本記事は、山岸昌一氏の著書『老けない人は何が違うのか 今日から始める!元気に長生きするための生活習慣』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています
たった一つの臓器の機能不全が寿命を決める
●「全身」のメインテナンスが大切
少し古いエピソードですが、アメリカのある有名な自動車メーカーの社長が工場視察をしたときのことです。
案内役の工場長は製品の質を自信満々に語りました。
「社長、このバンパーは10年もちます。このバルブも10年もちます」と、次々と耐用年数(寿命)の長さを誇りました。
ところが、最後に小さな部品を目にした社長が「これは何年もつの?」とたずねると、工場長は「それだけは3ヵ月しかもちません」と少し顔を曇らせた後、「それ以外は全て長持ちです」と、また胸を張りました。
すると、社長は苦笑い。「他が何十年もとうと、たった一つでも必要な部品が3ヵ月しかもたなければ、その車の寿命は3ヵ月ということになるじゃないか!」
全くもってその通りで、私たちの体もまた然りです。
いくら肝臓や腎臓や脳が元気でも、心臓が健康でなければ、その人の寿命は心臓で決まってしまいます。
したがって、健康やアンチエイジングを考えるときは、心臓や腸、脳といった個々のパーツだけの健康を考えるのではなく、体全体の細胞の機能の調和を保つことを優先させなくてはなりません。
細胞や個体を老化させる根源的な原因を追究し、それに基づいて全身の老化予防や維持(メインテナンス)をしっかり行うことが、健康寿命を延ばす、より効果的でより確実な戦略になるというわけです。
先頃、ある新聞の投書欄に「医者はすぐに『お年ですから』と言うけれど......」と、疑問を投げかけているお年寄りがおられました。
お気持ちはよく分かります。何でもかんでも「年だから」と片付けてしまうのはよくありませんし、そもそも患者さんに対して失礼でもあります。
医者として、その点は十分肝に銘じているつもりですが、ただ、その一方で、年をとるにつれて病気にかかりやすくなったり、あちこちに痛みが出てくるようになるのも、これまた否定しがたい事実です。
●なぜ、年をとると病気が増えるのか
では、どうして年をとると病気にかかりやすくなるのでしょうか。
それには、「生き物は、自分の遺伝子を後世に残すことを最優先する」という事象が絡んできます。
実際、私たちの体には、子孫を残す年齢までは確実に生き延びられるように何重にもわたってバックアップ機構が備わっています。
ところが、幼少期の病気を乗り越えるために良かれと思って備わっていた体の仕組みが、 40、50と年をとってきたときには仇となり、逆に体に悪さをしてしまうことが往々にしてあるのです。
これは「拮抗的多面発現仮説」と呼ばれ、老化を説明する有力な理論のひとつになっています。拮抗とは力が等しい勢力が互いに張り合う状態。多面発現は、その影響が時期や部位に応じていろいろな形で現れてくることです。
人間が持って生まれた大切な能力に「炎症反応」があります。炎症は、病原体との闘いそのものです。
敵、つまり細菌やウイルスなどの異物をせん滅することで、感染症から体を守ってくれるのが免疫細胞で、病気と闘うときに炎症反応が起こります。免疫細胞が勝利すれば、やがて速やかに組織は修復され、炎症は治まり、元の健康な状態に戻ります。
子どもの頃はウイルスや細菌に感染しやすく、ちょっとした傷が命に関わる重大事にまで発展しかねません。そのため、もともと人間には過剰ともいえるくらいの強い免疫機構が備わっています。そのおかげで、感染症やケガによる死亡のリスクが高い幼少期を私たちは乗り切ることができるのです。しかし、その強力な免疫部隊も、体が成長し、子どもをつくり終えた壮老年期頃からは、逆に力を持て余し気味になります。
そして余剰となった力は間違った方向に働き、あろうことかAGEなどの老化物質に対しても過剰に反応し、くすぶるような慢性炎症を起こしてしまうのです。これが動脈硬化症、がん、アルツハイマー病などの引き金になっていくと考えられています。
まさに、昨日の友は今日の敵なのです。
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