本記事は、井上裕之氏の著書『嫌われない断り方69フレーズ』(きずな出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
「断りベタな」人は4つの「思い込み」を持っている
人は、なぜ断ることが苦手なのでしょうか?
「わたしは断ることが苦手だ」
というふうに自覚していたとしても、どうして断れないのか、その理由について深く考えたことがあるという人は少数派ではないでしょうか。
そこで、周囲にいる「断りベタな人」たちを思い起こして、彼ら彼女らが断れない理由について、わたしなりに考えてみました。
その理由とは、「断りベタな人」の多くはいくつかの「思い込み」を持っているということです。
その思い込みとは、下記にまとめた4つです。
どうでしょうか?
思いあたることがあるのではないですか?
しかし、これらはまさにただの「思い込み」に過ぎません。
次の項目から順番に解説していきます。
- 「断りベタな人」が持つ4つの思い込み
- 「嫌われるのではないか」という思い込み
- 「チャンスを逃すのではないか」という思い込み
- 「相手に申し訳ない」という思い込み
- 「断らなくても相手が察してくれるのではないか」という思い込み
ちゃんと断ったほうがむしろ信頼される
ひとつ目の
「嫌われるのではないか」
という思い込みは、「断りベタな人」が持つ思い込みの代表格といっていいでしょう。
日本には「和を
これは、
「人々が互いに仲良く調和していくことがもっとも大事なことである」
という教えです。
そんな言葉が広く浸透している日本社会においては、周囲の人に嫌われることを恐れる気持ちがとても強いのです。
しかし、誰かに嫌われることはそんなに怖がらなければならないことでしょうか?
そもそも、すべての人に好かれようとする必要などありません。
そうしようと思ったところでなかなかそうできるものでもありません。
逆に、適切な断り言葉を使うことで、嫌われるどころかむしろ信頼されることもあるはずです。
これは、立場を入れ替えて考えてみればよくわかります。
友人を食事に誘ったときに、相手からなかなか返事がなかったり、
「行けたら行くね」
なんてあいまいな返事が来たりしたらどうですか?
はっきり断ってくれたなら、別の友人を誘ったり、他の予定を入れたりもできますよね。
みなさんのまわりの人にとっても、これは同じです。
断り方次第で、相手の信頼を得られることもあることを覚えておきましょう。
相手は本当に嫌われたくない人か?
そして、「嫌われるのではないか」「嫌われたくない」などと考えることよりも、
「その人との関係を継続したいか」
と考えることが重要だと、わたしは思います。
特に社会人であれば、自分の成長や今後のキャリアのためにもこの視点は欠かせないものです。
嫌われることを恐れるあまりに、上司や取引先から無理難題を押しつけられてばかりいては、それこそ自分の成長につながる仕事や勉強に時間を
プライベートの知人はもちろん、仕事で付き合いがある人に対しても、あらためて
「その人との関係を継続したいか」
と考えてみましょう。
その結果、「関係を継続したい」と思えない人の依頼や誘いだったら、思い切って断ってしまうのも悪いことではありません。
例えば「この人と一緒にいると、つらい、苦しい」「どうしてもこの人とは価値観が合わない」と感じる人であればこれを一度検討してみてもいいと思います。
もちろん、そうするためには、自分にとってなにが大切なのかという価値観を明確にしておく必要があります。
プライベートにおいてどんな人たちとどんな時間を過ごしたいのか、社会人としてどんなキャリアを築いていきたいのか――。
そういった価値観を持てていないと、「その人との関係を継続したいか」という問いに対して答えを出すことができないからです。
結局、無理や我慢は続かない……
「断りベタな人」が持つふたつ目の思い込みは、
「チャンスを逃すのではないか」
というものです。
確かに、断らないことでなんらかのチャンスを受け取れるのも事実です。
