本記事は、佐藤耕紀氏の著書『今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「マーケティング」』(同文舘出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
宮崎駿監督がこだわった「となりのトトロ」のコピー
広告の3点セット、広告コピー
鈴木敏夫さんは、「宣伝の基本となるのは、タイトル、コピー、ビジュアルの3点セット」だと言います。
商品パッケージも、本の表紙も、基本的にはこの3要素で構成されます。
マーケティング担当者たちは知恵を絞って、商品コンセプトを反映する魅力的な「3点セット」を考えるのです。
スタジオジブリ『天空の城ラピュタ』のポスターは、たしかに「タイトル、コピー、ビジュアル」が一体となった、印象的な広告だと思います。
ジブリの広告コピー
スタジオジブリ作品の「広告コピー」(advertising slogan)も、いくつか紹介しておきましょう。
『天空の城ラピュタ』は宣伝プロデューサーだった徳山雅也さん、『ゲド戦記』は鈴木敏夫さん、それ以外はコピー・ライターの糸井重里さんによるものです。
- 「ある日、少女が空から降ってきた…」(『天空の城ラピュタ』1986年)
- 「おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。」(『魔女の宅急便』1989年)
- 「カッコイイとは、こういうことさ。」(『紅の豚』1992年)
- 「好きなひとが、できました。」(『耳をすませば』1995年)
- 「トンネルのむこうは、不思議の町でした。」(『千と千尋の神隠し』2001年)
- 「かつて人と竜はひとつだった。」(『ゲド戦記』2006年)
『となりのトトロ』(1988年)のコピーは「このへんないきものは、まだ日本にいるのです。たぶん。」というものです。
実は、糸井重里さんによる最初のコピーでは「もう日本にいないのです」となっていたそうです。
ところが監督の宮崎駿さんが「いる」というので、「まだ日本にいるのです」となったのです。
『魔女の宅急便』と「ヤマト運輸」の不思議な出会い
タイ・アップ
『空飛ぶ広報室』や『シン・ゴジラ』のパブリシティは、自衛隊とドラマ・映画との「タイ・アップ」(tie-in)でもあります。
「タイ・アップ」はもともと「むすびつく」という意味ですが、ここでは「双方にメリットのある提携や協力」のことをいいます。
鈴木敏夫さんは『天空の城ラピュタ』(1986年)の宣伝で、この手法を知ったそうです。
当時、タイアップという手法は、まだそれほど知られていませんでした。
いろんな形がありますが、簡単にいうと、企業の商品に映画のキャラクターを使ったり、CMに映画のシーンを使ってもらうことで、映画を宣伝するという手法です。企業側には、映画というコンテンツを商品企画や自社のイメージアップに利用できるというメリットがあり、映画製作者側には、宣伝費をかけずにいろんな媒体で広告ができるというメリットがあります。
2021年の夏に、人気ゲーム「ファイナルファンタジーXIV」と「ローソン」がコラボして、ゲームの内容にちなんだ「からあげクン 光と闇のクリスタル味」が発売されました。
こうした話題性のある企画は、いろいろなメディアがとりあげてニュースにするので、双方にとって「パブリシティ」の効果があります。
ローソンにとっては、ゲームのファンがお店に来てくれて、売上が増えたり、新たな客層を開拓できるメリットがあります。
「からあげクン」のパッケージにはゲームのロゴやビジュアルが入るので、「ファイナルファンタジーXIV」にも大きな宣伝効果があるでしょう。
「スタジオジブリ」の『魔女の宅急便』(1989年)は、はじめから「ヤマト運輸」とタイ・アップするつもりで企画されました。
原作は角野栄子さんの児童文学『魔女の宅急便』(福音館書店、1985年)です。
「宅急便」はヤマト運輸がつかうブランド(登録商標)です。
角野さんはこれを知らずにタイトルにつかい、当初はヤマト運輸からクレームがきたそうです。
1968年生まれ、北海道旭川市出身。旭川東高校を卒業後、学部、大学院ともに北海道大学(経営学博士)。防衛大学校で20年以上にわたり教鞭をとる。経営学にあまり興味がない学生を相手に、なんとか話を聞いてもらう努力を重ね、とにかくわかりやすく伝える授業にこだわっている。就職、結婚、子育て、といった人生のイベントをひととおり終え、生活者としての経験をふまえて、仕事にも人生にも役立つ経営学を探求している。趣味はクラシック音楽と海外旅行。前著『今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「経営学」』(同文舘出版)のほか、経営・マーケティングの共著が6冊ある。※画像をクリックするとAmazonに飛びます