本記事は、ティモシー・オルセン氏の著書『アメリカの高校生が学んでいる投資の教科書』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。
株を分析する方法
株式についてリサーチする方法は、数百、あるいは数千といえるほどたくさんある。その中身は、きわめて厳密なファンダメンタルズ分析から、どこか「眉唾もの」にも思えるテクニカル分析まで千差万別だ。株式の分析には、たしかに時間がかかる。しかし、時間をかけてきちんと分析すれば、その見返りはとても大きい。
ただし、ここで1つ忠告がある。それは、分析がどんなに得意でも、少数の銘柄だけを持つのではなく、つねに多数の銘柄に分散したほうがいい結果につながるということだ。
とりあえず今のところは、株やその他の投資対象を分析する代表的な方法を見ておこう。投資をするなら、どんな投資法を選ぶにしても、必ずこれらの方法を理解しておかなければならない。
まず紹介するのは、もっとも有名だが、2020年から2021年にかけての「ミーム株(*)」ブームの間はなぜか忘れられてしまった感のある「ファンダメンタルズ分析」だ。
(*):ミーム株とは、SNSなどインターネットで大きく注目され、株価が急上昇した銘柄のこと。ゲーム小売店のゲームストップ(GME)などが有名。
ファンダメンタルズとは、国や会社の基礎的な経済・経営状況のことをさしている。つまり、会社の損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書など、重要な財務の数字を分析するのがファンダメンタルズ分析だ。ファンダメンタルズを分析すると、会社の経営状況や、将来の成長性を知り、現在の株価が適正か、それとも高すぎるか、安すぎるかといったことを判断できるようになる。
もう1つの方法は「テクニカル分析」だ。こちらはネット株のブームとデイトレードの隆盛で有名になった。テクニカル分析とは、簡単に説明すれば、株価の値動きなどを示したチャートやグラフ、重要な指数などを駆使して値動きのパターンを分析し、そこから将来の株価を予測するという手法だ。値動きにはある程度、決まったパターンがあるので、パターンから正しい売り時や買い時を知ることができるという考え方が基盤にあり、多くの場合、短期の値動きを予測するときに使われる。
投資家が絶対に使わなければならないという分析法は存在しないが、私なら、投資の初心者にはまずファンダメンタルズ分析を行うことをおすすめする。会社の経営状況や、ビジネスの中身をよく知ることができるからだ。テクニカル分析のほうが自分に合っていそうだという人は、まずテクニカル分析の本を1冊か2冊読んでみるといいだろう。それから、本で紹介されていたチャートやグラフ、指数をインターネットで検索して、実際にどんなものか見てみよう。
分析の要は「利益」
投資のためにリサーチをするときに、要となる要素の1つが「利益」だ。ほとんどの会社が、四半期ごとに株主に向けて自社の利益を発表している。利益という言葉からだいたい予想はできるだろうが、これは会社のすべての収入から経費を引いた数字という意味だ。
利益は、投資家であるあなたが興味を持ついくつかの数字の根拠になっている。たとえば、1株あたりの利益(EPS)は純利益をもとに計算される。これは、当期純利益を発行されている普通株の総数で割った数字だ。当期純利益が200万ドルで、発行済みの普通株が400万株なら、その会社のEPSは0.5ドルになる。
EPSは利益よりも重要な数字だとされている。その理由は、EPSからはより正確な収益性を知ることができるからだ。EPSはそれ以外にも、実際の価値に見合った株価がついているか判断するときの基準として使われる。
株の分析に使う数字には、他にも株価収益率(PER)というものがある。PERは、実際の株価がEPSの何倍になっているかを表した数字だ。たとえば、Z社の株価が50ドルで、第1四半期のEPSが5ドルだとしよう。PERは株価をEPSで割った数字なので、この場合は10倍(50÷5)ということになる。
PERは、その会社の過去の業績や、同業他社、あるいは市場全体のPERと比較するときに使われる。おそらく、ある株価が高すぎるか、それとも安すぎるかを判断するときにもっとも活用される数字だろう。アナリストはそれに加えて、将来のPERの予測も行う(これは「予測PER」と呼ばれる)。予想PERでわかるのは、次の4四半期にわたる会社の利益とPERだ。
おさらいすると、PERとは、実際の株価が、1株あたりの利益(EPS)の何倍になっているかを表す数字だ。つまりPERが高いほど、市場はその会社の利益に対してより多くのお金を払っている(より高い価格で株を買っている)ということになる。これは大切なことなのでよく覚えておこう。ちなみに、利益がマイナスの会社はPERがまったくない。
利益は、会社が株主に公開する財務情報の中でもっとも重要な数字だ。たしかに「利益はもはや重要ではない」という人も中にはいるが、それは間違いだ。投資家は将来の利益の予測に従って株を売買し、また実際の利益が発表された後にも、その数字に従って株を売買する。
