ヨーロッパを旅して感じた「人それぞれの価値観」

卒業後は東京に出て一人暮らしを始め、調理師学校に通いながら、いくつもアルバイトを掛け持ちました。そして、飲食店を出すためにも最高峰の場所で働きたいと考え、学校修了後は表参道にあるフランス料理店で修行させてもらうことにしました。お店に行き、「お金はいらないので、ここで働きたい」と直談判したんです。

朝の6時から夜の12時まで、毎日働く生活。仕事自体は新しいことにどんどん挑戦できて楽しかったのですが、働き始めて4ヶ月ほどで身体を壊してしまいました。

また、そのレストランは超高級店で、友達を呼べるようなお店ではありませんでした。そのため、どんなに美味しい料理でも、お金が無ければ食べられないことに違和感も持っていたんです。そこで、身体を壊したのを機にお店を辞め、誰でも手軽に食べられる料理を提供したいと思い、ヨーロッパの家庭料理を学ぶ旅に出たんです。

貧乏旅だったので、道中は過酷でした。泊まるお金もないので、ひたすら人の家に泊めてもらったり、野宿をしました。馬小屋に泊まらせてもらうこともあるほどでした。時には子どもたちとサッカーをして仲良くなり、「今日泊めてくれない?」と頼むんです。そして、家に連れて行ってもらい、日本食を作ってあげたりして。そんな生活だったので、当初の目的だった家庭料理はあまり学べませんでしたね。

しかし、ヨーロッパの国々では、日本で見てきたものとは全く違った働き方を目の当たりにしました。スペインでは、毎日お昼の時間には一度家に帰って来て、2時前に午後の仕事に行ったと思えば4時頃には帰ってくる様な生活。何のために働くのかと聞けば、「家族のため」と「遊ぶため」と返ってくる。

また、楽しそうに仕事をしている人にたくさん会いましたね。そんなみんなに共通しているのは、仕事にプライドを持っていることでした。そして、経営者も自分よりも従業員への還元を考えている人ばかりだったんです。

その姿を見ていくうちに、「価値観は人によって違っていいんだ」と気づくことができました。お金のために働くんじゃなくて、自分の好きなことをやる。それが自分の目指したい生き方だと思えたんです。また、飲食店を経営したい気持ちも少しニュアンスが変わり、個人店ではなく、従業員を雇う形でお店を持ちたいと考えるようになりました。