特に、仕事上の依頼や誘いといったものであれば、自分を成長させたり仕事の幅を広げたりすることにつながるチャンスを得られる、ということにもなるでしょう。
しかし、そういった依頼や誘いであっても、「断りたい」と感じながら受けるのであれば、どこかで「無理」や「我慢」をしなければなりません。
そして、そんな無理や我慢をずっと続けるなんてできません。
依頼や要望の内容によっては、心身の不調を招くことになってしまう可能性も否定できません。
あるいは、無理を押してなんでもかんでも引き受けた結果、相手の依頼にきちんと対応できなくなるということもあるでしょう。
そうなれば、結局は相手からの信頼を失い、欲しかったはずの次のチャンスまで失ってしまうことも考えられます。
ゼロか100かで断る必要はない
そうはいっても、ただストレートに断ればいいというわけでもありません。
このケースでは、相手は「なんらかのチャンスを与えてくれる人」だからです。
だからこそ、相手と「完全に関係を絶たない上手な断り方」を学んでほしいのです。
このような「なんらかのチャンスを与えてくれる人」との関係を、いま現在の状況から「ゼロか100か」で考えることは、社会人にとって得策とはいえません。
将来的にその相手との関係からなにかを得ようと思うならば、また、いま断らずにいるとどうしても無理や我慢をしなければならない状況になるのであれば、「相手といったん距離を置く」断り方をしましょう。
例えば、
「しばらくは〇〇に専念したく考えておりますので」
といった理由を示せば、比較的長いスパンで依頼や誘いには応じることができないという気持ちを示すことができます。
断っても、意外と相手は気にしていない
「断りベタな人」が持つ3つ目の思い込みは、
「相手に申し訳ない」
というものです。
これは、「嫌われるのではないか」という思い込みに近いものかもしれません。
嫌われることを恐れるがために、
「もし断ったら相手に申し訳ない」
と考えてしまうのです。
しかし、「『相手に申し訳ない』なんて思わなくていい」といったところで、これまでの人生のあいだにできあがった感情の動きはそう簡単に変えられるものではないでしょう。
大前提として、「相手に申し訳ない」と思うこと自体は自然な感情の動きですから、悪いことではありません。このことは覚えておいてください。
ただ、ここでよく考えてほしいのです。
断ることで、あなたが「申し訳ない」と思わなければならないほど、相手は嫌な気持ちになるのでしょうか?
実は、自分が勝手に「申し訳ない」と思っているだけで、相手はあまり気にしていないということも多いものです。
あなたの依頼や誘いを、相手に断られるケースならどうでしょう?
仕事上の相手になんらかの依頼をしたとします。そこで、「あいにくどうしても都合がつかなくて……」と断られたときに、嫌な気持ちになるでしょうか?
「仕方ない、今度また都合がつくときにお願いしよう」
「今回は別の人を探してみるか」
と考えを切り替えるのではないでしょうか。
むしろ、「申し訳ない」と思うばかりに安請け合いをしてしまってきちんと責務を果たせなかった場合には、無理をした揚げ句に相手に迷惑をかけてしまうことになります。
断らないことが、自分にとっても相手にとってもよくない結果となってしまうのです。
もちろん、上司や先輩からの仕事の指示など、組織内の立場から断りにくいという場合もあるはずです。
それでも、単純な好き嫌いなどではなく、どうしても指示に従えない明確な理由があるなら、その理由や自分が置かれている状況をきちんと伝えて断ることも、社会人として必要なことだと思うのです。
そうしなければ、組織全体に迷惑をかけてしまうことがないとはいえません。
気になるのであれば「代替案」を出す
それでも「申し訳ない」と感じてしまうなら、「代替案」を出すことを考えましょう。
「期限をあと3日延ばしていただければ受けられるのですが……」
「そういった内容でしたら、わたしより〇〇さんが適任だと思います」
というふうに提案したなら、相手からすれば「次の一手」を考える手間が省けます。
場合によっては、
「そっか! そういえば〇〇さんがいたね、ありがとう」
