本記事は、内藤裕二氏の著書『すごい腸とざんねんな脳』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
やる気や心の安定を生み出す食事
セロトニンは必須アミノ酸であるトリプトファンを材料に作られます。1日の摂取量は体重1kgあたり2mgが目安です。たとえば、体重60kgの方であれば1日に120mgのトリプトファンを目安に摂ってみましょう。
トリプトファンは、セロトニンになり、メラトニンになります。トリプトファンの摂り方には3つのポイントがあります。まず、朝に摂取することです。朝食で生体リズムがスタートし、日中にセロトニンが増えるというサイクルを考えるとこのタイミングがベストです。2つ目に、セロトニンの合成を促すビタミンB6を一緒に摂ること。そして最後に、よく嚙むこと。嚙むという行為がセロトニンを増やすことにつながります。
次のトリプトファンの多い食材の一覧を参考にしてください。
主食のベストはそばです。できるだけ、そば粉の割合が多いものがおすすめです。
おすすめ3大食品は、「大豆、カツオ、ナッツ類」です。大豆は100gあたり53mgのトリプトファンを含んでいます。大豆だけを毎日食べるのは難しいと感じるかもしれませんが、大豆食品には納豆やしょうゆ、豆腐やみそ、豆乳など多くのものがあります。牛乳の代わりに豆乳を飲んだり、食事に豆腐入りの味噌汁や納豆をたしたりするだけでも簡単にトリプトファンを摂取できるでしょう。
カツオは驚くことに100gあたり310mgものトリプトファンを含んでいます。もともと魚にはトリプトファンが多く含まれているのですが、中でもカツオは群を抜いてトップレベルの含有量です。刺身やたたき、丼やサラダなどさまざまな食べ方があるので普段の食事に取り入れてみてください。私はカツオのタタキが好物で、ニンニク、ショウガ、ネギ、ミョウガなどの薬味野菜をたっぷり入れて食べています。
ナッツ類には100gあたり40mgのトリプトファンが含まれています。ナッツ類だけで1日のトリプトファンを補うのは難しいかもしれませんが、普段のおやつをナッツ類に変えるだけで1日の摂取量を増やすことが可能です。血糖への影響も少なく、栄養価も高いため、小腹がすいたときに最適でしょう。
腸内細菌叢によって効果のある食物繊維が変わる
腸内環境にとって食物繊維の摂取が重要であること皆さんおわかりでしょう。そこでよく聞かれるのが「食物繊維としてはどのようなものが腸によいのですか?」といった質問をよく受けます。しかしながら、なかなか科学的なデータを基に説明することは難しいものです。説明するとしても、水溶性と不溶性の違い、低発酵性と高発酵性の違い、高こう粘ねん稠ちよう性せいと低てい粘稠性の違いなどを中心に説明することがこれまででした。
スタンフォード大学のマイケル・P・スナイダー博士のチームは、一般的に摂取されている食物繊維サプリメントに着目し、それらがコレステロールと血糖値などにどのような影響を及ぼすかを検討しました。多くの人が食物繊維摂取推奨量を満たしておらず、サプリメントで補っているが、それが健康の維持・増進に役に立っているのかどうかは、はっきりしていないという結果になりました。
この研究では、参加者を無作為に、発酵性食物繊維アラビノキシランまたはイヌリンを摂取する2群に分け、それぞれのサプリを最初の1週間は1日10g、翌週は20g、3週目は30g摂取しました。その後、6〜8週間の薬物が体内から無くなる期間をおいて、最初に割り付けられたサプリメントとは別のサプリメントを同じように摂取しました。最終的に、両群ともに5種類の食物繊維混合サプリを摂取しました。
研究期間中、参加者は食事内容を記録するとともに、血液、尿、便のサンプルを採取し、便メタゲノミクス、血漿プロテオミクス、メタボロミクス、リピドミクス解析を実施しました。
解析の結果、高用量のアラビノキシランを摂取する条件下では、多くの参加者のLDL(悪玉)コレステロールの低下と胆汁酸の増加が確認されました。このことから、コレステロール低下のメカニズムは、従来から言われていたような、アラビノキシランがコレステロールに結合してその排泄を促すのではなく、胆汁酸の合成促進によることが明らかになりました。一方、血糖値への影響は認められませんでした。また、一部の参加者では、アラビノキシラン摂取後にコレステロールがわずかしか低下しませんでしたが、タンパク質摂取量の違いが関与している可能性があることも解明されました。
一方、イヌリンは大半の人にとってコレステロールを下げるようには機能せず、むしろ炎症が引き起こされ、高用量を摂取した場合には、肝臓のダメージを示すマーカーが上昇しました。
また、アラビノキシランと同様に、血糖値への影響は認められませんでした。
以上の結果は、食物繊維サプリ摂取後の反応が参加者によって異なることを示していて、重要な知見と考えます。ある人には有効なサプリメントが、他の人にも同じように働くとはいえないことを意味しています。将来的には、それぞれの人に合った食物繊維サプリメントが予測できるようになる可能性も指摘されています。私としては、個々人の腸内細菌叢情報が参考になるのではとも考えています。
- まとめ
- 個々人の腸内細菌叢によって、効果のある食物繊維が異なる