本記事は、カレー沢 薫の著書『反応したら負け 仕事のストレスを受け流す33のヒント』(PHP研究所)の中から一部を抜粋・編集しています
ちゃぶ台返しするクライアントとの接し方
出版社の方針に踊らされる漫画家の悲哀
私は会社員時代、クライアントとやりあうような仕事をしたことはなく、社員とクライアントの間に茶色く濁った豆の搾り汁を運ぶのが主な仕事であった。
私にそういう仕事をさせたら、クライアントが何を言っても「はい」と「大丈夫です」の二語しか発さず、早々に私の席には花かペッパー氏が置かれることになったと思う。
ペッパー氏は明らかに私より語彙が豊富なので、「マジでおっしゃっているのですか?」ぐらいは言えるだろうし、いざとなったら右手がドリルに変形するはずである。
しかし、作家と出版社というのも、ある意味、業者とクライアントであり、立場的にはクライアントの方がお客様で、上なはずである。
しかし、出版業界というのは少し特殊であり、お客様であるはずの、東大、慶應出身が当たり前の出版社の社員が、田舎の元ヤン、もしくはキモオタを「先生」と呼ぶ、不健全極まりない世界観なのだ。
しかし、先生などとおだてられる分、内情は苛酷であり、ちゃぶ台返しも「それ、ちゃぶ台じゃなくて俺の頭皮だよ」というレベルで行われたりする。
一番一般的なのは、決まっていた連載が、方針が変わったとか編集長が変わったとかでなかったことにされるやつである。
「実は俺も何もやってなかった」というなら逆に命拾いだが、連載までに何カ月もかけて何百枚とネームを描き、何だったらもう原稿を描き始めているという段階で「なし」が来るケースもあるのだ。
そして、今まで使った準備期間に対する支払いは基本的にゼロであり、それが「普通」としてまかり通っているのが漫画業界である。
一説によると「死ぬほどゴネる」をやれば、準備期間に対する支払いが発生することもあるらしいが、それはもはや「手切れ金」であり、もうそこからは二度と仕事がないだろうし、鬼ゴネ作家というイメージがつくと、他でも仕事がしづらくなっているため、多くの作家が泣き寝入りしているという状態である。
だが、最近はそういう理不尽な目にあったら、SNSに暴露したり、わざわざ漫画にして載せたりするのである。こういうことのためなら漫画家は喜んで漫画をタダで描く。
これはもちろん出版社側にとっては困った行為である。
山賊編集者には正当防衛で闘え!
なぜクライアント(出版社)に対してそんなことが出来てしまうかというと、まず「それがヤバいことだと判断できないから漫画家なんかになってしまった」からだ。
そして、相手のちゃぶ台返しにより、時間も労力も無駄に使った、つまり「損失」を出しているからである。
確かにクライアントには気を遣わなければいけないし、ある程度の無理を聞く必要もある。しかし、クライアントというのは、こちらに利益をもたらす、もしくはもたらす可能性を持ったものである。
つまり、利益をもたらしてくれない相手はクライアントですらないのだ。まして不利益を与えてくる編集など山賊でしかない。やらなきゃこっちがやられるので正当防衛である。
一般企業でも同様であり、利益が見込める内はちゃぶ台返しにもある程度つきあうべきだろうが「うま味がねえ」となったら、素直にその旨を伝えて無理だというべきだろう。
あと、いきなり方針を変えてくるクライアントというのは「こんなのパソコンでやれば3秒だろう」という「パソコン何でもできる教の信者」の可能性がある。
よって「これはパソコンでもすぐできることではない」と説明すると「そうなん?」と納得する場合もあるので、ダメ元で言ってみることをお勧めする。
まとめ:ゴネる、ダメ元の説得で、聞いてくれる場合もある
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