この記事は2022年6月10日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「高まる家計の節約志向、企業は価格競争に直面」を一部編集し、転載したものです。
(総務省「家計調査」ほか)
ガソリン・電気代や食料品といった日用品の価格が上昇することで、家計の節約志向は高まっているとみられる。今回は、当社が考案した「節約志向指数」を用いて家計の節約志向を可視化し、企業行動への影響について考察しよう。
「節約志向指数」は、品目ごとの消費者物価指数(CPI)の伸び率から家計調査における支出平均単価の伸び率を差し引いた値を指数化したものだ。家計の節約志向が高まり、より安い商品をより多く購入するようになれば、CPIよりも支出平均単価の伸びが下振れるため、節約志向指数は上昇する。図表1のとおり、節約志向指数は商品市況の高騰が本格化した2021年後半以降に上昇傾向にあり、直感とも一致する。
家計の節約志向が高まる中では、客離れを警戒して小売価格を十分に引き上げられない企業も多いだろう。日銀短観を用いて、小売り、宿泊・飲食サービス、対個人サービスといったB to C関連の業種の交易条件(販売価格判断DI-仕入価格判断DI)を確認すると、足元で悪化(マイナス幅が拡大)しており、仕入価格の上昇に対して十分に販売価格を引き上げることができていない様子がうかがえる(図表2)。
EC(電子商取引)市場の拡大やドラッグストアの取扱商品の拡充などを背景に、価格競争は構造的に激化する状況にある。足元でも、PB(プライベートブランド)が食料品価格を据え置く動きが見られ、メーカー側もPBに合わせた動きをとっているとみられる。
価格競争圧力が高まる中でコスト上昇を十分に価格に転嫁できなければ、企業収益が圧迫され、賃金の低迷につながる。結果として家計の購買力が伸びないため、企業は引き続き価格転嫁に慎重にならざるを得ないという悪循環に陥っているわけだ。資源高・円安による仕入価格の高騰を受けてコアCPIの伸びが注目される裏側には、こうした根深い構造的な問題(経済が縮小均衡に向かう圧力)が隠れている。
みずほリサーチ&テクノロジーズ 上席主任エコノミスト/酒井 才介
週刊金融財政事情 2022年6月14日号