ネットの国内資金需要が縮小(企業と政府の支出する力が弱くなる、総賃金縮小)・家計貯蓄率低下という形から、ネットの国内資金需要が拡大(企業と政府の支出する力が強くなる、総賃金拡大)・家計貯蓄率上昇へ変化し、家計のファンダメンタルが修復してきた。

富の移転が、家計から企業へという内需低迷の形から、企業から家計へという内需拡大の形に変化してきた。家計の貯蓄率は1%程度から5%程度に上昇してきていた。

しかし、家計には再び試練が待っていた。ネットの国内資金需要の水準は維持されていたが、家計の貯蓄率は再び3%程度までの若干の低下となってしまい、デカップリングが起きてしまった。2011年の東日本大震災後に原発が停止し、燃料輸入のコストが大幅に増加した負担を家計が背負っていたこと、そして2014年4月の消費税率引き上げも追加的な負担になっていたことを意味する。

貯蓄・投資バランスで、ネットの国内資金需要と家計の貯蓄率の和である国際経常収支の縮小分は、燃料コストの増加による所得の海外移転であり、家計の富の蓄積が減少したことを意味する。消費税率引き上げは分かりやすいが、燃料輸入のコストの上昇の負担も、最終的にほとんどが家計が背負ってきていたことが確認できる。

この大きな負担によるファンダメンタルズの回復の遅れが、家計が景気回復を実感できなかった一つの理由であると考えられる。消費の回復が弱かった理由は、家計は消費を拡大する前に、低下してしまっていた貯蓄率が十分に上昇するまでファンダメンタルズを修復しなければならなかったからだと考えられる。

現在、家計の試練は終わりつつある。原油価格の大幅下落などにより、交易条件は大幅に改善してきている。交易条件(輸出デフレーター/輸入デフレーター)は2013年10-12月期の前年同期比-3.6%から2015年1-3月期の同+9.6%へ大幅に改善し、更に改善幅は拡大するとみられる。国際経常収支も2014年1月の0.66兆円の赤字まで悪化してきたが、2015年3月には2.1兆円まで改善した(直近の5月も1.6兆円と強い)。

結果として、企業から家計への富の移転が続いている上に、燃料コストの増加による所得の海外移転が大幅に縮小してきているため、家計の貯蓄率は2014年7-9月期の2.7%から2015年1-3月期には5.2%までV字回復を遂げている。家計のファンダメンタルズの修復は既に終わり、今後の総賃金の拡大の大部分は消費に回ってくると考えられ、内需拡大を後押しするだろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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