この記事は2022年4月8日(金)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー(日本経済の新しい見方)『金融市場が織り込んでいるマクロは?』」を一部編集し、転載したものです。
金融市場のマクロ・フェアバリューの推計とは
資金循環統計を中心に、マクロと金融市場のデータを使えば、金融市場のマクロ・フェアバリューを推計することができる。その推計値であるマクロ・フェアバリューは、金融市場のトレンドの水準がマクロの動きで正当化できるどうかの判断に使うことが可能だ。
一方、金融市場は将来を予想して動くものであるので、マクロ・フェアバリューと実績値との乖離は、その予想の動きを表すとも考えられる。このマーケットが織り込むマクロ要因の大小を見ることで、実際のマーケットの動きが過度なものを織り込んでいるかどうかの判断の参考にすることができる。
マクロ・フェアバリューを決めるマクロ要因は複数あるため、その要因が最も影響を与えると考えられる金融市場の指標から、順々に織り込んでいる水準を逆算していく。
日経平均
マクロ・フェアバリューと実績値の差で、将来の名目GDPがどの程度まで拡大していくことを織り込んでいるのかが推計できる。
バリュー株
国内のリフレ・サイクルを示すネットの資金需要、そしてグロース株でドル/円の見通しをどのように織り込んでいるのかが推計できる。
長期金利
マクロ・フェアバリューと実績値の差で、将来の米国長期金利を米国経済の見通しを含めてどのように織り込んでいるのかが推計できる。
20年金利
マクロ・フェアバリューと実績値の差で、将来の米国10年〜30年金利差をイールドカーブの動きを含めてどのように織り込んでいるのかが推計できる。
米国長期金利
マクロ・フェアバリューと実績値の差で、将来の米国2年金利をFEDの利上げ見通しを含めてどのように織り込んでいるのかが推計できる。
ドル円
マクロ・フェアバリューと実績値の差で、将来の日本長期金利を日銀の緩和政策の継続の見通しを含めてどの程度まで上昇していくことを織り込んでいるのかが推計できる。
ユーロ円
マクロ・フェアバリューとの実績値の差で、将来のドイツ長期金利をユーロ圏の国際経常収支の黒字の見通しを含めてどのように織り込んでいるのかが推計できる。
織り込んでいる水準が過大であるかどうかで、マーケットの動きが行き過ぎているのかどうかが判断できることになる。例えば、現在の日経平均は531兆円の名目GDPを織り込んでいる。新型コロナウィルス感染拡大前のピーク水準が563兆円であるから、経済活動の回復をほとんど織り込んでいない。
TOPIXグロースがマクロ・フェアバリューからかなり弱くなっている。本来は円安の追い風を受けるはずであるが、「悪い円安キャンペーン」が広がり、過小評価されていると考えられる。
円安の追い風で輸出企業の収益計画が大幅に上方修正される形で、差は埋まっていくと考えられる。「悪い円安キャンペーン」に乗るか、乗らないかで、今年の運用パフォーマンスは大きく左右されるだろう。
金融市場のマクロ・フェアバリューとレンジ、織り込んでいるマクロ
- 長期金利
0.05% −0.28% −0.55%(現在0.23%)。織り込んでいる米長期金利2.53%(現在2.65%)
20年金利
0.42%、0.67%、0.93%(現在0.77%。織り込んでいる米10年〜30年金利差0.27%pt(現在0.08%pt)
日経平均(米国連動モデル)
2万7,030円 −2万8,003円 −2万9,093円(現在2万6,889円)。織り込んでいる名目GDP531兆円(現在542兆円)
TOPIXバリュー
1,880ポイント −1,972ポイント −2,050ポイント(現在1,964ポイント)。織り込んでいるネットの資金需要−5.2%(現在−3.7%)TOPIXグロース
3,017ポイント −3,061ポイント −3,134ポイント(現在2607ポイント)。織り込んでいるドル/円89.1円(現在123.9円)米国長期金利
2.18% −2.52% −2.78%(現在2.65%)。織り込んでいる米国2年金利2.86%(現在2.46%)ドル円
122.4円 −126.4円 −133円(現在123.9円)。織り込んでいる日本長期金利0.51%(現在0.23%)ユーロ円
139.4円 −149.1円 −163.0円(現在135.2円)。織り込んでいるドイツ長期金利 −0.29%(現在0.68%)
金融市場のマクロ・フェアバリュー推計
長期金利:−0.36 +0.47
- コールレート:+0.36
- 米長期金利:+0.45
- 米10〜30年金利差:−0.062
- ネットの資金需要:−0.024
- 日銀長期国債買入れGDP比:−0.23
- YCCダミー:+0.54
- アップダミー:−0.45
- ダウンダミー:R2=0.99
20年金利:0.076 +0.40
- コールレート:+0.38
- 米長期金利:+0.68
- 米10年〜30年金利差:−0.08
- ネットの資金需要:−0.017
- 日銀長期国債買入れGDP比:−0.49
- YCCダミー:+0.53
- アップダミー:−0.5
- ダウンダミー:R2=0.99
日経平均(米国連動モデル):−47268 +3.2
- S&P500:+106
- 名目GDP(兆円、4QMA):+85
- 日銀短観中小企業貸出態度DI:−529
- ネットの資金需要(2期ラグ):+2180
- アップダミー:−1946
- ダウンダミー:R2=0.99
TOPIXバリュー:−4863 +12
- 名目GDP(兆円):+7
- 日銀短観中小企業貸出態度DI:−75
- ネットの資金需要(2期ラグ):−244
- 震災後・コロナダミー(11Q2から12Q4、20Q2から21Q3):+156
- アップダミー:−184
- ダウンダミー:R2=0.98
TOPIXグロース:−2566+4.2
- 名目GDP(兆円):+0.43
- S&P500:+12
- ドル/円:−108
- 震災ダミー(2011Q2以降):−20
- ネットの資金需要(2期ラグ):+146
- アップダミー:−89
- ダウンダミー:R2=1
米国長期金利:2.5+0.33
- 米国2年金利:−0.12
- 米国家計貯蓄率(2QMA、2期ラグ):−0.32
- ユーロ圏経常収支(4QMA、2期ラグ、):+0.395
- Y5Yインフレ期待:−0.011
- 米国マネタリーベース前年差(GDP%):+0.53
- アップダミー:−0.67
- ダウンダミー:R2=0.97
ドル/円:34−3.9
- 日本のネットの資金需要+家計貯蓄率のトレンドからの乖離、1期ラグ:+1.5
- 米国のネットの資金需要+家計貯蓄率のトレンドからの乖離、1期ラグ:−11
- 日本長期金利:+5.2
- 米長期金利:+3.1
- 米2年金利:+0.66
- ドル/円(HPフィルター、4期ラグ):+13
- アップダミー:−8
- ダウンダミー:R2=0.93
ユーロ/ドル:0.97+0.016
- ユーロ圏のネットの資金需要+家計貯蓄率のトレンドからの乖離、1期ラグ:−0.012
- 米国のネットの資金需要+家計貯蓄率のトレンドからの乖離、1期ラグ:+0.098
- ドイツ長期金利:−0.062
- 米国長期金利:+0.18
- ユーロドル(HPフィルター、1期ラグ):+0.094
- アップダミー:−0.082
- ダウンダミー:R2=0.93
本レポートは、投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたものであり、個々の投資家の特定の投資目的、または要望を考慮しているものではありません。また、本レポート中の記載内容、数値、図表等は、本レポート作成時点のものであり、事前の連絡なしに変更される場合があります。なお、本レポートに記載されたいかなる内容も、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。