と感謝されることさえあるかもしれません。
察してくれない人もいる
「断りベタな人」が持つ4つ目の思い込みは、
「相手が察してくれるのではないか」
というものです。
この思い込みには、日本の文化や教育も影響している可能性があります。
海で外国と
ハイコンテクスト文化とは、「コミュニケーションが、価値観や感覚といったコンテクスト(文脈、背景)に強く依存する文化」を意味します。
ここでいうコンテクストには、身振り手振りや声のトーン、表情といったものも含まれます。
簡単にいうと、ハイコンテクスト文化とは「空気を読む文化」のことです。
つまり、大多数の人がまさに「相手が察してくれるのではないか」と考える文化が、ハイコンテクスト文化なのです。
そんな文化がある日本社会においては、はっきりした言葉で断らずとも互いに察し合うことが美徳ともされてきました。
しかし、そんなガラパゴス化した日本社会も、大きな転換期を迎えています。
少子高齢化によって労働力人口の減少が進み、業界を問わず人手不足が大きな問題となっていることは周知の事実です。
いまでこそコロナ
今後は、生まれた国も持っている文化も異なる多様な人たちと協働していくことが求められます。
そんななか、日本人のあいだだけで通じる、「相手に察してもらう」断り方が通用するはずもありません。
グローバル化、多様化がさらに進むこれからの時代においては、はっきりと断るというスキルも、社会人にとって欠かせないものになっていくに違いないと考えます。
あいまいな返事は相手の迷惑になる
しかし、このことは外国人相手だけにいえることではありません。
日本人同士においても、はっきりと断ることが重要です。
いくら「空気を読む文化」を共有しているとはいえ、あいまいな返事では相手とのあいだにコミュニケーションギャップが生まれることもあるからです。
はっきりと断らず、
「いま立て込んでおりますので、あらためてお返事いたします」
といった保留をすることが、相手にとっては迷惑になることもあります。
自分としてはそのあいまいな保留の返事で、「はっきりとは断っていないけれど、断りたいことを察してほしい」と伝えたつもりかもしれませんが、相手は「あらためてのお返事」をずっと待っている可能性もあるでしょう。
断るのなら、はっきりと、そして素早く断ったほうが、相手からすれば次の対処ができますし、よほどありがたいことのはずです。
以上のように、「断りベタな人」が断れない理由は、そのすべてが単なる思い込みだということを、わかってもらえたでしょうか。
断ることで嫌われることもチャンスを逃すこともありませんし、「相手に申し訳ない」と思う必要もなければ、すべての人が「察してくれる」わけでもありません。ですから、今後はしっかりと「断れる人」になっていきましょう。
1963年、北海道生まれ。東京歯科大学大学院修了後、世界レベルの技術を学ぶためニューヨーク大学、ペンシルベニア大学、イエテボリ大学で研鑽を積み、医療法人社団いのうえ歯科医院を開業。自身の医院で理事長を務めながら、東京医科歯科大学、東京歯科大学非常勤講師、インディアナ大学客員講師など国内外の6つの大学で役職を兼任している。その技術は国内外から評価され、特に最新医療・スピード治療の技術はメディア(情報番組「未来世紀ジパング」)に取り上げられ、注目を集めている。世界初のジョセフ・マーフィー・トラスト(潜在意識の権威)公認グランドマスター。本業の傍ら、世界的な能力開発プログラム、経営プログラムを学んだ末に、独自の成功哲学「ライフコンパス」をつくり上げ、「価値ある生き方」を伝える著者として全国各地で講演を行なっている。
著書累計は130万部を突破。実話から生まれたデビュー作『自分で奇跡を起こす方法』(フォレスト出版)は、テレビ(「奇跡体験! アンビリバボー」)で紹介され、大きな反響を呼ぶ。ベストセラー『「学び」を「お金」に変える技術』(かんき出版)、『なぜかすべてうまくいく 1%の人だけが実行している45の習慣』(PHP研究所)など著書多数。※画像をクリックするとAmazonに飛びます