本記事は、内藤 誼人氏の著書『人間関係に悩まなくなるすごい心理術69』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

心の傷からの回復イメージ
(画像=takasu / stock.adobe.com)

何もしないほうがよいこともある

心に溜まったモヤモヤは、人に聞いてもらうとスッキリすると一般に考えられています。

心理学には「カタルシス」という用語があり、他人に悩みを相談することで心が浄化されるのだと長らく考えられていました。

しかし最近は、この「カタルシス」という現象がどうも怪しいということを示す研究もチラホラ見られるようになりました。他人に悩みを話していると、かえってよくない結果になるのではないか、というのですね。

ニューヨーク州立大学のマーク・シーリーは、2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロ事件の発生当日から数日後までに、自分の感じたトラウマを他の人に話したか、話さなかったかを2,138人に質問しました。

それから2年後に再調査してみると、トラウマを「話さなかった」人のほうが、トラウマに悩むこともなく、精神的に健康であることがわかりました。

心にモヤモヤがあっても、何もしないことのほうがいいこともあるのです。

トラウマを人に話そうとすると、その当時の記憶や感情が蘇ります。いろいろな人に話そうとすると、そのたびにトラウマが再燃してしまうのです。

その点、だれにも話さないようにすると、記憶や感情は少しずつ風化していきますから、気づいたときにはすっかり忘れているのです。

しばらく放っておけば、イヤな思い出は自然に消えます。

ところが、他の人に「ねえ、ちょっと聞いてよ」と自分の悩みを語ろうとすると、そのたびに当時のトラウマが再燃します。せっかく消えかかった火に、新しいガソリンをぶちまけるのと同じで、トラウマはなかなか消えません。

心に悩みがあるからといって、それを他の人に聞いてもらおうとすると、悩みが余計に長引くこともある(いつもではありません)という事実は知っておくといいですね。

シーリーは、悩みを抱えた人は、すぐにカウンセラーやセラピストに相談しようとするものですが、そんなことをしないほうがよいかもしれないとさえ指摘しています。

イヤなことがあったときには、大好きなものを食べ、お風呂にゆったりつかって、さっさと寝てしまいましょう。一晩寝れば、心も軽くなっています。

私たちの心は、もろくて壊れやすいのかというと、そんなこともありません。

私たちの心には、相当に強い自然回復能力がありますので、しばらく放っておけばたいていの悩みは消えてなくなるのです。問題が発生したからといって、あわてて他人に話そうとしたり、カウンセラーのところにいったりしなくとも、悩みは自然に消えるのだということを覚えておきましょう。

人の心は、私たちが思っているよりも強い

「トラウマ」という言葉は、もともとは心理学の学術用語だったのですが、今ではすっかり日常語になってしまいました。大変に苦しい思いをすると、「なんだかトラウマになりそう」などと、普通の人でも使います。

さて、トラウマ的な出来事が起きたときには、どういう対応をすればいいのかというと、すぐにどうにかしようとするのではなく、まずは少し様子を見ましょう。あわててカウンセラーのところにかけこまなくてかまいません。

コロンビア大学のジョージ・ボナノは、配偶者が亡くなってしまい、悲しみに打ちのめされたときでも、カウンセリングが必要かというと、決してそんなことはないと述べています。

たいていの人は自分の力で、人間関係の喪失の苦しみから立ち直るのであって、カウンセリングを受けると、かえって回復力が弱められてしまい、事態がさらに悪化する可能性さえあるとボナノは指摘しています。

失恋をしたとか、受験に失敗したとか、苦しく感じる出来事が起こったとしても、すぐにどうにかするのはやめましょう。

私たちの心には、自然な回復力が備わっているのです。ものすごく悲しい気持ちになったとしても、カウンセラーにすぐに助けを求めるのはどうなのでしょうか。

私は心理学者ですので、本来なら同業者であるカウンセラーの肩を持って、「苦しいときにはカウンセリングやセラピーを受けるといいよ」とアドバイスしたいところですが、まずは自分の自然な回復力を信じたほうがいいような気がします。

病気になったときもそうで、ちょっと熱が出たからといって、すぐに解熱剤を飲む必要はありません。

なぜなら、私たちの身体は非常に良くできていて、ウィルスが身体に侵入すると、体温を上げることでウィルスをやっつけようとする自然な免疫メカニズムが備わっているからです。たいていの病気は、2、3日寝ていれば自然に治るのです。解熱剤などを飲んでしまうと、かえって自然な免疫力が弱まってしまいます。

心の病気についても同じです。

どんなに苦しい出来事が起きても、しばらくの期間を乗り切れば、自然に受け入れることができるようになります。乗り切る時間がどれくらいになるかは、人によって違うと思いますが、「一生、苦しいまま」ということは絶対にありません。熱が出ても、しばらくすると自然に熱が引いていくように、心の悩みも少しずつ、少しずつ和らいでいきます。

人間関係に悩まなくなる心理術69
内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長。
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。趣味は釣りとガーデニング。 著書に『いちいち気にしない心が手に入る本:何があっても「受け流せる」心理学』(三笠書房)、『「人たらし」のブラック心理術』(大和書房)、『世界最先端の研究が教える新事実 心理学BEST100』(総合法令出版)、『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(明日香出版社)、『羨んだり、妬んだりしなくてよくなる アドラー心理の言葉』(ぱる出版)など多数。その数は250冊を超える。
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)