本記事は、内藤 誼人氏の著書『人間関係に悩まなくなるすごい心理術69』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

「YES」のアルファベット文字のウッドビーズ
(画像=Hiro / stock.adobe.com)

口論になりそうなら、さっさと土俵から降りる

言い争いをすることほどバカバカしいことはありません。相手とは険悪なムードになりますし、ヘタをすれば人間関係自体が終わってしまいます。

世の中のたいていの言い争いというものは、よくよく考えてみると、自分にとっては「どうでもいい内容」であることが多いのではないでしょうか。いちいち目くじらを立てて、鼻息を荒くして、人と口論するようなものでもないことが少なくありません。

目玉焼きにかけるのは、醤油なのか、ソースなのか、ケチャップなのかなど、本当にどうでもいいことです。それでも私たちは、自分がしていることと違うことをしている人には、ムキになって口論を仕掛けます。

もし口論になりそうなら、さっさと勝負の土俵から降りてしまったほうがいいですよ。

口論するのは面倒くさいですから。

「なるほど、あなたの考えにも一理あるね」
「ふぅん、そういわれればキミの言う通りだ」
「ほう、その視点は私には欠けていたよ」

こんな感じのことをつぶやいて、早々に負けを認めてしまうのです。相手は、みなさんを言い負かしたように感じて気分がよいでしょうし、こちらはこちらで後々の面倒を避けることができるので、お互いにハッピーです。

カリフォルニア大学のスーザン・チャールズは、1,031人の調査回答者を、若者(25歳〜39歳)、中年(40歳〜59歳)、年配者(60歳〜74歳)と年齢で3つのグループに分けて、8日間、毎晩夜に電話をかけて、「今日は、どれくらいストレスを感じましたか?」と聞く一方、どれくらい口論を避けたのかを聞いてみました。

その結果、年配者ほどストレスを感じることが少なかったのですが、その理由は巧みに人との口論を避けているからであることがわかりました。

毎日、他人との口論を避ける割合を調べると、若者は5.7%、中年は8.4%、年配者は15.2%となりました。年配者ほど口論をしないのです。口論をしないので、ストレスも感じにくいのです。

口論をしたところで、どうせ相手はこちらの言うことを聞いてくれません。

私たちは、自分の信念、考え方、価値観を基本的に変えないものだからです。

なので、どんなに説得しようとしても、結局はムダな試み。年配になると、そういう人間の心理の機微をきちんとわかるので、そもそも口論をしないのです。ムダなことをすると、自分のエネルギーが奪われるだけだということが経験的にわかるのです。

人と言い争いをしたり、議論したりするのは、時間と労力のムダ使い。そんなところに力を入れる必要はありません。さっさと降参してしまったほうが利口です。

イエスマンになる

ビジネス書やビジネス雑誌を読んでいると、「イエスマンになってはいけない」と書かれた記事を目にすることがあります。

相手が上司や重役であっても、自分の意見はどんどんぶつけていくほどのバイタリティ溢れる人間がこれからは求められる時代だ、などともっともらしく書かれているので、「なるほど」と納得しそうになります。

けれども、これは間違い。

なぜかというと、自分に食ってかかってくる人を好ましく評価する人などいないからです。上司や重役は、確実に自分に食ってかかってきた人には悪感情を持ちます。そういう人が社内で出世していけるとは思えません。「あいつはうるさいから僻地か外国に左遷させるか」と思うに決まっています。

「イエスマンになってはいけない」というのは、あくまでも理想論なのであって、現実とは違います。現実には、上司や重役の言うことはホイホイと何でも聞き、喜んで従う人ほど出世、昇進していくものです。私たちは、イエスマンが大好きだからです。

オハイオ州立大学のスィーブン・カーは、ある製造工場と、保険会社の2社の社員を対象にして、「イエスマンになって上司に服従することをどう思うか」と聞いてみました。

すると製造工場の管理職のうち、88%はそれに反対しました。「うちの会社にイエスマンなんていらない」というわけですね。

ところが同じ会社の社員だと、37%は「イエスマンになることはよいことだ」と答えたのです。

保険会社でも同じでした。管理職の80%は「イエスマンはダメ」と答えたのに、社員は19%が「イエスマンになるのはよいこと」と答えたのです。

地位が上の人と下の人とでは、考え方がまるで違うのです。

偉い人の答えは、あくまでも理想論。けれども、社員はそれが理想論にすぎないことをよくわかっていて、もし上司に反対の意見などをしようものなら、恐ろしいことが起きるに決まっていることを理解しています。ですから、現実的に「イエスマンのほうがいい」と答えるのでしょう。

もしビジネス書を読んで、「なるほどイエスマンになってはいけないのか」と考え、重役が出席する会議において、重役の意見やアイデアに面と向かって反対したら、どうなるでしょうか。

おそらく、「若造のくせに何を言うか!」と一喝されてオシマイでしょうね。職場での自分の立場も、ものすごく悪くなってしまうでしょうね。重役や管理職の言う、「イエスマンになってはいけない」というのはあくまでもタテマエなのです。実際にその通りにしたら、とんでもなく怒られます。

お酒を飲むとき、「今夜は無礼講だ!」と社長が言ったとしても、社長に失礼なことをしても許されるのかというと、通常は決して許してもらえませんよね。「イエスマンになってはいけない」というのは、まさにそれと同じで、本当にその通りにするのは愚か者の

することであることをきちんと理解しておきましょう。

人間関係に悩まなくなる心理術69
内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長。
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。趣味は釣りとガーデニング。 著書に『いちいち気にしない心が手に入る本:何があっても「受け流せる」心理学』(三笠書房)、『「人たらし」のブラック心理術』(大和書房)、『世界最先端の研究が教える新事実 心理学BEST100』(総合法令出版)、『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(明日香出版社)、『羨んだり、妬んだりしなくてよくなる アドラー心理の言葉』(ぱる出版)など多数。その数は250冊を超える。
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