この記事は2022年1月25日に配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー『金融市場のマクロ・フェアバリューはどのくらいか?』」を一部編集し、転載したものです。


目次

  1. 1. 金融市場のマクロ・フェアバリュー
  2. 2. 金融市場のマクロ・フェアバリューとレンジ
  3. 3. 金融市場のマクロ・フェアバリュー推計
  4. 4. ユーロ円 = ドル円の推計値 × ユーロドルの推計値
  5. 5. 田キャノンの政策ウォッチ:12月生産、失業率、有効求人倍率の予想
会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

1. 金融市場のマクロ・フェアバリュー

金融市場のマクロ・フェアバリューを資金循環統計を中心に推計した。経済指標は、リアル・タイムでは手に入らないので、短期の予測としては役に立たないことを注意してほしい。

四半期すべての説明変数の公表を待っていると、マクロ・フェアバリューの推計値が金融市場の動きについていけないことになる。よって、公表された説明変数から順次アップデートしていくローリング・アプローチをとることで柔軟に対応。推計の正確さより、実用性を重視する。

短期的な需給要因や市場が注目するテーマなどによる変動を考慮するため、1標準誤差を基準として、ダミー変数で調整されている。ダミー変数の係数の半分を使い、マクロ・フェアバリューの変動として、フェアレンジを示す。このレンジを超えている場合、金融市場はマクロ・フェアバリューから割安・割高になっていることを意味する。

マクロ・フェアバリューに変化はなくても、ダミー変数が必要となるような上下方向の乖離は頻繁に起こる。その乖離がなくなって、マクロ・フェアバリューに戻る動きも、大きな投資機会になる。

金融市場や経済の構造が急激に変化するなどして推計の形や係数が変化してしまっていることもある。時には「金融市場がフェアバリューから大きく乖離しているのか」や「フェアバリューが構造の急激な変化を織り込めていないのか」を判断しなければならない。

株式・債券市場の動きについては、チーフストラテジストの松本史雄と、債券シニアストラテジストの鈴木誠が、さまざまな事象で詳しく分析しているので注目してほしい。

2. 金融市場のマクロ・フェアバリューとレンジ

●長期金利:▲0.18% ー 0.05% ー 0.31%(現在0.13%)
●20年金利:0.21% ー 0.46% ー 0.72%(現在0.53%)
●日経平均(米国連動モデル) :2万5,603円 ー 2万6,530円 ー 2万7,484円(現在2万7,588円)

●ドル円 :115.8円 ー 118.8円 ー 123.6円(現在113.9円)
●ユーロ円 :130.2円 ー 141.1円 ー 153.1円(現在128.8円)
●米国長期金利 :1.47% ー 1.83% ー 2.10%(現在1.74%)

3. 金融市場のマクロ・フェアバリュー推計

●長期金利:−0.36 +0.47
●コールレート:+0.36
●米長期金利:+0.45

●米10〜30年金利差:−0.062
●ネットの資金需要:−0.024
●日銀長期国債買入れGDP比:−0.23

●YCCダミー:+0.54
●アップダミー:−0.45
●ダウンダミー:R2=0.99

●20年金利:0.079 +0.40
●コールレート:+0.38
●米長期金利:+0.68

●米10-30年金利差:−0.081
●ネットの資金需要:−0.017
●日銀長期国債買入れGDP比:−0.49

●YCCダミー:+0.53
●アップダミー:−0.50
●ダウンダミー:R2=0.99

●日経平均(米国連動モデル)=−57410 +2.8 S&P 500 +127
●名目GDP(兆円、4QMA):+65
●日銀短観中小企業貸出態度DI:−580

●ネットの資金需要(1期ラグ):+1906
●アップダミー:−1854
●ダウンダミー:R2=0.98

●ドル円 = 24 ー3.5
●日本のネットの資金需要+家計貯蓄率のトレンドからの乖離(1期ラグ):+0.51
●米国のネットの資金需要+家計貯蓄率のトレンドからの乖離(1期ラグ):−7.2

●日本長期金利:+3.0
●米長期金利:+3.6
●米2年金利:+0.71

●ドル円(2QMA、2期ラグ):+9.5
●アップダミー:−6.1
●ダウンダミー:R2 =0.97

●ユーロドル:0.33 +0.018
●ユーロ圏のネットの資金需要+家計貯蓄率のトレンドからの乖離(1期ラグ):−0.017
●米国のネットの資金需要+家計貯蓄率のトレンドからの乖離(1期ラグ):+0.059

●ドイツ長期金利:−0.049
●米国長期金利:+0.010
●米国2年金利:+0.68

●ユーロドル(2期ラグ):+0.10
●アップダミー:−0.13
●ダウンダミー:R2 =0.94

4. ユーロ円 = ドル円の推計値 × ユーロドルの推計値

●米国長期金利=2.4 + 0.35
●米国2年金利:−0.12
●米国家計貯蓄率(2QMA、2期ラグ):−0.32

●ユーロ圏経常収支(4QMA、2期ラグ):+0.40
●5Y5Yインフレ期待:−0.0054

●米国マネタリーベース前年差(GDP%):+0.54
●アップダミー:−0.71
●ダウンダミー:R2=0.97

5. 田キャノンの政策ウォッチ:12月生産、失業率、有効求人倍率の予想

1月31日に経済産業省が発表する「12月鉱工業生産」は前月比+0%と、11月(同+7.0%)までの2ヶ月連続の上昇から一転、横ばいと予想。半導体などの部品の供給制約は徐々に緩和してきたが、欧米で新型コロナウィルスの感染拡大が起こり、物流の滞りなどが懸念され、これまで在庫水準も修復されてきたことで、一時的に生産が抑制されたとみる。

サプライチェーンの問題が徐々に解消され、欧米の新型コロナウィルスの感染拡大がピークを打ち始めて経済活動が再開する中で、鉱工業生産指数は挽回生産の動きで上昇を続ける、とみられる。

1月29日に総務省が発表する12月失業率は2.9%と、11月(2.8%)から悪化すると予想。11月の失業率も前月から悪化したが、その理由はリストラではなく、自発的な離職や新たに求職を始めた失業者が増加したため。こうした前向きな理由による失業者増に伴う失業率悪化がしばらく続くだろう。

2月1日に厚生労働省が発表する12月有効求人倍率は1.15倍と、11月(1.15倍)から横這いの予想。12月は新規感染者数が限定的だったため、分母である有効求職者数と、分子である有効求人数がともに増加が予想されるが、有効求人倍率は前月から変化しないだろう。


会田 卓司
岡三証券 チーフエコノミスト
田 未来
岡三証券 エコノミスト

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