本記事は、内藤裕二氏の著書『すごい腸とざんねんな脳』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

腸
(画像=sdecoret/stock.adobe.com)

やる気や心の安定も腸が作っている?

幸福度に関する調査では、その人がどのような考え方を抱いているかということが重要視されます。しかし、その考え方に腸が影響を与えているとしたら、あなたはどのように思いますか?

腸で作られるさまざまな神経伝達物質の中で代表なものがセロトニンです。この神経伝達物質は、脳の中でリラックス、安心感、幸福感などをもたらし、別名「幸せホルモン」とも呼ばれています。

セロトニンの役割は「他の神経伝達物質の調整」です。脳には、喜びや快楽を感じさせる「ドパミン」や恐怖や驚きを感じたときに分泌される「ノルアドレナリン」、興奮や運動に働く「アセチルコリン」などの神経伝達物質が存在し、それぞれが適量ずつ働くことで体のバランスを保っています。その神経伝達物質の量をコントロールしながら心を落ち着かせ、精神を安定させるのがセロトニンの働きです。

ドパミンやノルアドレナリンなど、私たちの心の安定ややる気に関係している神経伝達物質は他にもいろいろとありますが、このうちセロトニンの濃度の影響が9割を占めていることが知られています。つまり、セロトニンの濃度が低ければ、心の安定が保てなくなったり、やる気がうまく出なくなったりするのです。

セロトニンの9割は腸で作られる

体内にあるセロトニンの分布の割合は、約90%が腸、約8%が血液中、そして脳内に存在するのはわずか約2%。この約2%の脳のセロトニンのモトが腸から吸収されます(図)。

すごい腸とざんねんな脳
(画像=すごい腸とざんねんな脳)

食事から摂取した必須アミノ酸(主にはトリプトファン)から、腸内細菌のはたらきでセロトニンのモトがつくられます。それが脳に届くとセロトニンとなり、リラックスや幸福感などの感情を発生させます。腸内環境が良いと十分な量のモトが脳へ送られるため、セロトニンが増えて精神状態が安定する一方、腸内環境が悪いとセロトニンが足りずにイライラや不安感の原因になります。

トリプトファンを摂取できる食べ物は、豆腐、納豆、みそ、しょうゆなどの大豆製品、チーズ、ヨーグルト、牛乳などの乳製品、米などの穀類です。これらを積極的に摂取することも大事です。

また、明日からすぐに実践したいのが、起床後すぐに朝日を浴びること。太陽の光が網膜(もうまく)に入るとそれがスイッチとなりセロトニンの分ぶん泌ぴつがスタートします。目の網膜が光を感じることでセロトニン分泌が活性化されるので、窓の近くや外に出て10〜30分ほど、しっかりと太陽の光を浴びましょう。

光の強さは2,500〜3,000ルクス以上が望ましいため、500ルクス程度しかない室内の電灯では効果がないようです。セロトニンには、体を活動モードにして心のバランスを整える効果もあります。

太陽の光を浴びるとなんとなく気分がいいのは、セロトニンのそんな性質と働きが関係していたからです。体内時計を正すのにも役に立っています。

さらに、運動はセロトニンの量を増やすもっとも簡単で効果的な方法です。息が少し切れるくらいの軽いウォーキングを30分するだけでも、セロトニンの分泌量を増やすことができます。朝ごはんをリズムよくかんで食べる、吐く息を意識して深呼吸をするなどでも効果的です。ぬるめのお湯につかったり、ストレッチをしたりとリラックスする時間も設けてみてください。セロトニンを増やすだけでなく、自律神経を整える効果も期待できます。

まとめ
やる気が出るのも腸内細菌次第
すごい腸とざんねんな脳
内藤裕二
京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学。昭和58年京都府立医科大学卒業。平成13年米国ルイジアナ州立大学医学部分子細胞生理学教室客員教授、平成21年京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学准教授。平成27年より同学附属病院内視鏡・超音波診療部部長。

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