4月30日の日銀の金融政策決定会合で追加緩和について何らかの発表があるのではないか。そんな臆測が流れていた。しかし、この日の東京市場の寄り付きは2万円を大きく割り込んだ。
前日に米国連邦準備制度(FRB)が景気判断を引き下げた事やGDPの速報値が市場予想を大きく下回る結果を受けて米国株が反落したことが売りを誘った。その後も積極的な売買が手控えられたのは、金融政策決定会合の結果を見極めたいとの思惑からだった。
午後1時過ぎ、その結果が「現状維持」と発表されて日経平均は一段安となり、前場の安値をあっさりと下回ったことに加え、日経先物にもテクニカル的な売りが入り、日経平均の下げ幅は500円を超えた。マーケットは日銀の追加緩和をめぐり右往左往する結果になった。
なぜ追加金融緩和観測が流れたのか
黒田東彦日銀総裁が最も重視しているのは予想物価上昇率の引き上げだ。予想物価上昇率について量的・質的金融緩和の「核となるメカニズム」とまで指摘している。14年10月に追加緩和に踏み切った際、原油価格の急落により予想物価上昇率が低下するおそれがあった。黒田総裁は「デフレマインドからの転換が遅れる懸念があった」と表明している。
そして今、政策委員の物価見通しは年度の平均値で、原油価格の緩やかな上昇を前提として消費者物価も年度後半にかけて上昇率が高まると見込んでいる。足元の原油相場は反転しつつあり、日銀の想定に近い形で推移。株価も既に一時2万円台を突破するなど大きく上昇しており、大企業を中心に賃金のベアアップが実施されている現状では、冷静に考えて追加緩和は必要とは思えない。
安倍晋三首相の経済ブレーンで内閣官房参与を務める浜田宏一・米イエール大名誉教授もロイター通信のインタビューで、足元で物価上昇率が鈍化を続ける中での日銀による追加緩和について「今すぐ必要なわけではない」と述べている。また、本田悦郎内閣官房参与も、国内経済が「オーバーヒート」しないよう日本銀行は追加金融緩和を当面控えるべきとの見方を示していた。
一方で、同じく安倍首相の経済政策ブレーンとして知られる自民党の山本幸三衆院議員は「何もしないという話はちょっとあり得ない」と述べ、追加金融緩和に含みを持たせる発言をしていたのだ。
マーケットはその発言を無視できず、株価上昇に勢いを付けたい証券会社なども追加金融緩和観測を囃し立てたことで、必要以上に追加金融緩和に対する期待感が高まった。
追加金融緩和で何ができたのか
では、仮に日銀が追加金融緩和に踏み切った場合、どのような手段を講じることができただろう。既に日銀は量的・質的金融緩和として、国債を年間80兆円、株価指数連動型上場投資信託(ETF)を3兆円、不動産投資信託(REIT)を900億円のペースで買い入れている。果たして日銀は現実問題として更なる買入を発表することができたのだろうか。
14年10月の追加緩和の決定後、日経平均株価は当日を含め2日間で1200円以上も上昇した。日経平均2万円突破に沸く証券業界は、追加金融緩和に大きな期待を寄せる一方、すでに超低金利で利ざやを確保できなくなっている銀行からは恨み節すら聞こえてくる。
金融緩和は円安・株高に伴う含み資産の増加、景気浮揚というプラス効果をもたらしたが、国債市場の機能低下などの副作用も起きている。もはやこれ以上の金融緩和はどれだけの副作用が発生するのか、誰も想像することができない。
中央銀行総裁はマネタリーシャーマン
ある文化人類学者は中央銀行の近年の最大の仕事が、市場や公衆の予想に働きかけることになっている状況を見て、「言葉の経済」と命名した。その分析に共鳴した記者は現代の中央銀行総裁は「マネタリー・シャーマン」だと書いた。
「シャーマン」とは、超自然的な存在と交信して人々に「お告げ」を伝える呪術師だ。現在のマーケットはイエレンFRB議長やドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁、そして黒田日銀総裁の「お告げ」を予想し動いている。米国の利上げタイミング、ヨーロッパのデフレ対応、日銀の追加金融緩和について彼らの言動に一喜一憂している。
それはもはや金融政策が手詰まりに陥っているからにほかならないのではないだろうか。今回の日銀の追加金融緩和に踏み切るかどうかをマーケットは固唾をのんで見守っていた。それはまさに公衆が「お告げ」の内容に右往左往する姿そのものだった。
日銀の追加金融緩和がいつ行われるのかを予想することは無意味だ。誰も知らないお告げを中央銀行総裁のみが知っていることが、黒田総裁を「マネタリーシャーマン」たらしめているのだ。(ZUU online 編集部)
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