本記事は、佐藤綾子氏の著書『1秒オーラ 好意はなぜ発生するのか』(集英社)の中から一部を抜粋・編集しています

第一印象にしがみつく理由

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(画像=tamayura39/stock.adobe.com)

誰だって、自分は間違っていない、正しいと思いたい。パッと見たものについても、見間違ったなどと思いたくない。ちゃんと見たと思いたい。そこで、ほんの一瞬たった1秒見たものについて、本当は見間違えていたとしても、あれが正しかったと思い込みたいのです。これが一貫性原理。第一印象に私たちがしがみつく心理です。

例えば、実際にあった話ですが、田園調布の交差点で私は左ハンドルの車を運転していました。突然、左側にバイクが止まり、窓をコンコンと叩きます。見たら、目つきの悪い若い男です。当然こちらは窓を開けたくない。けれど、あまり強く叩くので、窓が割られても困る。ほんの少しだけ開けて「何が起きたの?」と聞いたら、「おまえは俺のバイクに当たった」と言うのです。当たり屋です。私は猛烈忙しいときで、あいにく警官を呼びませんでした。

その後、妻と名乗る人から、「主人は大工だが足が痛くて仕事に行けないので、1日の日当7万円として2日分の14万円を払ってほしい」と電話がかかってきました。あまりに変な話なので、第三者に立ち会ってもらって会ったのです。すると今度は、やけに真面目そうな表情をしているではありませんか。パッと私の車の横に止まったときの顔が彼の本性で、次に示談書を作ろうとして会ったときには、よそ行きのジェントルマンの顔になっていたというわけです。けれど、私は第一印象観察の専門家でもあり、自分の第一印象が正しいことが分かっているので、完全に彼らの嘘を見破って、金銭のやりとりなしで解決しました。

けれど、第一印象で見間違ってしまう場合もあります。それでも第一印象にしがみついてしまうのです。親切顔をして問題だらけの土地を売りに来た不動産屋に騙されてしまうのも、こんな理由です。第一印象が非常によかった。そのあとで、あの土地はどうもいろいろあるらしいと思っても、素敵な第一印象が頭にこびりついているので、騙されているというふうに自分の受けた印象を修正できないのです。

結局、私たちはあまり自己否定をしたくない。自己肯定をして生きていきたい。それは人間が自然に持っている欲求です。第一印象が間違っていたなどと思いたくないわけです。

こんな癖があるのならば、対策はただ一つ。相手に会ったときの第一印象で冷静沈着に、相手の本質をつかみましょう。相手の表情をよく見ることです。しっかりしたアイコンタクトを保って、口元はきちんと引き締めているか?

一方で自分も明るく、誠実な自分の第一印象を常に出せるように心がけましょう。

固定観念を逆手にとって「強い第一印象」を発信する

もう30年も前でしょうか。結婚するなら「3高」というのが流行りました。「高学歴、高収入、高身長」です。同じ頃に登場した「3K」は「きつい、汚い、危険」、これは労働に対する言葉です。

こんなふうに、私たちは仕事や人間に対して一つの括り、グループ分けをしたがります。「大学教授だからきっと偉い人だ」とか、「きちんとダークスーツに身を包み、髪型は長髪すぎず、かといってスキンヘッドでもない」などと、職業や世間での評価に合わせて、まだ見ぬ人の第一印象を頭の中で作り上げてしまう。これが、固定観念が印象形成をした例です。

誰かにこれから会うときは、その人の前歴やバックグラウンドをネットや口コミで調べて、大体こういう人だろうとイメージを作って会います。実際そのほうが安全である場合も確かにあるのです。「もうちょっとちゃんと調べていれば、あんな男性には引っかからなかっただろうに」と思われる事件も実際にあって、世間を騒がせているのですから。

けれど、この固定観念があるゆえに、自分の印象把握力がまるで間違ってしまう場合があります。実際、私も一度、まさかと思った面白い出会いがありました。東大の先端科学技術研究センターの西成活裕教授に初めて会ったときのことです。アポの時間が決まっていましたから、その方がいつ現れるかは予測できました。でも、会ってビックリ。スキンヘッドでTシャツ、身長が猛烈に高い。並んで立ったら私は彼の肩にも到達しない。今まで頭の中で描いていた東大教授という固定観念が、見事に全部ひっくり返った瞬間でした。こんなこともあるので、あまり固定観念に縛られないで人に会うように気をつけているのですが、それでもそのときはビックリしました。

さて、第一印象を発信するあなたとしては、この相手の固定観念をうまく利用して、強烈な印象を作ることをおすすめします。例えば、ホテルのフロント担当の女性だから、おしとやかで、ひかえめにに違いないと相手が思っているとしたら、そこでパッと明るく、「まあ、こんにちは」とカジュアルに現れる。相手は一瞬の驚きとともに、あなたのことをすぐに自分の記憶に鮮烈に焼きつけます。

あなたの仕事や社会的ステータスに対して相手はきっとこう思っているだろうということは分かりますね。そうしたら、固定観念を覆す現れ方をすれば、あっけにとられたり、インパクトが強かったりして、相手は一気にあなたのファンになります

1秒オーラ 好意はなぜ発生するのか
佐藤綾子(さとう・あやこ)
長野県生まれ、信州大学教育学部卒。ニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究科卒(MA)、上智大学大学院英米文学研究科卒(MA)、同博士課程修了。立正大学大学院心理学専攻、博士(パフォーマンス学・心理学)。日本大学藝術学部教授を経て、ハリウッド大学院大学教授、(社)パフォーマンス教育協会理事長、(株)国際パフォーマンス研究所代表。自己表現力養成セミナー「佐藤綾子のパフォーマンス学講座®」主宰。パフォーマンス心理学の第一人者として、累計4万人のビジネスリーダー、首相経験者含む国会議員のスピーチ指導を行う。著書に『自分をどう表現するか』『一流のリーダーがやっている部下のやる気に火をつける33の方法』『できる大人の「見た目」と「話し方」』『トップリーダーに学ぶ人を惹きつける「自分の見せ方」』『30日間で生まれ変わる! アドラー流 心のダイエット』『10秒で好かれるひとこと 嫌われるひとこと』『成功はPQで決まる 今、ビジネスに必要なのは自己表現力「PQ」だ』など。単著は本書含め198冊、累計326万部。http://www.spis.co.jp/

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