」などと考えて、かえって購入タイミングを逸してしまうことも少なくありません。また「急上昇しているので乗り遅れないように私も購入しなければ」と焦って高値づかみをしてしまうこともあります。しかし、定額購入方法は「毎月1回、○万円の投資をする」などの、定期的に決まった金額の投資ですので、マーケットの動きに一喜一憂することなく運用ができます。
腕に覚えのある投資家であれば、マーケットの値動きを見て投資判断し、機動的に売買しても良いでしょう。しかし、投資初心者など専門的な判断が難しい人の場合は、定額購入方法でコツコツと積み立てることがおすすめです。
積立投資のデメリット
ここからは、積立投資の主なデメリットを解説していきます。
デメリット1:一貫して値上がりした場合は一括投資に比べて利益が少なくなる
積み立てている資産の価額が一貫して値上がりした場合は、一括投資(最初に一括で投資したとき)よりも利益が少なくなります。
もちろん、積立投資であっても、資産の価額が一貫して値上がりした場合は利益が発生します。あくまでも一括投資よりは利益が少なくなるということです。
デメリット2:短期投資には向かない
積立投資は、時間を味方につける投資方法です。そのため「短い期間で成果を出したい」といった短期投資には向いていません。積立投資のメリットを十分に享受したい場合は、ある程度長期の投資期間を取ったほうが良いでしょう。
積立投資の3つのコツ
ここからは、積立投資を成功させる3つのコツを解説していきます。もちろん投資の世界に絶対はないため、以下のコツをすべて実践したからといって、必ず利益が出るわけではありません。しかし、利益が出る確率を上げることは期待できます。
積立投資を始めたら短期間でやめない
デメリットでも触れましたが、積立投資は時間を味方につける投資方法のため、短期間で運用をやめないようにしましょう。特に大きな下落(暴落)局面が来た場合は、要注意です。投資初心者の場合、暴落局面が来ると怖くなったり、保有資産がこれ以上減ることが嫌になったりして積立投資をやめてしまうことがあります。
しかし、定額購入方法の特性上、暴落局面はたくさんの口数を購入できる大きなチャンスです。もちろん暴落時の購入が必ずしも利益につながるわけではありません。しかし、反射的に積立投資をやめるのではなく、積立投資を始めた理由や下落している資産の今後の展望を改めてよく考えてみましょう。
積み立てる資産が「分散されたもの」であればより分散効果が効く
前述のように分散投資には、「時間の分散」、「資産(商品)の分散」、「地域の分散」など種類が多岐にわたります。積立投資自体が「時間の分散」に当てはまりますが、積み立てる資産が「資産(商品)の分散」「地域の分散」に対応している商品であれば、さらに分散効果が高まるでしょう。
例えば、日本株式の個別銘柄に積み立てるよりも、日本を代表する225社の株価をもとに算出される日経平均株価に積み立てたほうが分散効果は高まります。この場合は、日経平均株価への連動をめざす投資信託に積み立てれば良いでしょう。
基本的には放っておき、たまに運用成績を確認する
積立投資は時間を味方につける投資方法のため、基本的には放っておき、たまに運用成績を確認すれば良いでしょう。しかし、いつの間にか自身で定めた目標金額を達成している場合も想定されます。そのようなときは、より安定的な運用に切り替えたり、運用自体を停止したりすることも選択肢の一つです。
投資信託の中には、時間分散だけでなく、目標リターンを設定し、目標リターンに達したら自動的にリスクを抑えた運用に切り替えてくれるものもあります。そのような投資信託も上手に活用すると良いでしょう。
積立投資の開始と終了のタイミング
ここからは、積立投資の開始と終了のタイミングを解説していきます。「積立投資のメリットやデメリット、コツは分かったが、いつ開始すれば良いのだろうか」と思った人もいるかもしれません。マーケットの行方は誰にも分からない以上、基本的には「投資しようと思い立ったときが開始タイミング」といえるでしょう。
一方で難しいのが終了タイミングです。投資は目標となるリターンを求めて資金を投下しているわけですから、終了のタイミングを誤れば利益に大きな影響を及ぼします。 過去のマーケットの動きをもとにシミュレーションを行えば、ある程度の予測をすることはできます。
とはいえ、過去のマーケットの動きをもとにシミュレーションを行うことは、専門家でないと難しいでしょう。そのようなシミュレーションに沿って、目標リターンを達成する可能性が高い運用年数と投資対象を定めて、積立投資を用いながら運用してくれる投資信託もあります。そういった投資信託を上手に活用しながら、積立投資での投資を進めていくことも良いでしょう。
投資初心者、久しぶりに投資を再開する人、以前投資でうまくいかなかった人に
今回は、時間を味方につける資産形成方法である積立投資について解説してきました。積立投資は必勝の投資方法ではありません。しかし冒頭の例でも述べたように、投資開始時よりも価額が下落していても利益が出る可能性があり、相対的にはリスクが低い運用方法といえるでしょう。
投資初心者や久しぶりに投資を再開しようと思っている人、以前運用で失敗してしばらく投資から身を引いていた人などは「分からない」、「怖い」、「減らしたくない」という気持ちが強いかもしれません。時間を味方につける積立投資は、そのような思いを持つ人にピッタリの運用方法です。積立投資を活用して上手に資産を形成していきましょう。
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