投資に必要な情報を分析する人たちは「アナリスト」と呼ばれる。株式のアナリストも、利益の情報に従って株式を評価する(評価を上げることを「アップグレード」、逆に下げることを「ダウングレード」という)。このアナリストの評価をきっかけに、投資家が株を売ったり買ったりして、その結果として株価が上下する。この連鎖反応の具体例を挙げると、図7の「シナリオ1」や「シナリオ2」のようになる。
連鎖反応のシナリオはそれこそ無数にあり、図7で紹介した2つはほんの一部にすぎない。利益はある意味でごく単純な数字だが、それでもアナリストの中には独自の解釈を加える人がいるので、投資家はどうしても混乱してしまう。私からのアドバイスはこうだ。「アナリストたちの分析の平均値に注目し、そのうえで彼らに頼らず自分で判断しよう」
誰かがあなたに「利益はもはや重要ではない」といってくるかもしれないが、その言葉を信じてはいけない。実際、2000年代初頭にネット株バブルが崩壊し、NASDAQが暴落したときに、利益はやはり重要だということが証明された。当時、ほとんどのインターネット企業は利益がマイナスだったからだ。
ネット株バブルの最盛期にインターネット企業に投資した人たちは、この暴落で大金を失い、下がり続ける株価をただ呆然と眺めていることしかできなかった。利益がまったくなくても、数年なら会社は存続することができる。しかし、利益を上げたことが一度もないのなら、その会社が生き残るのは不可能だ。
「グロース株投資」と「バリュー株投資」
株式投資に深入りする前に、株式投資には2つのスタイルがあるということを知っておく必要がある。それは「グロース株投資」と「バリュー株投資」だ。
グロース株投資とは、成長率が平均よりも高い会社の株を買うことだ。グロース株を買う人は、会社の成長にともなって株価が大きく上がることを期待している。対して「バリュー株投資」は、会社の実力と比べて株価が割安になっていると判断できる株を買う投資スタイルだ。割安かどうかは、業績、財務状況、競合他社との比較などを見て総合的に判断する。
多くの投資家はグロース株投資のほうを好むが、バリュー株投資を選ぶ投資家もいる。たいていの場合、リスクの大きさはグロース株もバリュー株も同じだが、小型のグロース株と小型のバリュー株の中には例外もある。一般的に、小型のバリュー株は、小型のグロース株よりもリスクが大きい。なぜなら、時価総額が小さく、株価が割安だと判断される会社は、ひょっとすると財務状況が悪いのかもしれないし、破産寸前のところも中にはあるかもしれないからだ。一方で小型のグロース株は、まだ成長の初期段階かもしれないが、ある程度の資本は手元にある。
実際のところ、グロース株のほうがバリュー株よりリターンが大きいこともあれば、その逆の場合もある。投資家は、バランスを考えて両方の株に投資したほうがいいだろう。そうすればポートフォリオがより分散され、バリュー株かグロース株のどちらかが不調になっても、損失を最小限に抑えることができる。
何が株価を動かすのか
何が株価を動かすのか? この問いについては実にさまざまな議論がある。たとえば、効率的市場仮説(EMH)も株価の動きを説明する理論の1つだ。簡単におさらいすると、効率的市場仮説とは、ある株について知られていることはすべて株価に織り込まれているという考え方だ。たとえば、ある会社が新しいビジネスを展開したとすると、その会社はプレスリリースを出し、市場もすぐにそのニュースに反応して株価が動く。
そこであなたは、こんなことを考えるかもしれない。「誰かがある会社の株価に影響を与えそうな情報を知っていて、まだその情報が一般には知られていなかったらどうなるだろう? その人が未公開の情報に基づいて株の売買を行えば、大儲けできるのではないだろうか?」
たしかにその通りだ。しかし、それをやってしまうと、罰金を科されるか、最悪の場合は牢屋に入れられることになる。ある会社について、まだ一般には公表されていない情報を知っている人、たとえばその会社の幹部や、幹部の友人、知人、家族、あるいは一部の仲買人は、未公開の情報に基づいて株の売買を行うと、「インサイダー取引」の罪で訴えられることになる。インサイダー取引とは、ある証券に関する未公開の情報を知っている人、たとえば会社の幹部、アナリスト、仲買人などがその証券の売買を行って不当に利益を得ることだ。株式市場における公正な取引を阻害するという理由から、インサイダー取引は法律で禁止されている。
効率的市場仮説を信じる人は、ファンダメンタルズ分析を用いてバリュー株を探すのも、テクニカル分析を用いて市場の動きを予測するのも無意味だと考える。しかし、ここで気をつけてもらいたいのは、効率的市場仮説には賛否両論あり、絶対的に正しいわけではないということだ。
市場がどんな状態でも投資のチャンスはある。株価が上下するのは当然であり、好調なブルマーケットの後は、必ず不調なベアマーケットが訪れる。ここで大切なのは、チャンスを見抜き、そのチャンスを自分の有利になるように活用することだ。