本記事は、内藤 誼人氏の著書『人間関係に悩まなくなるすごい心理術69』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

Happy freelancer communicating with colleagues on lunch break at work.
(画像=Drazen / stock.adobe.com)

苦手な相手の懐に飛び込んでみる

東レの同期トップで取締役になった佐々木常夫さんは、その著書『決定版 出世のすすめ』(角川新書)の中で、最初に営業部に配属された新人時代のことを語っています。

佐々木さんの上司は、佐々木さんがもっとも苦手とするタイプ。そこで佐々木さんは一計を案じ、上司に2週間に1度、2人だけで30分のミーティングを持つことを強引に認めさせました。

報告や連絡などは2週間に1度まとめてやらせてもらえれば、残りの日は上司とやりとりしないですむという作戦です。佐々木さんは、なかなか策士のようですね。苦手なタイプだからと上司を敬遠するのではなく、その懐に飛び込んでみたわけです。

1年後、その上司はマーケティング部門の部門長として異動していきました。佐々木さんはホッと胸をなでおろしたことでしょう。ところが喜んだのもつかの間、4か月後には佐々木さんはまたしてもその上司に呼び寄せられたのです。

しかたがないので同じようにミーティングの時間を持ってもらいました。そうこうするうちに、その上司はプラスチック事業部門長として転出していきました。佐々木さんは、「やれやれ」という感じだったでしょう。けれども解放されたと思って3か月後には、またしても佐々木さんはその上司に呼び寄せられたのです。つまり、佐々木さんはその上司にすっかり気に入られていたのです。

佐々木さんは、自分が東レで出世できたのは、その上司のおかげであると述べています。なにしろ、その上司はその後副社長にまでいったのですから。

たいていの人は、苦手な人からはとにかく逃げまくろうとします。

けれども、苦手な人を避けているだけでは、事態は何も改善されません。では、どうすればいいのかというと、佐々木さんのように勇気を振り絞って相手の懐に飛び込んでみるのです。すると意外に簡単にうまくいってしまうこともあります。

フロリダ国際大学のマリー・レヴィットは、343人の回答者に「困った人間関係を過去5年以内に経験しましたか?」と聞くと、男性の66.1%、女性の72.6%が「イエス」と答えました。

次にレヴィットは、どうやって困った人に対処したのかを聞いてみたのですが、「その人を避ける」というやり方はそんなによい対処法でもないことがわかりました。一番の対処法は、「相手に話しかける」だったのです。

嫌いだからと逃げまくるのではなく、むしろ自分から積極的に話しかけることで事態が打破できることはよくあります。

「この人苦手なんだよな…」という人には、どんどん話しかけたほうがいいですよ。話しかけられれば相手も嬉しいでしょうし、話しているうちに自分の中にある嫌悪感なども薄らいでいきますから。

食事をシェアしてみる

だれにとっても苦手な人の1人や2人はいるものです。「あの人だけはちょっと肌が合わない」という人は、だれにでもいるはずです。

苦手な人から逃げまくることができればいいのですが、職場の上司だったり、お隣さんであったり、同じ委員会や自治会のメンバーだったりして、顔を会わせなければならない状況というのもよくあります。

こんなときには、どうすればいいのでしょうか。

やはり、相手の懐に飛び込む作戦が有効です。

ひとつの方法は、苦手な人を誘って、一緒に食事をしてみること。

「えっ!?」と思われるかもしれませんが、一緒に食事をすることは相手に対する嫌悪感を払拭し、親しみを感じるための優れた方法なのです。

ただの食事ではなくて、できればお互いにひとつの料理をシェアできるものがいいでしょうね。「同じ釜の飯を食った仲」という言葉もあるように、ひとつの料理をシェアすると、人間関係の絆というものは大いに深まるものなのです。

コーネル大学のケイトリン・ウーリーは、お互いに面識のない同士をペアにして、「食事が交渉に与える影響」というインチキな名目の実験に参加してもらいました。

参加者はまず、中華料理のような同じお皿で料理をシェアする条件か、別々のお皿で個別に食べるのかの条件にわけられ、トルティーヤ・チップス(トウモロコシのトルティーヤを揚げた料理)を食べてもらいました。

それから、労働者側と経営者側にわかれて賃金交渉をしてもらいました。労働者側にはストライキをする権利がありましたが、どれくらいの日数ストライキをするつもりかと尋ねると下のグラフのような結果になったのです。

人間関係に悩まなくなる心理術69
(画像=人間関係に悩まなくなる心理術69)

料理をシェアした後では、ストライキをするにしても8.72日しか行いませんでした。それだけ歩み寄ったというか、協力的になっていることがわかります。

「嫌いな人と食事をするなんて…」と思うかもしれませんが、一緒に食事をするのは親しくなるのにとても有効なやり方ですので、ぜひお試しください。

人間関係に悩まなくなる心理術69
内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長。
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。趣味は釣りとガーデニング。 著書に『いちいち気にしない心が手に入る本:何があっても「受け流せる」心理学』(三笠書房)、『「人たらし」のブラック心理術』(大和書房)、『世界最先端の研究が教える新事実 心理学BEST100』(総合法令出版)、『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(明日香出版社)、『羨んだり、妬んだりしなくてよくなる アドラー心理の言葉』(ぱる出版)など多数。その数は250冊を超える。
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