本記事は、内藤 誼人氏の著書『人間関係に悩まなくなるすごい心理術69』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
心配事は、そんなに起きない
『心配事の9割は起こらない』(枡野俊明著、三笠書房)という本があります。
さすがに9割は言い過ぎかなと思いますが、私たちが心配していることは現実にはそんなに起きません。
コーネル大学のデビッド・ダニングは、学期の初めの講義で、大学生に抑うつの心理テストを受けてもらいました。そのテストで高得点の人を「抑うつ群」とし、低得点の人を「非抑うつ群」としました。それから、学期中にどれだけネガティブな出来事が起きるのかを予想してもらいました。
ネガティブな出来事とは、「単位を落とす」「人間関係の破綻」「10ポンド(約4.5キロ)太る」などです。抑うつ群の人たちは、これらの出来事の40.3%が起きるだろうと予想しましたが、非抑うつ群の人は28.6%しか起きないと予想しました。
それから実際の学期の終わりに、自分が予想したことがどれくらい起きたのかを聞いてみると、抑うつ群ほど予想が外れることがわかりました。自分では「起きる」と思っていても、ネガティブな出来事はそれほど起きなかったのです。
抑うつ的な人は、イヤなことが次から次へと自分の身に降りかかってくるだろうと怯えているものですが、現実にはそういうことは起きないことのほうが多いのです。
ウソだと思うのなら、みなさんも自分でどれくらい予想が当たるのかを確認してみるといいですよ。ただし、記憶に頼ってはいけません。私たちの記憶はとてもいいかげんで信用できませんから、手帳などにきちんと記録を残すのです。
3ヵ月、6カ月、1年くらいのスパンで、今後どのようなことが起きるのかを予想してみましょう。そして3ヵ月、あるいは6カ月経ったら、自分の予想が当たったかどうかを確認するのです。
やってみるとわかりますが、心配していることはほとんど起きていないはずです。つまり、まったくの杞憂にすぎないことをご自身で実感することができるでしょう。ネガティブなことばかり考えてしまう人には、ぜひ記録をとって確認してほしいと思います。そうすれば、客観的に、「なんだ、心配することもなかったな」ということが自分でも納得できるようになりますから。
いろいろなことを心配していると、どうしても気分が落ち込みます。元気も出せなくなります。これでは楽しい人生を歩むことができません。
あれこれと思い悩むことが多い人は、心配事があるたびに、「心配事なんて、実際にはそんなに起きない!」と何度も口に出して言いましょう。くり返して自分にそう言い聞かせていると、そのうち心配しなくなります。
不安で、心配性であることをメリットだと考える
不安を感じやすいのは、悪いことなのでしょうか。起きる可能性が小さなことを心配しすぎるのはダメなことなのでしょうか。
いいえ、そうではありません。
不安を感じやすかったり、心配性であったりするのは、"頭がいい証拠"でもあるからです。
カナダのオンタリオ州にあるレイクヘッド大学のアレクサンダー・ペニーは、126人の大学生に、全般性不安障害テスト、心配性テスト、知能テスト、の3種類のテストを受けてもらいました。
すると、不安で、いつでもクヨクヨと心配ばかりしている人ほど、頭がいい人でもあることがわかりました。
不安を感じるのは、頭がよすぎるからなのです。頭がいいので、おバカさんが思いつかないようなことまで考えてしまって、悩むのです。
「私は不安症で、心配性だ」というネガティブな自己評価ではなく、「私は頭がいいのだ」とポジティブな自己評価をしてみてください。そう考えることができれば、「自分はこれでOKなのだ」と受け入れることができますよ。
不安症や心配性の人は、頭がいいだけではなく、実は"仕事ができる人"でもあります。
英国ゴールドスミス大学のアダム・パーキンスは、フィナンシャル会社の社員を対象にした調査で、心配性の人ほど、仕事ができる人であることを明らかにしています。直属の上司に、「この人の仕事ぶりに点数をつけてほしい」とお願いすると、心配性の人ほど、直属の上司から「仕事ができる人」という評価を受けやすかったのです。
なぜ心配性の人ほど、仕事ができるのでしょうか。
その理由は、自分の心配を解消するために、いろいろと手を打つことができるからです。
「他の人も打ち合わせに同席するかもしれないから、資料は余分に持っていくか」
「ギリギリのスケジュールで予定を組むと、うまくいかないかもしれないから、日程と予算には相当の余裕を入れておくか」
「相手が約束を忘れているかもしれないから、念のためにメールを送っておくか」
心配性な人ほど、そういう行動をとりますから、結果として、"仕事ができる人"になれるのです。
楽観的な人は、そういう心配をしませんので、事前の準備もあまりやらないのです。そのため、ちょこちょことミスをしてしまい、仕事ができないのです。
不安を感じたり、心配性であることは決してマイナスなことでもありません。
頭がよくて、仕事ができる人でもあるのですから、自分に自信を持ってよいのです。考え方によっては、「私は心配性でよかった」とさえ思えるようになりますよ。
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。趣味は釣りとガーデニング。 著書に『いちいち気にしない心が手に入る本:何があっても「受け流せる」心理学』(三笠書房)、『「人たらし」のブラック心理術』(大和書房)、『世界最先端の研究が教える新事実 心理学BEST100』(総合法令出版)、『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(明日香出版社)、『羨んだり、妬んだりしなくてよくなる アドラー心理の言葉』(ぱる出版)など多数。その数は250冊を超える。