世の中には天才投資家と呼ばれる人がいます。大手証券会社の有名トレーダーや、雑誌やインターネットで話題の投資家、誰もがその名を知るような投資家まで、程度の差はあれ、その運用実績は目覚しいものがあります。そうした天才投資家の元には、その投資手法を学ぶ為の出版依頼が殺到したり、多額の運用資金が集まったりといった事が起こります。

では、こうした「天才」と呼ばれる投資家全てが本当に天才なのでしょうか。もしかしたら、その中には「単なる強運の人」が紛れているかもしれません。

【参考】

投資家向けメディアリテラシーvol.1〜マーケットは“真実”ではなく“情報”によって動く〜
投資家向けメディアリテラシーvol.2〜メンタルコントロールの重要性〜
投資家向けメディアリテラシーvol.3〜情報収集のポイント〜
投資家向けメディアリテラシーvol.4〜投資家にとって真に必要な情報とは何か?〜
投資家向けメディアリテラシーvol.5〜投資家に一番大切なこと〜
シンガポールのプライベートバンカーに学ぶ投資対象の選び方と資産配分の考え方


◉本議論における「投資の天才」


一般的にどれほどの運用成果をあげた人が「投資の天才」と呼ばれるかについての適切な定義は無いですし、私にその定義を与える力もありません。

しかし、本稿で「強運の人」と比較する為には便宜上「天才の投資成果」を決めなければいけません。そこで仮に、投資成果を「一定期間について特定の株の株価が上がるか下がるかを的中したか」として、1ヶ月に1度運用し、株価の上下を2年(24ヶ月)以上連続で的中させ続けた人と定義してみましょう。




◉その投資成果は「運」か「実力」か


さて、24回連続株価の変化を的中させた本稿での「投資の天才」ですが、この投資成果はどのくらい凄いものでしょうか。もしランダム(例えばコインを投げた時の裏表)で予想した場合を考えると、24回連続で的中させるわけですから、2の24乗で、

2 ^ 24 = 16,777,216

つまり、勘でやれば1677万7216分の1という驚異的な確率で株価の上下を的中させたという事になります。(ジャンボ宝くじの一等当選確率が約1000万分の1と言われたりするので、それ以上に低い確率です。)もし、(手数料などは考慮せず)複利運用を行って毎月3%の利益を24ヶ月連続で出していたとすれば、2年間で元手を約200%にするという市場平均を遥かに上回る運用成績になります。

こういう確率の投資に成功した人が現れると、「きっと何か投資を成功させる素晴らしい方法があるはずだ」と思い、「そんな方法を見つけ出した人はきっと天才だ」と思う人は少なくないでしょう。

しかし、ここで一歩引いて考えてみて下さい。この投資成果が極めて優れたものである事に疑いは無いですが、その成果をもたらした「確実な手法」があるかについては慎重にならなければいけません。




◉じゃんけん大会の優勝者は「じゃんけんの天才」だろうか


先日、AKB48のじゃんけん大会が行われ、松井珠理奈さんが優勝しましたが、そんな彼女は「じゃんけんの天才」でしょうか。本稿の例で言えば、トーナメント方式のじゃんけん大会を開催したとして、「24回じゃんけんに勝てば優勝出来る(あいこは無し)」というルールを設定したとしましょう。この場合、優勝者は必ず1人いて、優勝する確率は勿論1677万7216分の1になります。

さて、貴方はこのじゃんけん大会で24連勝して優勝した人を「じゃんけんの必勝法があるに違いない」とか「じゃんけんの天才だ」と思いますか?勿論、不正を行えば必ず勝てる方法があるかもしれませんが、そうではない限り、じゃんけん大会の優勝者は一般的に「強運の持ち主」としか思われないでしょう。