本記事は、長岡健氏の著書『みんなのアンラーニング論 組織に縛られずに働く、生きる、学ぶ』(翔泳社)の中から一部を抜粋・編集しています

ビッグアイデア・クラウドというゆるい関係

ネットワーク
(画像=tadamichi/PIXTA)

ロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットンは著書『ワークシフト』の中で、資本主義社会が経済格差を克服し、ゆとりある幸福な暮らしを実現するために、私たちが目指すべき変化の方向性を示しています。その中のひとつに、自分が求める働き方を自分の自由意思で決めていく社会を目指そうという提言がありますが、そのために求められるのが、多様な人々とのネットワークです。

多様性を拒絶する閉ざされた世界で孤独な競争を繰り返し、消耗するのではなく、自分とは異なる世界に生きる人たちとの出会いを通じて、人生の地図を軽やかに広げていく。そんな世界の多様な人々とのネットワークを、グラットンは「ビッグアイデア・クラウド」と呼んでいます。

ビッグアイデア・クラウドと名付けられたネットワークが意味するのは、自分の興味・関心を広げてくれる人々との弱いつながり。強い絆をもつ〝同志〞でもなく、一緒に居るだけで癒される〝心の友〞でもないけれど、利害関係や上下関係に束縛されないで、気軽にあれこれ話せる〝ゆるい関係〞ということです。つまり、人間関係が濃すぎないからこそ、自分の知らないことでも気楽に、恥ずかしがらずに話せる。これが第一の特徴です。

もうひとつの特徴は、自分とは違うタイプの人々とのネットワークだということです。だから、ビッグアイデア・クラウドを構築できれば、自分とは異なる興味、視点、価値観をもつ魅力的な人々との交流を通じて、関心領域や視野が自然と広がっていきます。そんな広がりが、自分の中の常識やモノの見方・考え方を見つめ直したり、自分の進むべき方向や、目指したい未来像を探索するきっかけともなるのです。

そして、ビッグアイデア・クラウドを広げていくために大切なことは、シリアス・ファン(serious fun:真面目に楽しむ)な対話の時間をもつことです。「役に立つ知識を得よう」と意識するのではなく、また、「このテーマの話が聞きたい」と焦点をあらかじめ絞らずに、対話そのものを楽しむという姿勢でいいのです。そんな〝ゆるい〞意識で楽しむ対話を通じて、ビッグアイデア・クラウドが広がっていくのですから。

私自身のことを言えば、紹介した先駆者たちと交わすのは、ほとんどが仕事と直接関係のない真面目な話です。彼/彼女たちとのシリアス・ファンな対話が、結果として、私の関心領域や視野を大きく広げてくれているのですが、その時の私には、「視野を広げよう」とか「あえて知らない話を聞こう」という意識はありません。特に深い意図もなく「この人との対話を楽しもう」としているだけ。

お互いの興味の赴くままに脈絡なく話題が飛び交い、話の流れも行ったり来たり。巷で言われているような「正しい会議の進め方」とは全く違います。逆の言い方をすれば、インタビューからの知見は、事前に「この話を聞こう」と準備していた訳ではなく、後から振り返って気づいたことを整理したものです。実際のインタビュー中は、自分と異なる世界に生きる〝ゆるい関係〞の知人との対話を純粋に楽しんでいた。それが噓偽りのない、ありのままの意識と姿勢、そして、時間の流れなのです。

つまり、多様で魅力的な人たちとの〝ゆるい関係〞があれば、意識的に「越境するぞ」と意気込まなくても、自然と越境できる自分になっていることに気づく。それがビッグアイデア・クラウドの魅力なのだと、私は理解しています。

みんなのアンラーニング論 組織に縛られずに働く、生きる、学ぶ
長岡健(ながおか・たける)
法政大学経営学部教授。東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、英国ランカスター大学大学院・博士課程修了(Ph.D.)。専攻は組織社会学、経営学習論。組織論、社会論、コミュニケーション論、学習論の視点から、多様なステークホールダーが織りなす関係の諸相を読み解き、創造的な活動としての「学習」を再構成していく研究活動に取り組んでいる。現在、アンラーニング、サードプレイス、ワークショップ、エスノグラフィーといった概念を手掛かりとして、「創造的なコラボレーション」の新たな意味と可能性を探るプロジェクトを展開中。共著に『企業内人材育成入門』『ダイアローグ 対話する組織』(ともにダイヤモンド社)、『越境する対話と学び』(新曜社)などがある。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)