連載開始から丸2年が経過し、また前回は投資信託の投資家側から見た費用、すなわち「手数料」の話をさせて頂いたので、ここで一度原点に立ち返り、投資信託といういわば「他人任せの資産運用」のポジティブ面とネガティブ面について再考してみたい。つまり、そもそも「投資信託ってなんだっけ?」という話だ。
投資信託は個人の資産運用向けのビークルとして素晴らしいものだという信念はこの30年間変わらない。それで入門書なども書いておきながら(1998年6月)、実は現在、筆者は投資信託を一切保有していない。実際、今までに購入したことがある投資信託は自らが運用していた当時の「さくら日本株オープン」と「さくらアナライザー・オープン」の2つだけ。ただそれも三井住友アセットマネジメントを退職した2005年3月には売却してしまい、その後は一度も投資信託は購入していない。駄目押しするなら、現時点で購入したいと思う投資信託もない。そう言えば『97%の投資信託がダメなこれだけの理由』(ビジネス社)と題する本を2017年12月に出版させて頂いた。投資信託に対する思い入れと、現実の自分の行動は全く違ってしまっている。
どんなに時代が変わろうとも、投資判断の本質的な部分は変わらない
もちろん一般の読者の方々と違って、筆者には元ファンドマネージャーとしてのスキルがあるので、何も手数料を払ってまで他人に資産運用を任せるまでもないという一面はある。投資特性分析の中でも「委任度」という評価軸があり、自分で全てを行いたいか、或いは反対に可能な限り誰かに任せたいかを判定する項目がある。筆者のそれは「人任せにはしたくない」という結果にはなっている。だが、投資判断のスキルだけが投資信託に求める要素ではない。
第一、機関投資家の端くれとしてメガバングの看板の下に長きを過ごした経験が、その立場だからこそできた企業調査の濃密度や、或いは欧米の投資銀行の最先端金融テクノロジーに触れられる機会頻度など、口惜しいかな現在とは雲泥の差があることをはっきりと教えてくれている。やはり現役バリバリの大手金融機関所属のファンドマネージャーに、本人達は気づいていないかもしれないが、それだけのアドバンテージがあるのは事実だ。
余談になるが、筆者は投資教育サイトとその関連ビジネスとしてFund Garageを運営しているが、「投資推奨」に類することを一切していない。その一番の理由が、その情報格差が我が身をもって一番分かるからだ。ただ「ファンドマネージャーならこういう時にはどう考えるか、或いはどう分析し、評価するか」ということは普遍的なものなので、それらを伝えることで、投資をするためのロジックを身につけるお手伝いをさせて頂いている。どんなに時代が変わろうとも、投資判断の本質的な部分や分析の考え方は変わらない。それを投資家それぞれが自分流にチューニングし、そして時流に合わせることができれば、必ず納得がいくパフォーマンスを得ることが可能と考えている。なぜそう断言できるかといえば、実はこれこそが筆者が30年近くもファンドマネージャーとしてずっと続けてきたトレーニングに他ならないからだ。
パソコンの演算能力が日毎向上し、昔はワークステーションで夜間バッチ処理をしないとできなかったものが、Excelで瞬く間に処理できるようになろうと、SNSやYouTubeを通じてリアルタイムで山のような情報が無料で手に入る時代になろうとも、投資の基本、市場の基本、そして経済の基本は何も変わらない。それは全て人間の営みだからだ。ゴルフのクラブがどんなに技術進歩しようと、それを振り回す人間が「クラブを構えて、バックスイングを振り上げて、ボールをめがけて正確に振り下ろし、ボールを弾いたらフォロースイングを振りぬく」という基本が変わらないのと同じだ。